25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第7章:時の残響(レゾナンス・オブ・ゼロ)

第35話:揺れる都市

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九条蓮は、研究都市の中心部にある交差点へ足を運んでいた。
見慣れたはずの街路樹が、微妙に形を変えている。

「……また“再構築片”か。」

街灯の根元から、
ほんの少しだけ――時間の“縫い目”が光っていた。

奏がそばに駆け寄る。

「九条さん! ここも……?」

「ここもだ。」

九条はしゃがみ込み、
光の糸のパターンを解析する。

裂け目から漏れる白い粒子は、
円を描くように都市の方向へ広がっていた。

「これは……もっと大きい再構成だな。」

「大きい……?」

「この都市全体が、“ひとつの未来”へ向かおうとしている。」

奏は眉を上げた。

「都市そのものが……未来を、選ぶ?」

「そうだ。
 世界が動き出した以上、いま一番“密度の高い時間”が集まる場所が、
 自動的に“未来の主軸”として選ばれる。」

奏は息を呑む。

「じゃあ……この都市が揺れてるのは……」

「世界全体が“どの未来を選ぶか”の調整中だ。」


そのころ――
アークライン・タワー最上階。

高梨誠は、観測者端末の前で
連続して届く警告ログに眉を寄せていた。

【観測ログ:異常振動検知】
【都市全体の再構成パターン:逸脱】
【要注意:“未来の密度”が過剰集中しています】

「過剰集中……ってなんだよ。
 都市が栄養失調みたいになってるってことか?」

高梨は独り言を言いながら、映し出される地図を確認する。

地図の中心――
アークライン・タワーに近い位置が真っ赤に染まっていた。

「ここが……未来の“重心”ってわけか。」

そのとき。

端末がかすかに震えた。

――ピッ。

【補助観測者/AI御堂:起動】
【接続完了】

『高梨さん、状況を説明します。』

端末越しに流れる御堂の声は、
いつもの冷静さのなかに、どこか焦りを含んでいた。

「都市が揺れてる理由、わかるのか?」

『はい。しかし――正確には“揺らされている”のです。』

「……揺らされている?」

『ゼロ層の外側から、別の観測波が接触しています。
 通常の観測者ではありえない周波数です。』

高梨は息をのんだ。

「悠か……?」

御堂は短く間を置いて答えた。

『いえ。これは、悠さんとは異なる波形です。
 “誰か”が、外側から世界の未来に触れようとしている。』

高梨は椅子から立ち上がった。

「外側に、悠以外の誰かがいるってことか……?」

『存在する可能性があります。
 ――悠さんが辿り着いた“世界の外側”は、
 彼だけの場所とは限りません。』


街の交差点。

九条の端末にも、同じ警告が届いていた。

【外側観測波:干渉率上昇】
【都市振動:10% → 17% → 23%】

奏が不安な声で問いかける。

「九条さん……外側って、悠が行った場所でしょう?
 そこに、別の“誰か”?」

九条は端末を閉じ、真剣な口調で言った。

「観測者プロトコルは、
 本来“1人しか外側に出られない”設計なんだ。」

「え……じゃあ……?」

「あり得るのは、ただ一つ。」

九条は、薄曇りの空を見上げた。

「――零層の外側には、悠以外の“観測者”がいる。」

奏は震える声で問う。

「……それって、いつから?」

九条は静かに答えた。

「――悠が外側に行く、もっと前からだ。」

奏の心臓が跳ね上がった。

(じゃあ……悠は今……
 “誰かに見られている”の……?)


そのとき、都市の中心に
低い振動が響いた。

大地が震え、
光の裂け目が一斉に開き始める。

九条が叫ぶ。

「奏!離れろ!」

奏が後ずさると、裂け目から――
白く細い“光の糸”が無数に伸びた。

まるで、何かを探すように。

(……なに……これ……?)

その光の糸が、
ゆっくりと空の一点へ向かっていく。

奏は顔を上げた。

そこに――
薄い“人影”があった。

人影は、
悠よりも背が高く、
髪が長く、
輪郭が不規則に揺れている。

九条が息を呑む。

「……観測波の主か……?」

奏は震えながらも、その影を見つめた。

薄い声が、世界の外側から聞こえた。

『……まだ、終わらない。
 “ここから先”は……誰の未来……?』

九条の顔色が変わる。

「この声……まさか……!」

奏が恐る恐る口を開いた。

「……誰か……知ってるの?」

九条は答えなかった。

ただひとつだけ、確かに震えていた。

――その声には。
どこか覚えのある“人間味”があった。

まるで、
この都市が25年前に失った誰かの声のように。


遠くの層――零層の外側。

白い通路を歩く悠は、足を止めた。

遥か後ろから、
世界を震わせる“声”が聞こえてきたからだ。

「……誰だ?」

悠は肩越しに振り返った。

――そこに、誰かが立っていた。

人影はゆっくりと形を取り戻していく。

悠の目が大きく見開かれた。

「……うそだろ……?」

その影は、
まるで――
“25年前に消えた誰か”のようだった。
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