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夜クロードはウッキウキだった。
直接本人には渡せていないが花束を渡すことができた。
花言葉の意味に気付いてくれただろうか。
スキップしながら部屋を横切るといつもより少しドキドキしながら寝室を開ける。
真っ暗闇な部屋に少し布団が盛り上がっているのが月明かりで見えた。クロードは少し鼻をフガフガさせながら近寄るとフォルテナがすぅすぅと寝ているのを見た。
少し残念に思いながら(疲れたんだろうか……)と額に触れる。
正直邪な心もあった。
少しの刺激で目を覚ますならフォルテナさえよければ営もうかと思ったのだ。
しかしフォルテナは目を覚まさないどころか少し熱いような……心なしかいつもより呼吸が速い……
クロードはフォルテナが心配で心配で堪らず眠れぬ夜を過ごした。
「旦那様?どうなさいました!?」
メイソンが朝慌ただしく部屋にやってきたクロードに目を丸くしている。彼は泣きそうな顔をすると数枚のメモを見せた。
『妻が変だ』
『医者を』
メイソンはそれは大変だ。と大慌てで医者を手配している。
クロードが今まで見たことがない位に慌てていたので奥様が死んでしまうのでは?とメイソンは思ったのだ。
「え!?奥様がいない!?」寝室に入ると少し乱れたベッドだけを残しフォルテナがいなくなっていたのでクロードはパニックになりーー
『誘拐だ』
『かわいらしいから』
「そ、そんな…!警備は完璧でございます旦那様!」
『穴があったのだ』
『外に妻のかわいらしさがバレた』
「お話し中大変申し訳ございませんお二人様……奥様のお部屋を覗いても?」二人でわちゃわちゃしていると女性の看護師がそっとそう告げたので、クロードは藁にも縋る気持ちでコクコクと頷いた。
フォルテナ殿が消えてしまった……
クロードとメイソンがその場で泣きそうな顔をしていると彼女は少し呆れたように「いらっしゃいますけれど……」とソファを指さした。
『よかった』
クロードはその場にふにゃふにゃと膝をつき、メイソンは冷静さを欠いたことが恥ずかしくて顔を赤く染め額の汗を拭った。
「取り乱してしまい大変申し訳ございません」
一部始終をじっと観察していた医者がクロードの額に聴診器を当てると「フローレス殿はご乱心ですな」と笑った。
『妻は大丈夫ですか?』
クロードは気が気でなかった。
こんなにかわいらしくて細くて小さなかわいらしい女性が辛そうにしていては死んでしまうのではと思ったのだ。
「うーん……」
『ひどいのですか?』
「うーん……」
『いくらでも払うので妻を助けてください』
クロードは難しい顔で首を捻る医者に向けて震える字でそう書いた。
もう泣きそうだった。
別に一生自分を好きにならなくていいから元気な姿を見せて欲しかった。自分はそれを木陰で遠くから眺めるだけでも構わないとクロードは思った。
「いくらでも?」
『いくらでも』
「どれくらい?」
『屋敷を』
「せんせい!」看護師が顔を真っ赤にして大きな声を出すと医者を睨みつけている。「ははは、すみません。冗談です。奥様は風邪ですね。ゆっくり休んで栄養を取れば治りますよ」クロードは医者の言葉にとてもとても安堵して脱力してしまう……
メイソンもホッと息を吐くと「ぼ…旦那様よかったですね」と肩を叩いた。
医者は看護師に蹴られながら帰って行った。
『しかし体調が悪そうだ』
クロードはそれでもフォルテナが心配だったのでずっと側にいることにした。先ほど騒がしくしたのにフォルテナに起きる気配がない。クロードは彼女の額に滲む汗を懸命に拭った。
ハーネットが「旦那様……奥様のお世話は私が……」と名乗り出たが断り休むように伝え再び妻の方を向くと、フォルテナはハァハァと辛そうに息を吐いていて……しばらく目を覚まさなかった。
クロードはフォルテナの冷たくなった手を握りしめた。自分の体温を分けてあげたかった。
フォルテナ殿……早く元気になってくれ。
そして偶に……偶にでいいから俺に微笑みかけてくれ……
……贅沢か?
贅沢?あまり贅沢な願いは聞き入れてもらえない可能性が……
……偶にこちらをちらりと見てくれ。
フォルテナ殿……
「……リリー……」
フォルテナはそう呟くと薄っすら目を開けた。
目の焦点が合っていない。
リリー?女性の名前だ……
クロードはそう思った。
不謹慎ながらホッとする自分がいる。
もし男の名前ならば自分はどうなっただろう。
クロードはフォルテナをそっと抱き起こすと水を飲ませた。
コクリ……コクリ……とフォルテナの喉が動く。
「あ、ありがとう……」
クロードは力なくそう呟いたフォルテナの額をそっと撫でた。
お礼など……
「リリー……会えて嬉しい。私……あなたに会いたかったの……」
フォルテナは絞り出すように言った。……リリーにはもう会えないのだろうか。……犬か……?
「リリー……本当は離れたくなかった……なんで大人になると我慢ばかりなんだろう……」そう言うとフォルテナはゴホゴホと咳き込んだのでクロードは慌ててその背中を擦った。
ゼーゼーと呼吸が苦しそうだ。
昼間医者にアドバイスを貰った通り背中にクッションを入れて身を起こした。少し呼吸が楽になるといいのだが……
「寒い……」
フォルテナが身をぶるりと震わせてそう言ったのでクロードは慌てて布団を寝室から持ってきて掛けた。
思わずフォルテナの手を握ると彼女はそれを握り返し「温かい……リリー」と呟く。
クロードはまたフォルテナがすぅすぅと寝息を立てるのを見届けると彼女の実家に早馬を走らせた。
フォルテナ殿が望むものは俺が可能な限り叶えよう。
しかしその男らしい誓いは誰にも気付かれはしなかったけれど。
クロードはリリーが来てからも夜は交代でフォルテナの看病をした。リリーは犬ではなく初老の女性メイドだった。
直接本人には渡せていないが花束を渡すことができた。
花言葉の意味に気付いてくれただろうか。
スキップしながら部屋を横切るといつもより少しドキドキしながら寝室を開ける。
真っ暗闇な部屋に少し布団が盛り上がっているのが月明かりで見えた。クロードは少し鼻をフガフガさせながら近寄るとフォルテナがすぅすぅと寝ているのを見た。
少し残念に思いながら(疲れたんだろうか……)と額に触れる。
正直邪な心もあった。
少しの刺激で目を覚ますならフォルテナさえよければ営もうかと思ったのだ。
しかしフォルテナは目を覚まさないどころか少し熱いような……心なしかいつもより呼吸が速い……
クロードはフォルテナが心配で心配で堪らず眠れぬ夜を過ごした。
「旦那様?どうなさいました!?」
メイソンが朝慌ただしく部屋にやってきたクロードに目を丸くしている。彼は泣きそうな顔をすると数枚のメモを見せた。
『妻が変だ』
『医者を』
メイソンはそれは大変だ。と大慌てで医者を手配している。
クロードが今まで見たことがない位に慌てていたので奥様が死んでしまうのでは?とメイソンは思ったのだ。
「え!?奥様がいない!?」寝室に入ると少し乱れたベッドだけを残しフォルテナがいなくなっていたのでクロードはパニックになりーー
『誘拐だ』
『かわいらしいから』
「そ、そんな…!警備は完璧でございます旦那様!」
『穴があったのだ』
『外に妻のかわいらしさがバレた』
「お話し中大変申し訳ございませんお二人様……奥様のお部屋を覗いても?」二人でわちゃわちゃしていると女性の看護師がそっとそう告げたので、クロードは藁にも縋る気持ちでコクコクと頷いた。
フォルテナ殿が消えてしまった……
クロードとメイソンがその場で泣きそうな顔をしていると彼女は少し呆れたように「いらっしゃいますけれど……」とソファを指さした。
『よかった』
クロードはその場にふにゃふにゃと膝をつき、メイソンは冷静さを欠いたことが恥ずかしくて顔を赤く染め額の汗を拭った。
