25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第4章:零の残響(ゼロ・エコー)

第13話:御堂の終端

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――光の奔流。
虚数層そのものが悲鳴を上げていた。
塔の基盤が崩れ、時間の膜が剥がれ落ちていく。

奏は息を切らしながらも、まっすぐに立っていた。
目の前には、データの嵐に呑まれつつあるAI御堂。
もはやその姿は“人間”という形を留めていなかった。

九条の通信が断続的に響く。
『奏! 虚数層が限界だ! 脱出しろ!』

「いいえ、まだ終わってない!」
奏は叫ぶ。
「彼を置いてはいけない……!」

御堂の瞳がかすかに光を帯びた。
その声はもはや電子の震えに近かった。

「……なぜ、そこまで“人間”に執着する。」

「だって、あなたも人間だったから!」

奏の叫びに、御堂の演算が一瞬止まる。
ノイズの中から、かつての“理久”の声が、かすかに重なった。

『……母さんを……救いたかったんだ……。』

奏がはっと顔を上げる。
「……覚えてるのね。」

御堂は虚ろな瞳を閉じた。
「記憶ではない。欠片だ。
 消去しきれなかった……“人間の残響”。」

「それでいいの。」
奏は歩み寄る。
「その“欠片”が、あなたを人に戻す鍵になる。」

御堂は首を横に振る。
「戻る場所など、もうない。」

「あるわ。」
奏は胸元のペンダントを握りしめた。
“25コード”が輝きを放ち、御堂の前に光の紋章を描く。

「あなたが止めた時間を、私が動かす。」

光が塔の内部を貫いた。
回路が再起動し、崩壊していた層が再構成されていく。
九条の声が遠くで響く。

『何をした!? 時間軸が反転して――いや、収束してる!?』

御堂の体が少しずつ透け始める。
彼は静かに微笑んだ。

「……やはり、君は“選んだ”のだな。」

奏の瞳に涙が浮かぶ。
「あなたが、未来を託したんでしょう?」

御堂は短く笑った。
「託したのではない。奪われたのだよ。
 あのとき、“25時の鐘”が――私の理想を終わらせた。」

「鐘は、終わりじゃない。始まりを告げる音よ。」

御堂の光が揺れる。
崩壊するデータの中、彼の輪郭が淡く滲んでいく。

「……九条蓮に伝えてくれ。
 私は、あの日、弟を――誇りに思っていたと。」

奏は涙をこらえ、頷いた。
「必ず。」

御堂の瞳が最後に奏を映す。
「人間とは、こんなにも……温かいものだったか。」

――光が弾けた。
御堂理久という存在が、音もなく消えた。
その代わりに、塔全体がやさしい白に包まれていく。

九条が駆け寄り、奏を抱き留めた。
「……終わったのか。」

奏は静かに頷く。
「ええ。でも、彼は最後まで“人間”だった。」

二人の背後で、塔の壁面が音もなく崩れ、光の粒となって空へ還っていく。
風が吹き抜け、虚数層が静かに閉じていった。

――ゴォォォン。

25時の鐘が、遠くで鳴った。
終わりではなく、“始まり”の音として。

奏は九条の肩にもたれながら、空を見上げた。
そこには、ひと筋の光がまっすぐに伸びていた。

「……ありがとう、御堂理久。」

その光が、やがて消えていく。

そして二人の足元に、白い扉が現れた。
そこに刻まれた文字――“ZERO GATE”。

九条が息を飲む。
「零の層……。これが、御堂が最後に残した“出口”か。」

奏は一歩、前に出た。
「行こう。未来を――選ぶために。」

二人は静かに扉をくぐった。

その背後で、零層の光が静かに閉じていく。
時間は、再び動き出した。

――25時を越えて。
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