25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第7章:時の残響(レゾナンス・オブ・ゼロ)

第34話:都市の縫い目

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風が吹く。

再起動から半日。
アークライン・タワー周辺の街は、ゆっくりと平常のリズムを取り戻しつつあった。

――だが、その“普通”はどこか歪んでいた。


九条蓮は研究都市の中央通りに立ち、
地面に膝をついて“ひび割れ”を観察していた。

「これは……再構築の“継ぎ目”だな。」

銀色の裂け目が、アスファルトに細かく走っている。
普通の亀裂ではない。
光が、糸のように脈動している。

奏が不安そうに眉を寄せる。

「時間の……“縫い目”?」

「そう呼んでもいい。
 世界全体をゼロ層から繋ぎ直したせいで、
 ところどころに“再構築のほつれ”が出ている。」

九条の声は落ち着いていたが、
その指先はわずかに震えていた。

「放っておくとどうなるの……?」

「最悪の場合、また停止する。
 世界そのものが “破れ” てしまう。」

奏は息をのんだ。

(せっかく……せっかく動き出したのに……)

そのとき。

――ピシャッ。

足元の裂け目が突然大きく揺れ、
“白い光の糸”が飛び出した。

奏は思わず後ずさる。

「これ……零層の光?」

「違う。……“外側”だ。」

九条は裂け目に慎重に近づき、
手袋越しに光の糸をつまんだ。

糸は小さな波紋を作り、
音もなく消える。

「……悠が作った“未来の端材”だな。」

奏の胸が締めつけられた。

「じゃあ……悠、ちゃんと繋いでくれたんだね。」

「繋いだ。だが“完全”じゃない。
 第三段階の再構築は、まだ途中だ。」

九条は立ち上がり、
空を見上げる。

雲がゆっくり動く。
その裏側――さらに薄い層が揺れている。

「……世界全体が“慣れていない”んだ。
 止まった25年から、急に動き始めたせいで。」

奏は静かに息を吐く。

「……だったら、慣れさせるしかないよね。」

九条は少しだけ笑った。

「そうだ。
 だからこそ、観測継承者が必要になった。」


アークライン・タワーの最上階――
再起動してしばらく沈黙していた端末が、突然点灯した。

高梨誠は、机に置いたカメラを持ち上げて立ち上がる。

端末に表示されたメッセージを見て、
彼は息を呑んだ。

【継承者ログ:No.1】
【観測対象:再構築の“ほつれ”】
【任務:現実世界の異変を継続記録せよ】

「……始まったか。」

自嘲気味に笑いながら、
胸ポケットのマイクを整える。

「おい悠……こんなの、1人に押しつけてんじゃねぇぞ。」

だが声には、覚悟があった。

(――現実は、俺が見てやる。)

扉を開けると、
タワーのロビーに漂っていた“ノイズ”はほとんど消えていた。

ただ一点だけ。

エレベーターの前に、
昨日と同じ“手形”が残っている。

高梨はその前に立ち、
そっと手を伸ばす――
触れずに、ただ見つめる。

「……見てろよ。
 世界がどう動くのか、全部記録してやる。」


街の中央通り。

九条が裂け目のデータを解析していると、
端末に新しい通知が届いた。

【継承者ログ:No.1/観測開始】
【記録者:高梨誠】

九条は目を細める。

「……いい記録者を選んだな、悠。」

奏が隣で問いかける。

「九条さん……
 悠は、この先どうすると思う?」

九条は空を見た。

揺れる雲の層。
そのさらに上――零層の外側に広がる未知。

「……外側で、世界の“次の未来”を選んでいる。
 いまもきっと……歩きながらな。」

奏は小さく笑い、
胸に手を当てた。

「なら……私たちはここで歩くよ。
 動き出した世界のほう。」

九条も頷いた。

「――再起動した世界は、これからが本番だ。」

風が吹き、
光の裂け目が静かに閉じていく。

けれどその中心には、
わずかな“未来の光”が確かに残っていた。
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