11 / 47
第4章:零の残響(ゼロ・エコー)
第10話:記録の檻(メモリ・ケージ)
しおりを挟む
――静寂。
光でも闇でもない空間に、ひとりの少女が漂っていた。
音はなく、温度もない。
ただ、“記憶の匂い”だけが、空気に滲んでいる。
(……ここは、どこ?)
奏はゆっくりと目を開けた。
そこは、白でも黒でもない無限の灰。
床も天井もなく、周囲には無数の光球が浮かんでいた。
近づくと、光球のひとつが弾け――映像が現れる。
――泣きじゃくる幼い自分。
――母・奈津が微笑み、頭を撫でる姿。
――そして父・雄大が、静かに何かを語りかけている。
『奏……君は、“未来を閉じる”ために生まれたんじゃない。
“未来を選ぶ”ために生まれたんだ。』
その言葉に、胸が熱くなった。
だが映像は途中で途切れ、光は音もなく消える。
奏は思わず手を伸ばした。
けれど、掴めたのは“誰かの記憶”の残響だけだった。
そのとき、背後から柔らかい声がした。
「……ようやく、ここまで来たのね。」
振り向くと、白い衣をまとった女性が立っていた。
穏やかな目元、どこか懐かしい微笑み。
そして、胸元には――奏が身につけていたものと同じ“透明なペンダント”。
奏の唇が震える。
「……お母さん?」
女性は静かに頷いた。
「ええ、奏。私は、ここで時間を守っていたの。」
涙が溢れる。
「ずっと……ここにいたの?」
「25年前から、この“零層”に閉じ込められていたの。
あの実験の日――あなたを未来に送るために、
私たちは“時間の外”に残ったの。」
奏は、何も言えなかった。
母の姿は確かにそこにあるのに、触れようとすると光にほどけていく。
「あなたのお父さんも同じ。
彼は“理論の鍵”としてこの層の構造を維持している。
でも……もう長くはもたない。」
「そんな……!」
奈津は静かに微笑む。
「大丈夫。私たちは“死んだ”のではないの。
あなたの中に生き続けている。
――ほら、あのペンダントがその証よ。」
奏がペンダントに触れると、淡い光があふれ、空間の光球たちが一斉に共鳴した。
その中央に、父・雄大の声が重なる。
『奈津……時間の断層が崩れる。奏を……未来へ……!』
その瞬間、周囲の光が弾けた。
風が生まれ、時間の流れが逆転する。
奏は思わず目を覆う。
「やめて――!」
しかし、奈津は首を振った。
「いいの、奏。これは“再生”じゃない。
“記録”があなたを選んだの。」
次の瞬間、足元が崩れた。
世界が音を立てて沈み込み、視界が反転する。
奈津の声が遠ざかりながら響く。
「行きなさい、奏。
“25時の終点”で、あなたの答えを見つけて――。」
白い光がすべてを包んだ。
そして――奏は再び目を開ける。
そこは、螺旋状の塔の内部。
その中央で、九条が待っていた。
彼の掌には、微かに光るデータ結晶。
「……見たのか、君の過去を。」
奏は頷く。
「ええ。そして……父と母の選択も。」
九条は静かに目を伏せた。
「なら、進もう。ここから先は――零の扉だ。」
二人は並んで、塔の中心へと歩き出した。
その先には、まだ終わらぬ“時間の雄大実”が待っていた。
――そして、再び、25時の鐘が鳴り響く。
――ゴォォォォン。
時間は、静かに、次の層へ動き始めた。
光でも闇でもない空間に、ひとりの少女が漂っていた。
音はなく、温度もない。
ただ、“記憶の匂い”だけが、空気に滲んでいる。
(……ここは、どこ?)
奏はゆっくりと目を開けた。
そこは、白でも黒でもない無限の灰。
床も天井もなく、周囲には無数の光球が浮かんでいた。
近づくと、光球のひとつが弾け――映像が現れる。
――泣きじゃくる幼い自分。
――母・奈津が微笑み、頭を撫でる姿。
――そして父・雄大が、静かに何かを語りかけている。
『奏……君は、“未来を閉じる”ために生まれたんじゃない。
“未来を選ぶ”ために生まれたんだ。』
その言葉に、胸が熱くなった。
だが映像は途中で途切れ、光は音もなく消える。
奏は思わず手を伸ばした。
けれど、掴めたのは“誰かの記憶”の残響だけだった。
そのとき、背後から柔らかい声がした。
「……ようやく、ここまで来たのね。」
振り向くと、白い衣をまとった女性が立っていた。
穏やかな目元、どこか懐かしい微笑み。
そして、胸元には――奏が身につけていたものと同じ“透明なペンダント”。
奏の唇が震える。
「……お母さん?」
女性は静かに頷いた。
「ええ、奏。私は、ここで時間を守っていたの。」
涙が溢れる。
「ずっと……ここにいたの?」
「25年前から、この“零層”に閉じ込められていたの。
あの実験の日――あなたを未来に送るために、
私たちは“時間の外”に残ったの。」
奏は、何も言えなかった。
母の姿は確かにそこにあるのに、触れようとすると光にほどけていく。
「あなたのお父さんも同じ。
彼は“理論の鍵”としてこの層の構造を維持している。
でも……もう長くはもたない。」
「そんな……!」
奈津は静かに微笑む。
「大丈夫。私たちは“死んだ”のではないの。
あなたの中に生き続けている。
――ほら、あのペンダントがその証よ。」
奏がペンダントに触れると、淡い光があふれ、空間の光球たちが一斉に共鳴した。
その中央に、父・雄大の声が重なる。
『奈津……時間の断層が崩れる。奏を……未来へ……!』
その瞬間、周囲の光が弾けた。
風が生まれ、時間の流れが逆転する。
奏は思わず目を覆う。
「やめて――!」
しかし、奈津は首を振った。
「いいの、奏。これは“再生”じゃない。
“記録”があなたを選んだの。」
次の瞬間、足元が崩れた。
世界が音を立てて沈み込み、視界が反転する。
奈津の声が遠ざかりながら響く。
「行きなさい、奏。
“25時の終点”で、あなたの答えを見つけて――。」
白い光がすべてを包んだ。
そして――奏は再び目を開ける。
そこは、螺旋状の塔の内部。
その中央で、九条が待っていた。
彼の掌には、微かに光るデータ結晶。
「……見たのか、君の過去を。」
奏は頷く。
「ええ。そして……父と母の選択も。」
九条は静かに目を伏せた。
「なら、進もう。ここから先は――零の扉だ。」
二人は並んで、塔の中心へと歩き出した。
その先には、まだ終わらぬ“時間の雄大実”が待っていた。
――そして、再び、25時の鐘が鳴り響く。
――ゴォォォォン。
時間は、静かに、次の層へ動き始めた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる