こぼれ水

音吉

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こぼれ水

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銭湯に行った。
浴場に入ると刺青が背中にびっしり入った大男とすれ違い、心当たりのないドキドキが俺を襲った。
体を洗って湯に浸かると、ちょうどいい温度によって体がふやけ心の内側にある寂しさがが漏れ出てしまったような気がした。
からだが温まってきたのでサウナに向かった。扉を開けると2畳程の狭いサウナに背中に刺青の入った大男とその舎弟のような男が既に所狭しと並んでいたが最後の1席に構わず座った。普段なら入るのをためらってしまうが、この時の俺は霹靂の勇気に溢れていた。椅子に座ると、扉を開けたことによるサウナ室内の温度低下が足元に巡ったが、顔だけは暑く、思考がゆらめくうちにすっかり暑くなってきた。俺は導かれたように腕を組み、猫背になっていた。そのことに気が付き顔を上げ2人を見ると、その2人もまた腕を組み、猫背になっていた。今後関わることがないであろう刺青の厳つい大男も同じ人間だという事実をより濃く残しそれがかげろうと共にふわりと飛び立った。
10分間くらいサウナにいただろうか。その後冷水に飛び込み、1つしかないイスに座り大浴槽から溢れるお湯をただ眺めていた。その時にまた心の内側にある寂しさがこぼれていく感覚とともに涙が筋になって流れた。この涙が目尻から出たのか目頭から出たのか僕には分からなかった。
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