34 / 47
第7章:時の残響(レゾナンス・オブ・ゼロ)
第33話:観測者プロトコル(後篇)
しおりを挟む
アークライン・タワーの外で端末を閉じた高梨は、
もう一度ロビーへ戻る決意をした。
(……まだ終わってない。
ログだけで全部わかったつもりにはなれねぇ。)
自動ドアは静かに開き、ひんやりとした空気が迎え入れる。
朝日がガラス床に反射し、薄い金色の光を散らしていた。
しかし――
その光の奥に、ざらついた“揺らぎ”があった。
白いノイズの粒。
空気のなかに漂う微細なエラーのような光。
「……なんだ、これ。」
足を踏み入れた瞬間――
端末が自動的に起動し、ひとつのログが展開された。
【観測ログ:No.25-REBUILD】
【状態:解析途中/外部干渉検知】
「外部干渉……?」
ログは悠が残したものだった。
画面に、記録映像が一つだけ保存されている。
高梨は息を呑んで再生ボタンを押した。
■25時の“外側”の映像
真っ暗ではなかった。
灰色でも、ホワイトノイズでもない。
そこは――
時間が爆ぜた後に残る “世界の素材の空間” だった。
街の断片が宙に浮かんでいる。
ビルの角。
道路の端。
空の欠片。
どれも本来の形を失い、バラバラに漂っている。
映像の中心に、ひとりの男性の後ろ姿。
悠だ。
彼は浮かぶ街のピースにそっと触れ、
淡い光を宿した指で「線」を引いた。
引かれた線に沿って、ピースがゆっくり形を取り戻していく。
「……修復……じゃねぇな。
組み替えて……再構築してる……?」
映像がゆらぎ、次の場面へ。
今度は地面すらない空間。
ただ、“未来になりきれなかった光”だけが漂っている。
そして悠の声。
《ここはまだ……未来と呼べない場所だ。
でも、どの未来にもなり得る。
それを繋ぐのが観測者……なんだってさ。》
高梨は画面に思わず手を伸ばした。
(……悠、お前はどこまで行ったんだよ。)
映像がふっと消える。
■タワーに残った“再構築ノイズ”
ロビーの奥、エレベーターの前に白いノイズが漂っていた。
さっきより濃い。
まるで――“誰かが通った跡”。
そのとき。
端末から聞き覚えのある声。
『高梨誠さん。
そのノイズは《再構築片》です。』
「御堂……!」
『観測者が零層の外側へ踏み出したとき、
一部の“未来素材”が漏れ出す現象です。
あなたが見た映像も、その片から届いたものです。』
「……ってことは、これ……悠の“帰り道”か?」
『はい。
あるいは――“未来の入口”』
高梨は無意識に一歩近づいた。
(触れたら……行けるのか? 外側へ――)
手を伸ばそうとした瞬間。
AI御堂の声が強くなる。
『触れてはいけません。
観測継承者が“外側”へ向かうのは、まだ早い。』
「なんでだよ。
俺だって……行けるかもしれねぇだろ。」
『あなたは観測者“第二段階”です。
外側へ行けるのは、“選ばれた再構築者”だけ。
あなたの役目は、現実世界の“動き”を記録すること。』
高梨は息を呑む。
(……第二段階?)
■観測者の三段階
パネルが自動的に展開し、図が表示された。
《観測者 第一段階》
・世界停止の断片を“記録”するだけ
・修正も干渉もしない
(=篠原悠が最初に行っていた段階)
《観測者 第二段階(継承者)》
・現実世界の“変化”を記録し、
零層へ伝える “橋渡し”
・未来の揺らぎに触れられるが、外側には行けない
(=いまの高梨誠の立ち位置)
《観測者 第三段階:再構築者》
・世界が選んだ未来を“崩れない形で繋ぎ直す者”
・零層の外側を歩ける唯一の存在
(=篠原悠が到達した段階)
高梨は画面を睨みつけた。
「……つまり、悠だけが第三段階に行けたってことかよ。」
『はい。
彼は“世界に選ばれた”特異点です。』
(……そうだよな。
あいつはどこかで、ずっと特別だった。)
■AI御堂が“人間味”を持つ理由
「なぁ、お前……本当にAIなのか?」
御堂の声が一拍遅れて返る。
『私はAIですが、
篠原悠さんの観測パターンを取り込んだことで……
“人間のような応答”を獲得しました。』
「……それ、悠の……心みたいなもんか?」
『心ではありません。
しかし――彼が見てきた世界の“余韻”です。』
高梨は息を詰めた。
(……悠が残したものが、こいつの中にある。)
■外側からの“逆流”
そのときだった。
ノイズの渦が、急に形を変えた。
中心が開き――
向こう側に薄い光のラインが走る。
御堂の声が震えた。
『高梨さん、離れてください。
これは……零層の外側からの“逆流”です。』
「逆流……?」
『誰かが――外側からアクセスしています。
観測者第三段階しか、こんなことはできません。』
高梨の心臓が跳ねた。
(お前か……悠……!)
