35 / 47
第7章:時の残響(レゾナンス・オブ・ゼロ)
第34話:都市の縫い目
しおりを挟む
風が吹く。
再起動から半日。
アークライン・タワー周辺の街は、ゆっくりと平常のリズムを取り戻しつつあった。
――だが、その“普通”はどこか歪んでいた。
九条蓮は研究都市の中央通りに立ち、
地面に膝をついて“ひび割れ”を観察していた。
「これは……再構築の“継ぎ目”だな。」
銀色の裂け目が、アスファルトに細かく走っている。
普通の亀裂ではない。
光が、糸のように脈動している。
奏が不安そうに眉を寄せる。
「時間の……“縫い目”?」
「そう呼んでもいい。
世界全体をゼロ層から繋ぎ直したせいで、
ところどころに“再構築のほつれ”が出ている。」
九条の声は落ち着いていたが、
その指先はわずかに震えていた。
「放っておくとどうなるの……?」
「最悪の場合、また停止する。
世界そのものが “破れ” てしまう。」
奏は息をのんだ。
(せっかく……せっかく動き出したのに……)
そのとき。
――ピシャッ。
足元の裂け目が突然大きく揺れ、
“白い光の糸”が飛び出した。
奏は思わず後ずさる。
「これ……零層の光?」
「違う。……“外側”だ。」
九条は裂け目に慎重に近づき、
手袋越しに光の糸をつまんだ。
糸は小さな波紋を作り、
音もなく消える。
「……悠が作った“未来の端材”だな。」
奏の胸が締めつけられた。
「じゃあ……悠、ちゃんと繋いでくれたんだね。」
「繋いだ。だが“完全”じゃない。
第三段階の再構築は、まだ途中だ。」
九条は立ち上がり、
空を見上げる。
雲がゆっくり動く。
その裏側――さらに薄い層が揺れている。
「……世界全体が“慣れていない”んだ。
止まった25年から、急に動き始めたせいで。」
奏は静かに息を吐く。
「……だったら、慣れさせるしかないよね。」
九条は少しだけ笑った。
「そうだ。
だからこそ、観測継承者が必要になった。」
アークライン・タワーの最上階――
再起動してしばらく沈黙していた端末が、突然点灯した。
高梨誠は、机に置いたカメラを持ち上げて立ち上がる。
端末に表示されたメッセージを見て、
彼は息を呑んだ。
【継承者ログ:No.1】
【観測対象:再構築の“ほつれ”】
【任務:現実世界の異変を継続記録せよ】
「……始まったか。」
自嘲気味に笑いながら、
胸ポケットのマイクを整える。
「おい悠……こんなの、1人に押しつけてんじゃねぇぞ。」
だが声には、覚悟があった。
(――現実は、俺が見てやる。)
扉を開けると、
タワーのロビーに漂っていた“ノイズ”はほとんど消えていた。
ただ一点だけ。
エレベーターの前に、
昨日と同じ“手形”が残っている。
高梨はその前に立ち、
そっと手を伸ばす――
触れずに、ただ見つめる。
「……見てろよ。
世界がどう動くのか、全部記録してやる。」
街の中央通り。
九条が裂け目のデータを解析していると、
端末に新しい通知が届いた。
【継承者ログ:No.1/観測開始】
【記録者:高梨誠】
九条は目を細める。
「……いい記録者を選んだな、悠。」
奏が隣で問いかける。
「九条さん……
悠は、この先どうすると思う?」
九条は空を見た。
揺れる雲の層。
そのさらに上――零層の外側に広がる未知。
「……外側で、世界の“次の未来”を選んでいる。
いまもきっと……歩きながらな。」
奏は小さく笑い、
胸に手を当てた。
「なら……私たちはここで歩くよ。
動き出した世界のほう。」
九条も頷いた。
「――再起動した世界は、これからが本番だ。」
風が吹き、
光の裂け目が静かに閉じていく。
けれどその中心には、
わずかな“未来の光”が確かに残っていた。
