30 / 44
30
しおりを挟む
そうしてヴェルナーは普通の青年へと成長していった。聖騎士となった時に、聖女へのお目通しを行うのだが……そこで初めて会ったオリビアは幼児程のサイズでガリガリの身体にギラギラと目を光らせて「……居た……この人が私のパートナーよ」とヴェルナーを見るなり言ったのだ。
オリビアの身に降り注いでいた呪いは、ヴェルナーにも伝染し……互いになくてはならない存在になる。
オリビアにとってヴェルナーは食料として、ヴェルナーにとってオリビアは掃除屋として――――――――
オリビアが成人した日、聖女としての力が芽生えたと同時に……食べても食べても満たされることのない飢餓に苦しめられることとなる。
通常聖女と聖騎士は対になるため、毎年新しく聖騎士が排出されるたびにオリビアはお目通しをしたけれど……もう少しで命が尽きるのでは、というタイミングでヴェルナーと出会ったのだ。
その時を振り返りオリビアは「出会った瞬間に食べたくて食べたくて堪らなかった」と言った。
このような特性の聖女は歴史上初めてだったので、聖堂の関係者はコソコソと「聖女の前世が悪いのでは?」と陰口をきいているのをオリビアは知っていたけれど(なんで今の私には関係ない前世とやらのせいで私が苦労しなきゃなんないのよ)と憤慨していたものだ。
「何か余計なことを考えてるでしょ」
新しく捲れてきたヴェルナーを剥がして咀嚼しながら……オリビアはめんどくさそうに言った。「……よ、余計なこととは?」ヴェルナーは内心ドギマギしながら言った。
「……そろそろ結婚しようかなー」
「え?」ヴェルナーはオリビアの呟いた言葉に胸が痛い程ドクンっと脈打つ。たった今……自分がぼんやりと考えていたことと同じだったからだ。
「でもできればあの貴族の女の子がいいなー、忘れられない「ちょ、や、やめてください。なんですか?」オリビアがペラペラと話すセリフを慌てて阻止する。
「なに驚いてるのよ……あなたを食べているのよ?あなたの考えていることがわかるようになっても何も不思議じゃないわ」オリビアはめんどくさそうにそう言いながら「……貴族のスペア疑惑ねぇ……同情してるの?そんな噂信じて」オリビアは呆れたように言う。
オリビアはヴェルナーが貴族と結婚がしたい意味が全く理解できないようだ。
「……同情ではありません」しかしヴェルナーはただ、好きになった女性が貴族だっただけなのだ。それに……「スペアの噂は現実だと?また施設行きになるわよヴェルナー。貴族の歴史を知らないの?」オリビアはまくし立てるように言った。
オリビアにとってヴェルナーを失うことは……またしてもあの飢餓に苦しむということなのだ。
「神に最も近い存在のあなた様さえも……そうおっしゃいますか?貴族は悪だ、と……」ヴェルナーはゆっくりとした口調でそう言った。その目が……自分を蔑んでいるように見えてオリビアはとてもとても嫌だった。
そうしてまた、ヴェルナーにとってもオリビアが生きていくには、なくてはならない存在になってしまう。
(おかしい……心が……)
ヴェルナーはオリビアが自分を食べていない日が続くと、心が乱れ気持ちが散らばることに苦しめられていた。まるで、自分が何人も存在しているように。
オリビアに会うと……乱れた心が楽になる。
これがなくなってしまったら……どうなるのか?
しかしヴェルナーはここでは引くことができなかった。
「オリビア様、語り継がれたものが真実とは限らないかもしれません」
「オリビア様はどちらに?」
次の日、ヴェルナーが出勤するとオリビアの姿がない。
(……昨夜の言葉に気分を害したのだろうか……)
ヴェルナーは不安に思った。
昨日聖食をしたばかりだから問題ないが、1週間以上ハンガーストライキをされたら……どうなるのだろうか。
「オリビア様は本日私用でお休みをいただいております」
見習いの聖職者がそう言うのを聞いて……ヴェルナーは「はいそうですか」とスッキリした気分にはなれなかった。
(私用……?オリビア様は生まれも育ちも聖堂のはず、外に知り合いがいるのだろうか……?)