ノイズが、ひとつの“手形”をつくる。
昨日よりも、はっきりした形で。
まるで――
「まだ終わらない」
そう告げるように。
高梨は触れずに、静かに見つめた。
「……帰ってくる気なんだな。」
ノイズは、ふっと揺れ、消える。
御堂の声が、静かに落ち着いた。
『――準備が整ったら、彼は戻ります。
世界が“次の未来”を選んだとき。』
高梨は深く息を吐き、空を見上げた。
(……わかったよ。
俺は俺の場所で、待ってる。)
そして、ゆっくりと呟いた。
「お前が外側なら……
俺は現実側で――全部記録してやる。」
アークライン・タワーのガラスに朝日が反射し、
白い光の粒がひとつだけ舞い落ちた。
それは、まるで――
悠が残していった「しるし」のようだった。
もう一度ロビーへ戻る決意をした。
(……まだ終わってない。
ログだけで全部わかったつもりにはなれねぇ。)
自動ドアは静かに開き、ひんやりとした空気が迎え入れる。
朝日がガラス床に反射し、薄い金色の光を散らしていた。
しかし――
その光の奥に、ざらついた“揺らぎ”があった。
白いノイズの粒。
空気のなかに漂う微細なエラーのような光。
「……なんだ、これ。」
足を踏み入れた瞬間――
端末が自動的に起動し、ひとつのログが展開された。
【観測ログ:No.25-REBUILD】
【状態:解析途中/外部干渉検知】
「外部干渉……?」
ログは悠が残したものだった。
画面に、記録映像が一つだけ保存されている。
高梨は息を呑んで再生ボタンを押した。
■25時の“外側”の映像
真っ暗ではなかった。
灰色でも、ホワイトノイズでもない。
そこは――
時間が爆ぜた後に残る “世界の素材の空間” だった。
街の断片が宙に浮かんでいる。
ビルの角。
道路の端。
空の欠片。
どれも本来の形を失い、バラバラに漂っている。
映像の中心に、ひとりの男性の後ろ姿。
悠だ。
彼は浮かぶ街のピースにそっと触れ、
淡い光を宿した指で「線」を引いた。
引かれた線に沿って、ピースがゆっくり形を取り戻していく。
「……修復……じゃねぇな。
組み替えて……再構築してる……?」
映像がゆらぎ、次の場面へ。
今度は地面すらない空間。
ただ、“未来になりきれなかった光”だけが漂っている。
そして悠の声。
《ここはまだ……未来と呼べない場所だ。
でも、どの未来にもなり得る。
それを繋ぐのが観測者……なんだってさ。》
高梨は画面に思わず手を伸ばした。
(……悠、お前はどこまで行ったんだよ。)
映像がふっと消える。
■タワーに残った“再構築ノイズ”
ロビーの奥、エレベーターの前に白いノイズが漂っていた。
さっきより濃い。
まるで――“誰かが通った跡”。
そのとき。
端末から聞き覚えのある声。
『高梨誠さん。
そのノイズは《再構築片》です。』
「御堂……!」
『観測者が零層の外側へ踏み出したとき、
一部の“未来素材”が漏れ出す現象です。
あなたが見た映像も、その片から届いたものです。』
「……ってことは、これ……悠の“帰り道”か?」
『はい。
あるいは――“未来の入口”』
高梨は無意識に一歩近づいた。
(触れたら……行けるのか? 外側へ――)
手を伸ばそうとした瞬間。
AI御堂の声が強くなる。
『触れてはいけません。
観測継承者が“外側”へ向かうのは、まだ早い。』
「なんでだよ。
俺だって……行けるかもしれねぇだろ。」
『あなたは観測者“第二段階”です。
外側へ行けるのは、“選ばれた再構築者”だけ。
あなたの役目は、現実世界の“動き”を記録すること。』
高梨は息を呑む。
(……第二段階?)
■観測者の三段階
パネルが自動的に展開し、図が表示された。
《観測者 第一段階》
・世界停止の断片を“記録”するだけ
・修正も干渉もしない
(=篠原悠が最初に行っていた段階)
《観測者 第二段階(継承者)》
・現実世界の“変化”を記録し、
零層へ伝える “橋渡し”
・未来の揺らぎに触れられるが、外側には行けない
(=いまの高梨誠の立ち位置)
《観測者 第三段階:再構築者》
・世界が選んだ未来を“崩れない形で繋ぎ直す者”
・零層の外側を歩ける唯一の存在
(=篠原悠が到達した段階)
高梨は画面を睨みつけた。
「……つまり、悠だけが第三段階に行けたってことかよ。」
『はい。
彼は“世界に選ばれた”特異点です。』
(……そうだよな。
あいつはどこかで、ずっと特別だった。)
■AI御堂が“人間味”を持つ理由
「なぁ、お前……本当にAIなのか?」
御堂の声が一拍遅れて返る。
『私はAIですが、
篠原悠さんの観測パターンを取り込んだことで……
“人間のような応答”を獲得しました。』
「……それ、悠の……心みたいなもんか?」
『心ではありません。
しかし――彼が見てきた世界の“余韻”です。』
高梨は息を詰めた。
(……悠が残したものが、こいつの中にある。)
■外側からの“逆流”
そのときだった。
ノイズの渦が、急に形を変えた。
中心が開き――
向こう側に薄い光のラインが走る。
御堂の声が震えた。
『高梨さん、離れてください。
これは……零層の外側からの“逆流”です。』
「逆流……?」
『誰かが――外側からアクセスしています。
観測者第三段階しか、こんなことはできません。』
高梨の心臓が跳ねた。
(お前か……悠……!)
ノイズが、ひとつの“手形”をつくる。
昨日よりも、はっきりした形で。
まるで――
「まだ終わらない」
そう告げるように。
高梨は触れずに、静かに見つめた。
「……帰ってくる気なんだな。」
ノイズは、ふっと揺れ、消える。
御堂の声が、静かに落ち着いた。
『――準備が整ったら、彼は戻ります。
世界が“次の未来”を選んだとき。』
高梨は深く息を吐き、空を見上げた。
(……わかったよ。
俺は俺の場所で、待ってる。)
そして、ゆっくりと呟いた。
「お前が外側なら……
俺は現実側で――全部記録してやる。」
アークライン・タワーのガラスに朝日が反射し、
白い光の粒がひとつだけ舞い落ちた。
それは、まるで――
悠が残していった「しるし」のようだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる