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「と……隣に座ります?」
リベルナは馬車の中、隣に座ってくるヴェルナーと少し距離を取りながら言った。
(いつもは向かい側に座るのに……性欲恐るべし!)
「今日は肌寒いだろう」
ヴェルナーはそう言いながらリベルナの肩を抱く。
確かに今日は少し肌寒い……
「あ、なるほど……いやだわ。私ったらてっきり……」リベルナは自分の凝り固まった思想を恥じた。ヴェルナーは暖を取るために傍に来ただけなのだ。
「はははは、いやぁ。リベルナさんは面白い方だ」
ヴェルナーは爽やかに笑うとリベルナの顎に手を添える。「え?あの……」
「ふふふ、なんて美しいんだセニョール」
「セニョール?」
「そうだよ。君は一面に咲く花よりも美しくてセレナーデ」
リベルナはいつもとなんだか様子が違うヴェルナーに首を傾げる。(こんな話し方だったかしら……)
「そうだよ……ああ、君の唇は薔薇のようだ」
「え?」
ヴェルナーはリベルナの唇を親指でなぞるとウットリした眼差しを彼女に向ける。「旦那様?」
「何度この唇に吸い付く想像をしたかわかるかい?」ヴェルナーはリベルナに顔を寄せる。
後少しで唇が接触しそうだ……
「だ……旦那様?」
(どうしたというの?性欲が満タンになりすぎておかしくなってしまったのかしら……!)
「さあ……このスイッチを押すのは君だ……頼む、さあ押してくれ」ヴェルナーはそう言うと顔を傾けていく……
「だ、旦那様旦那様!」
リベルナは顔を背けると彼の胸を叩いた。
なんだかまるで……別人と対話しているような気分になる。
するとヴェルナーは顔を手で覆い、苦しそうにうめき声を上げた。「あ、すみません。痛かった?」リベルナは強く叩いてしまっただろうか……と心配そうにヴェルナーに声を掛ける。
「ゴホゴホ、すまん。違うんだ。本当にただ俺は」
「大丈夫ですか?旦那様こそ寒いのでは?」リベルナは御者が馬車に乗り込む前に渡してくれたブランケットをヴェルナーの膝にも掛ける。
「いや、大丈夫大丈夫大丈夫」
「……そうです?咳をしてらしたので……」リベルナは大丈夫と繰り返し顔を手で覆ったヴェルナーを覗き込むように見た。
けれど、彼の顔は手の陰になり……殆ど真っ暗な闇のように見える。リベルナはそれが少し恐ろしく見えた。
(なんだろう……穴が空いているみたい)
「今日はパーティーはお断りしましょうか?まだ着いておりませんし……」ガタガタと揺れる車内……だけどもまだ目的地には着いていない。ヴェルナーの体調はかなり悪そうだし、今日は無理にパーティーに参加しなくても……とリベルナは思った。
(そうしたら……この計画も意味はなくなるけれど)
心が揺れる自分にリベルナは少し嫌な気分になる。
それはただ、引き伸ばしているに過ぎない。
自分が今世、業と向き合わなければいけないのは変わらないのだ。
「いや、大丈夫ざんす……」
「本当に?なんだか……」
ヴェルナーがまるで違う人のように感じる。
こんな人だったろうか……
リベルナがそう感じているとヴェルナーがゴホゴホと咳をしている。まるで何かを誤魔化すような空咳だ。
「限界だぜ、パーティーには行かなきゃいけないぜ。会いにいかなくちゃならないんだぜぇ」
「え?なんですか?」
ヴェルナーの声だけれど、ヴェルナーではない何かが話しているような錯覚にリベルナは陥る。
「ああクソ……駄目だ、やめてくれ。違う違う……」
「大丈夫ですか?」
頭を抱えるようにするヴェルナーにリベルナは声を掛ける。どうしたのだろうか……
「ギギギ……」
「え……大丈夫です?本当に……怖いです」
リベルナは怯えた。
ヴェルナーが歯をすり合わせているのか……なんだかおかしな音を出すからだ。
「すまん……すまん。すまんのぅ」
ヴェルナーは彼女が怯える様子を見せたからか、苦しそうに謝罪を繰り返す。リベルナはそんなヴェルナーの背中に咄嗟に手を添えた。
彼の背中は何かに耐えるように震えている。
「どうしたのですか?寒いの……?」リベルナはヴェルナーの背中を温めるように撫でた。「ギギギ……」
「大丈夫ですか……」
「大丈夫、大丈夫……」
ヴェルナーは揺れる車内の中、ゆっくりと立ち上がる。
フラフラと頼りない足どりで……向かいの席に倒れ込むように座ったのを見て、リベルナは不安になった。
(どうしたの……?)
「…………ゔゔ……国家権力に囚われて民を見ていないのはあなた達の方ではないのか…………クソ、やめろ。今その話はしていない」
ヴェルナーは背中を丸めると膝に頭をつけて、苦しそうにブツブツと何やら呟いている。「…………」リベルナはその様子に……何もかける言葉が見つからなくなって唖然とした。
(どうしてしまったの……?)
いつもの……冷静で、優して、頼りになるヴェルナーはリベルナの前から消えてしまった。今はただ目の前でブツブツと得体の知れない言葉を呟いている。
リベルナはそして……そんな状況だからこそ
「…………触ります?」乳房を出した。
ドレスの肩ひもを下ろし……プルッと飛び出した乳房は、夜の冷気のせいかツンと先を尖らせている。
(旦那様……性欲が溜まりすぎておかしくなっちゃったんだわ!リアム様が……男性の機嫌が悪い時は胸を揉ませろとおっしゃっていた……今!この時ですね!)
「………………ゔぅ……」
ヴェルナーが下を向いたまま、ゆらゆらと手を伸ばし……リベルナの胸をふにふにと揉む。「旦那様……大丈夫ですか?元気出してくださいませ」
「うぅ…………柔らかい……」
「柔らかいですか?たくさんどうぞ。減るもんじゃないので……」
「…………」
「落ち着くまで揉みしだいていいですよ……かわいそうな旦那様」
リベルナはゾンビのようになったヴェルナーの頭を抱えるように抱きしめた。
リベルナは馬車の中、隣に座ってくるヴェルナーと少し距離を取りながら言った。
(いつもは向かい側に座るのに……性欲恐るべし!)
「今日は肌寒いだろう」
ヴェルナーはそう言いながらリベルナの肩を抱く。
確かに今日は少し肌寒い……
「あ、なるほど……いやだわ。私ったらてっきり……」リベルナは自分の凝り固まった思想を恥じた。ヴェルナーは暖を取るために傍に来ただけなのだ。
「はははは、いやぁ。リベルナさんは面白い方だ」
ヴェルナーは爽やかに笑うとリベルナの顎に手を添える。「え?あの……」
「ふふふ、なんて美しいんだセニョール」
「セニョール?」
「そうだよ。君は一面に咲く花よりも美しくてセレナーデ」
リベルナはいつもとなんだか様子が違うヴェルナーに首を傾げる。(こんな話し方だったかしら……)
「そうだよ……ああ、君の唇は薔薇のようだ」
「え?」
ヴェルナーはリベルナの唇を親指でなぞるとウットリした眼差しを彼女に向ける。「旦那様?」
「何度この唇に吸い付く想像をしたかわかるかい?」ヴェルナーはリベルナに顔を寄せる。
後少しで唇が接触しそうだ……
「だ……旦那様?」
(どうしたというの?性欲が満タンになりすぎておかしくなってしまったのかしら……!)
「さあ……このスイッチを押すのは君だ……頼む、さあ押してくれ」ヴェルナーはそう言うと顔を傾けていく……
「だ、旦那様旦那様!」
リベルナは顔を背けると彼の胸を叩いた。
なんだかまるで……別人と対話しているような気分になる。
するとヴェルナーは顔を手で覆い、苦しそうにうめき声を上げた。「あ、すみません。痛かった?」リベルナは強く叩いてしまっただろうか……と心配そうにヴェルナーに声を掛ける。
「ゴホゴホ、すまん。違うんだ。本当にただ俺は」
「大丈夫ですか?旦那様こそ寒いのでは?」リベルナは御者が馬車に乗り込む前に渡してくれたブランケットをヴェルナーの膝にも掛ける。
「いや、大丈夫大丈夫大丈夫」
「……そうです?咳をしてらしたので……」リベルナは大丈夫と繰り返し顔を手で覆ったヴェルナーを覗き込むように見た。
けれど、彼の顔は手の陰になり……殆ど真っ暗な闇のように見える。リベルナはそれが少し恐ろしく見えた。
(なんだろう……穴が空いているみたい)
「今日はパーティーはお断りしましょうか?まだ着いておりませんし……」ガタガタと揺れる車内……だけどもまだ目的地には着いていない。ヴェルナーの体調はかなり悪そうだし、今日は無理にパーティーに参加しなくても……とリベルナは思った。
(そうしたら……この計画も意味はなくなるけれど)
心が揺れる自分にリベルナは少し嫌な気分になる。
それはただ、引き伸ばしているに過ぎない。
自分が今世、業と向き合わなければいけないのは変わらないのだ。
「いや、大丈夫ざんす……」
「本当に?なんだか……」
ヴェルナーがまるで違う人のように感じる。
こんな人だったろうか……
リベルナがそう感じているとヴェルナーがゴホゴホと咳をしている。まるで何かを誤魔化すような空咳だ。
「限界だぜ、パーティーには行かなきゃいけないぜ。会いにいかなくちゃならないんだぜぇ」
「え?なんですか?」
ヴェルナーの声だけれど、ヴェルナーではない何かが話しているような錯覚にリベルナは陥る。
「ああクソ……駄目だ、やめてくれ。違う違う……」
「大丈夫ですか?」
頭を抱えるようにするヴェルナーにリベルナは声を掛ける。どうしたのだろうか……
「ギギギ……」
「え……大丈夫です?本当に……怖いです」
リベルナは怯えた。
ヴェルナーが歯をすり合わせているのか……なんだかおかしな音を出すからだ。
「すまん……すまん。すまんのぅ」
ヴェルナーは彼女が怯える様子を見せたからか、苦しそうに謝罪を繰り返す。リベルナはそんなヴェルナーの背中に咄嗟に手を添えた。
彼の背中は何かに耐えるように震えている。
「どうしたのですか?寒いの……?」リベルナはヴェルナーの背中を温めるように撫でた。「ギギギ……」
「大丈夫ですか……」
「大丈夫、大丈夫……」
ヴェルナーは揺れる車内の中、ゆっくりと立ち上がる。
フラフラと頼りない足どりで……向かいの席に倒れ込むように座ったのを見て、リベルナは不安になった。
(どうしたの……?)
「…………ゔゔ……国家権力に囚われて民を見ていないのはあなた達の方ではないのか…………クソ、やめろ。今その話はしていない」
ヴェルナーは背中を丸めると膝に頭をつけて、苦しそうにブツブツと何やら呟いている。「…………」リベルナはその様子に……何もかける言葉が見つからなくなって唖然とした。
(どうしてしまったの……?)
いつもの……冷静で、優して、頼りになるヴェルナーはリベルナの前から消えてしまった。今はただ目の前でブツブツと得体の知れない言葉を呟いている。
リベルナはそして……そんな状況だからこそ
「…………触ります?」乳房を出した。
ドレスの肩ひもを下ろし……プルッと飛び出した乳房は、夜の冷気のせいかツンと先を尖らせている。
(旦那様……性欲が溜まりすぎておかしくなっちゃったんだわ!リアム様が……男性の機嫌が悪い時は胸を揉ませろとおっしゃっていた……今!この時ですね!)
「………………ゔぅ……」
ヴェルナーが下を向いたまま、ゆらゆらと手を伸ばし……リベルナの胸をふにふにと揉む。「旦那様……大丈夫ですか?元気出してくださいませ」
「うぅ…………柔らかい……」
「柔らかいですか?たくさんどうぞ。減るもんじゃないので……」
「…………」
「落ち着くまで揉みしだいていいですよ……かわいそうな旦那様」
リベルナはゾンビのようになったヴェルナーの頭を抱えるように抱きしめた。
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