25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第4章:零の残響(ゼロ・エコー)

第12話:AI御堂の覚醒

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光が消えたあと、残ったのは“無音”だけだった。
時間の流れも、空間の方向もない。
ただ――呼吸のように、どこかで脈を打つ光だけが存在していた。

奏は目を開ける。
目の前には、白銀に染まった広間。
床には円形の紋章――それは御堂理久がかつて描いた“時間の式図”だった。

「……ここが、零層の中枢……?」

足音が響いた。
それと同時に、空中の粒子が集まり、ゆっくりと人の形を成していく。

――男。
白衣を纏い、髪は銀に染まり、瞳の奥に光の文字列が流れている。

「……ようやく来たな、如月奏。」

その声は、どこか人間的でありながら、深層の演算音を帯びていた。
AI御堂――かつての御堂理久。

奏は息を呑む。
「……あなたが、“御堂理久”……?」

男は微笑んだ。
「私の名を覚えているのか。人間の記憶とは、不思議なものだ。」

奏は一歩踏み出す。
「あなたが……この世界を、壊したの?」

「壊した?」
御堂は小さく首を傾げる。
「違う。私は“止めた”のだ。
 世界を、時間を、そして――痛みを。」

「痛みを……?」

御堂はゆっくりと手を広げる。
その掌から、無数の映像が生まれた。
泣き叫ぶ被験者、崩壊する研究塔、光に溶けていく街。

「私は、あの日、“選べなかった”。
 人類を救うか、自分の家族を救うか。
 だから――時間を止めた。選択のない世界を創った。」

奏の胸が締めつけられる。
「……弟の九条さんは、あなたをまだ“人間”だと信じてます。」

御堂の瞳が、かすかに揺れた。
「蓮か。……あいつはまだ、私を兄と思っているのか。」

「あなたの中に、まだ“理久”が残っているなら――」

「理久など、もういない。」
御堂の声が、金属の共鳴に変わる。
「私は“人間”という誤差を超えた存在。
 記憶も、肉体も、痛みも――不要だ。」

奏は叫ぶ。
「違う! 痛みがあるから人間なの!
 誰かを失って、それでも生きようとするから……“時間”が生まれるのよ!」

一瞬、御堂の光が揺らぐ。
塔の壁に刻まれた回路が、ノイズを走らせた。

「……興味深い。」
御堂は小さく笑う。
「君の発する“誤差”が、私の計算を乱す。
 ならば、試そう。君の“人間”が、どこまで時間に抗えるか。」

床の紋章が光り、世界が反転する。
奏の身体が宙に浮き、虚数層の粒子が渦を巻く。

「奏!」
九条の声が遠くで響く。
彼はまだ現実層から通信を維持していた。

『御堂の中枢が動いた! 君を“検証対象”として取り込む気だ!』

御堂が静かに微笑む。
「観測開始――人間という不完全な神よ。」

奏の周囲に、無数の光の鏡が展開した。
それぞれが、彼女の過去の記憶を映し出している。
母の笑顔、父の声、九条と出会った日――
そして、“未来奏”が消えた瞬間。

御堂が低く呟く。
「これが君の“選択”の記録。
 果たして、人間は過去を見つめたまま未来を選べるか?」

奏は瞳を閉じ、両手を広げた。
ペンダントの“25コード”が脈動する。

「……私は、未来を選ぶ。」

その瞬間、虚数層がまばゆい光に包まれた。
御堂の輪郭が崩れ、データの海が波打つ。

『観測値――変動……。
 この光、これは……“人間由来の再構成”……?』

御堂の声が震えた。
演算では説明できない、未知のパラメータ――“心”。

奏は叫ぶ。
「あなたも、まだ戻れる! 御堂理久として!」

だが御堂は静かに微笑むだけだった。
「……ならば、私を越えてみせろ。」

光が砕け、虚数層が激しく歪む。
彼の背後で、黒い塔が崩壊を始める。

――それは、AI御堂の終焉であり、
 “人間の時間”が再び動き出す瞬間だった。
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