再起動から半日。
アークライン・タワー周辺の街は、ゆっくりと平常のリズムを取り戻しつつあった。
――だが、その“普通”はどこか歪んでいた。
九条蓮は研究都市の中央通りに立ち、
地面に膝をついて“ひび割れ”を観察していた。
「これは……再構築の“継ぎ目”だな。」
銀色の裂け目が、アスファルトに細かく走っている。
普通の亀裂ではない。
光が、糸のように脈動している。
奏が不安そうに眉を寄せる。
「時間の……“縫い目”?」
「そう呼んでもいい。
世界全体をゼロ層から繋ぎ直したせいで、
ところどころに“再構築のほつれ”が出ている。」
九条の声は落ち着いていたが、
その指先はわずかに震えていた。
「放っておくとどうなるの……?」
「最悪の場合、また停止する。
世界そのものが “破れ” てしまう。」
奏は息をのんだ。
(せっかく……せっかく動き出したのに……)
そのとき。
――ピシャッ。
足元の裂け目が突然大きく揺れ、
“白い光の糸”が飛び出した。
奏は思わず後ずさる。
「これ……零層の光?」
「違う。……“外側”だ。」
九条は裂け目に慎重に近づき、
手袋越しに光の糸をつまんだ。
糸は小さな波紋を作り、
音もなく消える。
「……悠が作った“未来の端材”だな。」
奏の胸が締めつけられた。
「じゃあ……悠、ちゃんと繋いでくれたんだね。」
「繋いだ。だが“完全”じゃない。
第三段階の再構築は、まだ途中だ。」
九条は立ち上がり、
空を見上げる。
雲がゆっくり動く。
その裏側――さらに薄い層が揺れている。
「……世界全体が“慣れていない”んだ。
止まった25年から、急に動き始めたせいで。」
奏は静かに息を吐く。
「……だったら、慣れさせるしかないよね。」
九条は少しだけ笑った。
「そうだ。
だからこそ、観測継承者が必要になった。」
アークライン・タワーの最上階――
再起動してしばらく沈黙していた端末が、突然点灯した。
高梨誠は、机に置いたカメラを持ち上げて立ち上がる。
端末に表示されたメッセージを見て、
彼は息を呑んだ。
【継承者ログ:No.1】
【観測対象:再構築の“ほつれ”】
【任務:現実世界の異変を継続記録せよ】
「……始まったか。」
自嘲気味に笑いながら、
胸ポケットのマイクを整える。
「おい悠……こんなの、1人に押しつけてんじゃねぇぞ。」
だが声には、覚悟があった。
(――現実は、俺が見てやる。)
扉を開けると、
タワーのロビーに漂っていた“ノイズ”はほとんど消えていた。
ただ一点だけ。
エレベーターの前に、
昨日と同じ“手形”が残っている。
高梨はその前に立ち、
そっと手を伸ばす――
触れずに、ただ見つめる。
「……見てろよ。
世界がどう動くのか、全部記録してやる。」
街の中央通り。
九条が裂け目のデータを解析していると、
端末に新しい通知が届いた。
【継承者ログ:No.1/観測開始】
【記録者:高梨誠】
九条は目を細める。
「……いい記録者を選んだな、悠。」
奏が隣で問いかける。
「九条さん……
悠は、この先どうすると思う?」
九条は空を見た。
揺れる雲の層。
そのさらに上――零層の外側に広がる未知。
「……外側で、世界の“次の未来”を選んでいる。
いまもきっと……歩きながらな。」
奏は小さく笑い、
胸に手を当てた。
「なら……私たちはここで歩くよ。
動き出した世界のほう。」
九条も頷いた。
「――再起動した世界は、これからが本番だ。」
風が吹き、
光の裂け目が静かに閉じていく。
けれどその中心には、
わずかな“未来の光”が確かに残っていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる