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第1章:過去の残響(リバーブ・オブ・ザ・パスト)
第2話:止まった実験室 Part 2
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「……また来たのか、ってどういう意味だ?」
悠が問うと、九条蓮は振り返りもしなかった。
彼の視線は、動かぬ時計と、同じ動作を繰り返す研究員たちに向いている。
その指先がわずかに震えていた。
「ここは、過去の記録じゃない。――時間の“残響”だ。」
低く落ち着いた声。
「残響……?」
奏が前に出る。
白衣の裾が、照明の光を受けてわずかに揺れた。
「25年前、時間制御実験が行われた。この施設――“TIME-LAB25”でね。」
「時間制御……?」
「“時間を25分だけ止める”実験。それが始まりだったの。」
九条がゆっくりこちらを見た。
その瞳は氷のように冷たく、けれどどこか遠い。
「止めたはずの時間が、俺たちを閉じ込めた。観測する側が“観測される側”になったんだ。」
室内の空気がわずかに震えた。
誠が息を呑む。
「じゃあ、あんた……25年前からここに?」
九条は静かに頷いた。
「外の世界ではそうだろう。だが俺にとっては、数年にも満たない。」
沈黙。
悠の背筋を冷たい汗が伝う。
彼の脳裏に、封印された父の手記の一節が蘇った。
“アークラインの25階には、時間が反転する層がある。
そこに触れてはならない。”
そのとき、室内の中央にある端末が突如として青白く光り出した。
ノイズ混じりの映像が映し出される。
映像――。
実験服を着た男女が、装置の前で笑っている。
「これで25層目だ、成功するぞ」
カメラの奥から、若い声が響く。
次いで映し出されたのは、若い女性研究員。
彼女の顔立ちは――奏に酷似していた。
「理久さん、本当に安全なんですか?」
「大丈夫だよ、如月。25分だけだから。」
(如月……)
悠は息を呑む。
画面の名札には「如月 奈津」「如月 雄大」とあった。
――奏の両親だ。
「やっぱり……」
奏の声が震える。
「母と父は、この実験に関わっていた……」
映像の端に立つ人物――御堂理久。
若く、どこか狂気を孕んだ瞳で、記録装置に向かって言う。
「時間の外に意識を置けば、人は死を超える。
――神に、近づけるんだ。」
その言葉の直後、映像が白く弾け、時計の針が止まる瞬間が映る。
11時35分。
それが“あの日”だった。
奏が端末に手を伸ばすと、音声が復元された。
「――カナデ、もしこれを聞いているなら……」
「あなたは、“時間の鍵”として――」
ブツン。音声が途切れる。
奏は固まったまま唇を噛み締めた。
「“時間の鍵”って……どういうこと?」
九条が低く言う。
「25階の粒子――“時空同期素子”のことだ。人間の神経と量子時計を同期させる装置。如月夫妻はそれを……胎児に応用した。」
悠は息を呑む。
「つまり……君は、生まれる前から被験者だったってことか。」
奏は震える声で言った。
「私の身体が、“25階の記憶”を持っている……?」
「そうだ。君はこの階層に“呼ばれた”んだ。
25年前に閉じた回路が、君の存在を感知した。」
九条の視線が悠に向く。
「君もまた、この施設と関係があるな。」
「……俺の父が、下層制御班にいた。
“事故で死んだ”と聞かされていたけど……本当は……?」
九条は短く頷いた。
「彼は御堂の暴走を止めようとした。だが間に合わなかった。」
沈黙。
冷たい空気が、研究室を満たしていく。
奏が、拳を握りしめて言った。
「……25年前のあの日を、終わらせるために。私はここへ来たの。」
九条の瞳が、わずかに揺れた。
「終わらせる……その言葉を、何度聞いただろうな。」
「え?」
「いや、なんでもない。」
ほんの一瞬、彼は微笑む。
それは何百回ものループを越えた者だけが見せる――疲れ果てた微笑。
そして、彼は静かに背を向けた。
「――25階の扉は、あと四つ。
次に見るのは、“未来”の残響だ。」
壁の奥で何かが起動する音がした。
重低音のような振動が床を伝い、白い光がゆっくりと彼らを包み込んでいく。
悠が息を呑む。
(これが……“次の階層”への扉――)
光が走り、時間が再び反転した。
悠が問うと、九条蓮は振り返りもしなかった。
彼の視線は、動かぬ時計と、同じ動作を繰り返す研究員たちに向いている。
その指先がわずかに震えていた。
「ここは、過去の記録じゃない。――時間の“残響”だ。」
低く落ち着いた声。
「残響……?」
奏が前に出る。
白衣の裾が、照明の光を受けてわずかに揺れた。
「25年前、時間制御実験が行われた。この施設――“TIME-LAB25”でね。」
「時間制御……?」
「“時間を25分だけ止める”実験。それが始まりだったの。」
九条がゆっくりこちらを見た。
その瞳は氷のように冷たく、けれどどこか遠い。
「止めたはずの時間が、俺たちを閉じ込めた。観測する側が“観測される側”になったんだ。」
室内の空気がわずかに震えた。
誠が息を呑む。
「じゃあ、あんた……25年前からここに?」
九条は静かに頷いた。
「外の世界ではそうだろう。だが俺にとっては、数年にも満たない。」
沈黙。
悠の背筋を冷たい汗が伝う。
彼の脳裏に、封印された父の手記の一節が蘇った。
“アークラインの25階には、時間が反転する層がある。
そこに触れてはならない。”
そのとき、室内の中央にある端末が突如として青白く光り出した。
ノイズ混じりの映像が映し出される。
映像――。
実験服を着た男女が、装置の前で笑っている。
「これで25層目だ、成功するぞ」
カメラの奥から、若い声が響く。
次いで映し出されたのは、若い女性研究員。
彼女の顔立ちは――奏に酷似していた。
「理久さん、本当に安全なんですか?」
「大丈夫だよ、如月。25分だけだから。」
(如月……)
悠は息を呑む。
画面の名札には「如月 奈津」「如月 雄大」とあった。
――奏の両親だ。
「やっぱり……」
奏の声が震える。
「母と父は、この実験に関わっていた……」
映像の端に立つ人物――御堂理久。
若く、どこか狂気を孕んだ瞳で、記録装置に向かって言う。
「時間の外に意識を置けば、人は死を超える。
――神に、近づけるんだ。」
その言葉の直後、映像が白く弾け、時計の針が止まる瞬間が映る。
11時35分。
それが“あの日”だった。
奏が端末に手を伸ばすと、音声が復元された。
「――カナデ、もしこれを聞いているなら……」
「あなたは、“時間の鍵”として――」
ブツン。音声が途切れる。
奏は固まったまま唇を噛み締めた。
「“時間の鍵”って……どういうこと?」
九条が低く言う。
「25階の粒子――“時空同期素子”のことだ。人間の神経と量子時計を同期させる装置。如月夫妻はそれを……胎児に応用した。」
悠は息を呑む。
「つまり……君は、生まれる前から被験者だったってことか。」
奏は震える声で言った。
「私の身体が、“25階の記憶”を持っている……?」
「そうだ。君はこの階層に“呼ばれた”んだ。
25年前に閉じた回路が、君の存在を感知した。」
九条の視線が悠に向く。
「君もまた、この施設と関係があるな。」
「……俺の父が、下層制御班にいた。
“事故で死んだ”と聞かされていたけど……本当は……?」
九条は短く頷いた。
「彼は御堂の暴走を止めようとした。だが間に合わなかった。」
沈黙。
冷たい空気が、研究室を満たしていく。
奏が、拳を握りしめて言った。
「……25年前のあの日を、終わらせるために。私はここへ来たの。」
九条の瞳が、わずかに揺れた。
「終わらせる……その言葉を、何度聞いただろうな。」
「え?」
「いや、なんでもない。」
ほんの一瞬、彼は微笑む。
それは何百回ものループを越えた者だけが見せる――疲れ果てた微笑。
そして、彼は静かに背を向けた。
「――25階の扉は、あと四つ。
次に見るのは、“未来”の残響だ。」
壁の奥で何かが起動する音がした。
重低音のような振動が床を伝い、白い光がゆっくりと彼らを包み込んでいく。
悠が息を呑む。
(これが……“次の階層”への扉――)
光が走り、時間が再び反転した。
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