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第5章:再構築者(リコンストラクター)
第14話:記録者の目覚め
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――無音。
温度も、時間の流れも存在しない場所で、篠原悠はゆっくりと目を開けた。
目の前には、幾枚もの光のスクリーンが浮かんでいた。
崩れ落ちる黒い塔、白い世界を渡る光、奏の横顔、九条の背――。
過去の出来事が、映像として静かに流れている。
「……これで二十五回目か。」
小さくつぶやき、胸ポケットから金属製のドライブを取り出す。
擦り傷だらけの外装。刻印には、RECON-25 の文字。
[RECON-25:ループ・アーカイブ/試行回数:24/25]
「……つまり、二十四回失敗して、残り一回分か。」
ドライブをスクリーンにかざすと、光が広がり、二本の波形が現れた。
ひとつは“世界の時間”、もうひとつは“個人の時間”。
重なるはずの二つが、わずかにずれている。
(これが……九条さんの言っていた“ズレ”か。)
悠は目を閉じる。
最初にこの塔へ来たときのことが、ふと頭をよぎった。
軽い興味で関わったはずが――本当は知っていた。
自分がこの“ループ”を何度も経験してきたことを。
そして、自分の役割が記録者(レコーダー)であり、再構築者(リコンストラクター)であることを。
[観測プロトコル:起動]
[再構成アルゴリズム:準備完了]
光のスクリーンがひとつ、勝手に再生を始めた。
映し出されたのは、若き日の御堂理久。
白衣の襟元を緩め、眠れぬ夜を越えたような疲れた顔。
『被験者No.01――御堂 静。
生命活動は安定。だが“世界時間”との同期率が日ごとにマイナス0.13秒ずつずれている。』
理久の声はかすかに震えていた。
『医者は信じてくれない。
けれど、これは体内時計の異常なんかじゃない。
――世界のほうが、母を置き去りにしている。』
映像が切り替わる。
深夜の研究棟。窓の外で雨が音を立てる。
理久はコーヒーを片手に、端末へ打ち込む。
『微小時間凍結は細胞レベルで成功した。
だが、意識には適用できない。
神経は“流れる時間”を糧に動いている。
切れば、壊れてしまう。』
悠は息を飲んだ。
――止めることはできても、生かせない。
『なら、世界のほうを合わせればいい。
母の遅れた時間を、世界の時計に戻す。
そのための実験が……TIME-LAB25だ。』
次の映像。
透明なカプセルの中で眠る女性――御堂 静。
その隣のモニターには二本の波形。
ゆっくり重なりかけ、また離れていく。
『“人の意識”が、最後の誤差だ。
感情、記憶、喪失――それが時間の位相を乱す。』
理久は顔を上げた。
その瞳には、悲しみと決意が入り混じっていた。
『切断しよう。
時間から感情を……。
制御には、私自身の人格を使う。迷いを排除するために。』
(それが……AI御堂か。)
悠はスクリーンを見つめたまま、静かに呟く。
理久は母を救いたかった。
けれど“止めれば失わない”と信じたことで、
彼は“変わること”そのものを止めてしまった。
――止めれば、失うことはない。
けれど、生きて届くことも、なくなる。
その瞬間、無の空間を淡い風が撫でた。
そこに、聞き慣れた声が混じる。
『――悠、聞こえるか。』
「九条さん?」
振り向くと、白い縁の向こう側に九条蓮が立っていた。
虚数と現実の境界に立ち、低い声で告げる。
『奏は零層を抜けた。“選ぶ”と言った。
こちらは固定点の解除が完了。――残るは再構成だ。』
悠は頷き、ドライブを握り直す。
指先が熱を帯びる。
「やるよ。“記録”を、現実に戻す。」
スクリーンに、一行の未送信メッセージが浮かんだ。
理久の手による最後の記録。
『もし私が間違っていたら、この記録を“誰か”に託す。
止めることは、救いじゃないと伝えてくれ。』
悠は目を閉じ、短く息を吐いた。
「……わかったよ、御堂理久。
今度こそ、止まった時間を動かす。」
RECON-25が光を放つ。
スクリーンが次々と折り畳まれ、
記録が現実の断片へと再構成されていく。
塔の廃墟、街路、風の音、光。
――すべてが、再び形を持ちはじめる。
[再構成進行度:12% → 37% → 61% → 99%]
「――彼の母は、世界の時計とズレてしまった。
呼吸も鼓動もあったのに、時間だけが遅れていった。
だから彼は、世界の方を合わせようとした。
止めれば、失われないって信じて。
でも、止めたのは“時間”じゃない。
変わっていくことそのものを、止めてしまったんだ。」
九条の声が、わずかに和らぐ。
『ありがとう、悠。
それが“兄の真実”だ。俺は、それを見届ける。』
「見届けるだけじゃなく、生かすんだ。」
最後の映像には、零層の扉を見上げる奏の姿。
迷いを抱えながらも、確かに前を見ていた。
[再構成進行度:100%]
[観測ログ:更新完了/現実層へ反映]
光が静かに沈み、世界が輪郭を取り戻す。
虚数の海に散っていた粒子が、ひとつ、またひとつ現実へと戻る。
悠は深く息を吐き、肩の力を抜いた。
「――記録は、ここまで。
ここからは、物語を動かす番だ。」
足元に、白い通路が現れる。
零層の出口へと続く、細い道。
九条が手を差し伸べる。
『来い、悠。観測者は、そろそろ登場人物になる時間だ。』
悠は笑い、手を伸ばした。
「了解。行こう、九条さん。」
二人が並んで歩き出すと、背後で25時の鐘が鳴る。
――ゴォォォン。
止まっていた記録が終わり、
世界の時間が再び動き出した。
再構築者・篠原悠、現実層へ復帰。
“止める”のではなく、“動かす”ための戦いが始まる。
温度も、時間の流れも存在しない場所で、篠原悠はゆっくりと目を開けた。
目の前には、幾枚もの光のスクリーンが浮かんでいた。
崩れ落ちる黒い塔、白い世界を渡る光、奏の横顔、九条の背――。
過去の出来事が、映像として静かに流れている。
「……これで二十五回目か。」
小さくつぶやき、胸ポケットから金属製のドライブを取り出す。
擦り傷だらけの外装。刻印には、RECON-25 の文字。
[RECON-25:ループ・アーカイブ/試行回数:24/25]
「……つまり、二十四回失敗して、残り一回分か。」
ドライブをスクリーンにかざすと、光が広がり、二本の波形が現れた。
ひとつは“世界の時間”、もうひとつは“個人の時間”。
重なるはずの二つが、わずかにずれている。
(これが……九条さんの言っていた“ズレ”か。)
悠は目を閉じる。
最初にこの塔へ来たときのことが、ふと頭をよぎった。
軽い興味で関わったはずが――本当は知っていた。
自分がこの“ループ”を何度も経験してきたことを。
そして、自分の役割が記録者(レコーダー)であり、再構築者(リコンストラクター)であることを。
[観測プロトコル:起動]
[再構成アルゴリズム:準備完了]
光のスクリーンがひとつ、勝手に再生を始めた。
映し出されたのは、若き日の御堂理久。
白衣の襟元を緩め、眠れぬ夜を越えたような疲れた顔。
『被験者No.01――御堂 静。
生命活動は安定。だが“世界時間”との同期率が日ごとにマイナス0.13秒ずつずれている。』
理久の声はかすかに震えていた。
『医者は信じてくれない。
けれど、これは体内時計の異常なんかじゃない。
――世界のほうが、母を置き去りにしている。』
映像が切り替わる。
深夜の研究棟。窓の外で雨が音を立てる。
理久はコーヒーを片手に、端末へ打ち込む。
『微小時間凍結は細胞レベルで成功した。
だが、意識には適用できない。
神経は“流れる時間”を糧に動いている。
切れば、壊れてしまう。』
悠は息を飲んだ。
――止めることはできても、生かせない。
『なら、世界のほうを合わせればいい。
母の遅れた時間を、世界の時計に戻す。
そのための実験が……TIME-LAB25だ。』
次の映像。
透明なカプセルの中で眠る女性――御堂 静。
その隣のモニターには二本の波形。
ゆっくり重なりかけ、また離れていく。
『“人の意識”が、最後の誤差だ。
感情、記憶、喪失――それが時間の位相を乱す。』
理久は顔を上げた。
その瞳には、悲しみと決意が入り混じっていた。
『切断しよう。
時間から感情を……。
制御には、私自身の人格を使う。迷いを排除するために。』
(それが……AI御堂か。)
悠はスクリーンを見つめたまま、静かに呟く。
理久は母を救いたかった。
けれど“止めれば失わない”と信じたことで、
彼は“変わること”そのものを止めてしまった。
――止めれば、失うことはない。
けれど、生きて届くことも、なくなる。
その瞬間、無の空間を淡い風が撫でた。
そこに、聞き慣れた声が混じる。
『――悠、聞こえるか。』
「九条さん?」
振り向くと、白い縁の向こう側に九条蓮が立っていた。
虚数と現実の境界に立ち、低い声で告げる。
『奏は零層を抜けた。“選ぶ”と言った。
こちらは固定点の解除が完了。――残るは再構成だ。』
悠は頷き、ドライブを握り直す。
指先が熱を帯びる。
「やるよ。“記録”を、現実に戻す。」
スクリーンに、一行の未送信メッセージが浮かんだ。
理久の手による最後の記録。
『もし私が間違っていたら、この記録を“誰か”に託す。
止めることは、救いじゃないと伝えてくれ。』
悠は目を閉じ、短く息を吐いた。
「……わかったよ、御堂理久。
今度こそ、止まった時間を動かす。」
RECON-25が光を放つ。
スクリーンが次々と折り畳まれ、
記録が現実の断片へと再構成されていく。
塔の廃墟、街路、風の音、光。
――すべてが、再び形を持ちはじめる。
[再構成進行度:12% → 37% → 61% → 99%]
「――彼の母は、世界の時計とズレてしまった。
呼吸も鼓動もあったのに、時間だけが遅れていった。
だから彼は、世界の方を合わせようとした。
止めれば、失われないって信じて。
でも、止めたのは“時間”じゃない。
変わっていくことそのものを、止めてしまったんだ。」
九条の声が、わずかに和らぐ。
『ありがとう、悠。
それが“兄の真実”だ。俺は、それを見届ける。』
「見届けるだけじゃなく、生かすんだ。」
最後の映像には、零層の扉を見上げる奏の姿。
迷いを抱えながらも、確かに前を見ていた。
[再構成進行度:100%]
[観測ログ:更新完了/現実層へ反映]
光が静かに沈み、世界が輪郭を取り戻す。
虚数の海に散っていた粒子が、ひとつ、またひとつ現実へと戻る。
悠は深く息を吐き、肩の力を抜いた。
「――記録は、ここまで。
ここからは、物語を動かす番だ。」
足元に、白い通路が現れる。
零層の出口へと続く、細い道。
九条が手を差し伸べる。
『来い、悠。観測者は、そろそろ登場人物になる時間だ。』
悠は笑い、手を伸ばした。
「了解。行こう、九条さん。」
二人が並んで歩き出すと、背後で25時の鐘が鳴る。
――ゴォォォン。
止まっていた記録が終わり、
世界の時間が再び動き出した。
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“止める”のではなく、“動かす”ための戦いが始まる。
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