25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

文字の大きさ
44 / 47
第7章:時の残響(レゾナンス・オブ・ゼロ)

第43話:侵蝕核

しおりを挟む
外側層の深度が下がるにつれ、
“空間”という概念そのものが薄れていった。

上下も左右もない。
光も影も意味を失う。

ただ――

未来の素材の粉塵だけが雪のように舞っていた。

『深度マイナス20……もうすぐだ。』

起源の悠が小さく呟く。

その声が、空間のゆらぎに吸い込まれて消えていく。

「外側なのに……空間に“重さ”を感じる……」

『侵蝕核が未来候補を飲み込むたびに、
 この世界は“偏る”。
 本来は空間なんて存在しねえ場所なのにな。』

深度マイナス25――
御堂AIが示した座標。

そこに近づくにつれ、“圧力”が強まった。

《――――クル……
       ミツケタ……》

小さな黒い眼が周囲に集まり始める。

先ほど戦った観測眼(インサイト・ノード)より
はるかに濃密な“視線の束”。

(やばい……数が違う……!)

起源の悠が前に出る。

『止まるな。ここで立ち止まったら“未来”を食われる。』

まるでその言葉を合図にしたように――

黒い空間の奥で、“脈動音”が鳴った。

ドクン。

ドクン。

ドクン。

悠は息を呑む。

(……これは……心臓の音?
 いや違う。“何かが飲み込む音”だ。)

ドクン。

ドクンッ。

世界の中心で巨大な影が動いた。

黒い球体のようであり、
渦巻く闇のようでもある。

その表面からは
無数の“眼”が生まれては消えていく。

《――――ミライ……
    アマリニ……ウマイ……》

観測眼の群れとは比較にならない。
その存在は“世界を喰う捕食者”そのものだった。

御堂AIが言っていた――
外側層の中心核。

“侵蝕核”。

『あれが……未来候補を喰ってる本体か……』

起源の悠が低く唸る。

悠は無意識に後ずさりした。

「どうすれば……こんなの、倒せるのか……?」

『倒さない。
 戦って勝つんじゃねえ。
 ――“未来を渡す”んだ。』

「未来を……?」

起源の悠は、侵蝕核を指さした。

『あいつは未来の“確定点”を持たない。
 食うだけで、自分の未来を持っていない。
 だから無限に肥大化する。
 壊すと、未来そのものも壊れる。』

侵蝕核が脈打つ。

《――――オマエタチ……
     ハ……“ミライ”……
         モッテイル……?》

球体の表面が波のように揺れ、
巨大な“口”のような影が広がった。

未来そのものを飲み込むために。

『悠、見ろ!』

起源の悠が叫んだ。

視界に――
細い白い線が浮かんだ。

未来候補の“線(ライン)”。
悠が25回の世界で見続けてきた、未来の揺らぎの残滓。

『それだ!!
 あれが“世界が選ぶべき未来”。
 お前が人生で見てきた、すべての選択の延長線!』

悠はその線を手に取ろうとした。

しかし――
侵蝕核の中枢から伸びた黒い触手が線を絡め取ろうと迫る。

《――――ダメダ……
     タベラセロ……
        タベレバ……オワル……》

黒い触手が未来線を“引き裂こう”とする。

「やばい……このままじゃ未来が……!」

起源の悠が手を掴んだ。

『悠! 俺たちは観測者だ!
 二人揃った今なら、因果線を“繋ぎ直せる”!!』

悠の心臓が跳ねる。

(これが……俺たち二人の力……?
 未来を……繋ぎ直す……?)

『相手は未来の捕食者だ。
 だったら――未来を渡すんだよ。
 “確定すべき未来”を押し付ける!!』

起源の悠の瞳が光った。

『侵蝕核に“未来の座標”を刻む!
 お前の未来だ、悠!!』

侵蝕核が苦鳴のような波動を放つ。

《――――ミライ……
      ワタスナ……
           クレ……!!》

悠は、未来の細線を強く握り――

「……いいか、侵蝕核。
 俺の未来は――お前なんかに喰わせない。」

白い線が強く輝いた。
外側空間が大きく揺れた。

起源の悠が叫ぶ。

『行くぞ、悠!!
 “二つの観測”で未来を紡ぐんだ!!!』

二人の観測者が、一斉に線を引く。

白い因果が走る。
黒い侵蝕が裂ける。

世界そのものが震え始めた。

これは――

観測者 vs 未来を喰う核
決戦の始まりだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...