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本編
*第1話
しおりを挟む「やらやらぁあ!もうやめでっんぅう!?」
自分でも聞いたことのない声が塞ぎきれない唇から漏れる。
頭では何も考えられなくて、ただ肌に触れる床の大理石の冷たさが心地いい。
呂律は上手く回らず、涙で歪んで見えない目の前がゆっくりと暗くなり始めた。
あれ__俺何してるんだっけ…
最後に見えたのは、暗闇に無数に浮かび上がる不気味な仮面だった。
「はぁ、またか…」
テーブルの上に新しく放り投げられた借用書を手にして、俺は深くため息をつく。
母が死んで、飲んだくれのギャンブラーへと成り果てた父親は毎日どこからか新しい借用書を持ち帰ってくる。
朝は新聞配達員、夜はゲイバーのバーテンダーとして毎日あくせく働いても、借金は減るどころか増え続けるばかりだ。
昼は特待生として大学に通っているものの、最近はバイトばかりでろくに勉強できていない。
つい先日『特待生費用免除』の破棄警告を教授から言い渡されたことを思い出し、俺はまた大きくため息をついた。
「いっそのこと臓器の1つでも売ってみるか…?」
自嘲気味にそんなことを呟くと、後ろからガチャリと玄関の開く音が聞こえて慌ててふりかえる。
「おかえり父さん…」
「なんだァ?先に帰ってたのか。まぁいい、今日は良いもん持って帰ってきてやったんだ。座れ座れ」
そう言って父はビニール袋から箱を取り出し、ビール缶を開けながら俺の目の前に置く。
箱を開けると、普段ならば目にすることない高そうな寿司が綺麗に詰められていた。
「これ、どうしたの?もしかしてまた生活費から…」
「ちげーよ、アレだアレ。ほら、知り合いから貰ったんだ。普段からお前には頑張ってもらってるからな。俺はいいから、早く食え。」
荒れ果てた父が何か買ってくるなんて初めてで疑わしく思いながらも、昼ご飯を抜いて腹ぺこだった俺は気にすることなく箸を取る。
1時間後にはバーのバイトが入っていたし、そろそろ何か食べないと体力的に持ちそうにない。
「いただきます。…っ、美味しい!」
脂ののったサーモンを口に運ぶとジュワッと口の中でとろけ、俺は思わず声に出してしまっていた。
こんな美味しいものを食べるのはいつぶりだろう…。
幸せを噛み締めるようにゆっくり食べようとするも俺の箸は止まらず、ペロリと簡単に完食してしまった。
「どうだ、美味かっただろ。今日からお前には頑張って貰わないといけねーからな」
今日から?
その言葉に少し違和感を覚えるも、バイトの事を思い出して俺はすぐに片付けをはじめる。
「じゃあ俺、バイト行ってくるから」
「何言ってんだ、バイトなんて行かなくていいんだよ」
どういうことだ…?
異変を感じるのと同時に、少しずつ足に力が入らなくなっていることに気づく。
やばいと思って逃げようとしても身体を上手く動かせず、壁に肩をぶつけてそのまま床に倒れ込んだ。
「お前にはもっと割のいい仕事してもらうんだからな」
そう言って唇を三日月に歪め笑う父を見て、やっぱりアイツなんか信用するべきじゃなかったなんて今更思いながら俺は意識を手放した。
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