「取り乱してしまい大変申し訳ございません」
一部始終をじっと観察していた医者がクロードの額に聴診器を当てると「フローレス殿はご乱心ですな」と笑った。
『妻は大丈夫ですか?』
クロードは気が気でなかった。
こんなにかわいらしくて細くて小さなかわいらしい女性が辛そうにしていては死んでしまうのではと思ったのだ。
「うーん……」
『ひどいのですか?』
「うーん……」
『いくらでも払うので妻を助けてください』
クロードは難しい顔で首を捻る医者に向けて震える字でそう書いた。
もう泣きそうだった。
別に一生自分を好きにならなくていいから元気な姿を見せて欲しかった。自分はそれを木陰で遠くから眺めるだけでも構わないとクロードは思った。
「いくらでも?」
『いくらでも』
「どれくらい?」
『屋敷を』
「せんせい!」看護師が顔を真っ赤にして大きな声を出すと医者を睨みつけている。「ははは、すみません。冗談です。奥様は風邪ですね。ゆっくり休んで栄養を取れば治りますよ」クロードは医者の言葉にとてもとても安堵して脱力してしまう……
メイソンもホッと息を吐くと「ぼ…旦那様よかったですね」と肩を叩いた。
医者は看護師に蹴られながら帰って行った。
『しかし体調が悪そうだ』
クロードはそれでもフォルテナが心配だったのでずっと側にいることにした。先ほど騒がしくしたのにフォルテナに起きる気配がない。クロードは彼女の額に滲む汗を懸命に拭った。
ハーネットが「旦那様……奥様のお世話は私が……」と名乗り出たが断り休むように伝え再び妻の方を向くと、フォルテナはハァハァと辛そうに息を吐いていて……しばらく目を覚まさなかった。
クロードはフォルテナの冷たくなった手を握りしめた。自分の体温を分けてあげたかった。
フォルテナ殿……早く元気になってくれ。
そして偶に……偶にでいいから俺に微笑みかけてくれ……
……贅沢か?
贅沢?あまり贅沢な願いは聞き入れてもらえない可能性が……
……偶にこちらをちらりと見てくれ。
フォルテナ殿……
「……リリー……」
フォルテナはそう呟くと薄っすら目を開けた。
目の焦点が合っていない。
リリー?女性の名前だ……
クロードはそう思った。
不謹慎ながらホッとする自分がいる。
もし男の名前ならば自分はどうなっただろう。
クロードはフォルテナをそっと抱き起こすと水を飲ませた。
コクリ……コクリ……とフォルテナの喉が動く。
「あ、ありがとう……」
クロードは力なくそう呟いたフォルテナの額をそっと撫でた。
お礼など……
「リリー……会えて嬉しい。私……あなたに会いたかったの……」
フォルテナは絞り出すように言った。……リリーにはもう会えないのだろうか。……犬か……?
「リリー……本当は離れたくなかった……なんで大人になると我慢ばかりなんだろう……」そう言うとフォルテナはゴホゴホと咳き込んだのでクロードは慌ててその背中を擦った。
ゼーゼーと呼吸が苦しそうだ。
昼間医者にアドバイスを貰った通り背中にクッションを入れて身を起こした。少し呼吸が楽になるといいのだが……
「寒い……」
フォルテナが身をぶるりと震わせてそう言ったのでクロードは慌てて布団を寝室から持ってきて掛けた。
思わずフォルテナの手を握ると彼女はそれを握り返し「温かい……リリー」と呟く。
クロードはまたフォルテナがすぅすぅと寝息を立てるのを見届けると彼女の実家に早馬を走らせた。
フォルテナ殿が望むものは俺が可能な限り叶えよう。
しかしその男らしい誓いは誰にも気付かれはしなかったけれど。
クロードはリリーが来てからも夜は交代でフォルテナの看病をした。リリーは犬ではなく初老の女性メイドだった。
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