その日、ヴェルナーは仕事が終わっても帰宅することができないでいた。オリビアの行方が気になって仕方がない。
聖堂の前で腕を組み、ウロウロしていると……カサリと音がした。ヴェルナーが振り返ると「ヴェルナー、何してるのよ?動物園の熊みたいね」と呆れた声がして……
何もない空間から服をめくるようにオリビアが現れた。
「オリビア様……」
「……ああ、初めて見たのね?聖女の羽衣よ……姿を消す事ができるの。あまり知る人は少ないから内密に」
「……羽衣」
オリビアはヴェルナーの目には見えない衣類を手で畳むような動作をすると「どうしたの?……私ちょっと疲れてるんだけど……」と少し浮かない顔で言った。
「……今日お休みでらっしゃいましたので」
「……ああ、そうね」ヴェルナーに背を向けるようにオリビアが言う。
「どちらに行かれたのかと」
「………………ヴェルナー、人間は残酷ね」
「え?」
「あなたの結婚……私が最高指揮官に伝えておきましょう。名前は?聖女の言葉は重いから……きっと望む相手と結婚できるはずよ」
「え……?ええ……と」ヴェルナーは言葉に詰まる。
名前がわからない。
特徴から貴族だと言うことと……顔立ちしか……
「……あなたの見た少女はおそらくリベルナという女性、できるだけ早く……明日にでも結婚をするべきだわ。大至急ね」
オリビアのまくし立てるような言葉にヴェルナーは何も言えずにただ彼女を見つめた。
「……私、今から大聖堂に行ってくるから。あなたは帰って命を待って」
そんなヴェルナーを気にする素振りはないオリビアは、羽衣を聖堂の椅子に掛けそそくさと出ていったのだ。
こうしてヴェルナーは初恋の女性、リベルナを手に入れたけれど……オリビアがなぜあのような行動に出たのか、今もよくわからない。
オリビアの身に降り注いでいた呪いは、ヴェルナーにも伝染し……互いになくてはならない存在になる。
オリビアにとってヴェルナーは食料として、ヴェルナーにとってオリビアは掃除屋として――――――――
オリビアが成人した日、聖女としての力が芽生えたと同時に……食べても食べても満たされることのない飢餓に苦しめられることとなる。
通常聖女と聖騎士は対になるため、毎年新しく聖騎士が排出されるたびにオリビアはお目通しをしたけれど……もう少しで命が尽きるのでは、というタイミングでヴェルナーと出会ったのだ。
その時を振り返りオリビアは「出会った瞬間に食べたくて食べたくて堪らなかった」と言った。
このような特性の聖女は歴史上初めてだったので、聖堂の関係者はコソコソと「聖女の前世が悪いのでは?」と陰口をきいているのをオリビアは知っていたけれど(なんで今の私には関係ない前世とやらのせいで私が苦労しなきゃなんないのよ)と憤慨していたものだ。
「何か余計なことを考えてるでしょ」
新しく捲れてきたヴェルナーを剥がして咀嚼しながら……オリビアはめんどくさそうに言った。「……よ、余計なこととは?」ヴェルナーは内心ドギマギしながら言った。
「……そろそろ結婚しようかなー」
「え?」ヴェルナーはオリビアの呟いた言葉に胸が痛い程ドクンっと脈打つ。たった今……自分がぼんやりと考えていたことと同じだったからだ。
「でもできればあの貴族の女の子がいいなー、忘れられない「ちょ、や、やめてください。なんですか?」オリビアがペラペラと話すセリフを慌てて阻止する。
「なに驚いてるのよ……あなたを食べているのよ?あなたの考えていることがわかるようになっても何も不思議じゃないわ」オリビアはめんどくさそうにそう言いながら「……貴族のスペア疑惑ねぇ……同情してるの?そんな噂信じて」オリビアは呆れたように言う。
オリビアはヴェルナーが貴族と結婚がしたい意味が全く理解できないようだ。
「……同情ではありません」しかしヴェルナーはただ、好きになった女性が貴族だっただけなのだ。それに……「スペアの噂は現実だと?また施設行きになるわよヴェルナー。貴族の歴史を知らないの?」オリビアはまくし立てるように言った。
オリビアにとってヴェルナーを失うことは……またしてもあの飢餓に苦しむということなのだ。
「神に最も近い存在のあなた様さえも……そうおっしゃいますか?貴族は悪だ、と……」ヴェルナーはゆっくりとした口調でそう言った。その目が……自分を蔑んでいるように見えてオリビアはとてもとても嫌だった。
そうしてまた、ヴェルナーにとってもオリビアが生きていくには、なくてはならない存在になってしまう。
(おかしい……心が……)
ヴェルナーはオリビアが自分を食べていない日が続くと、心が乱れ気持ちが散らばることに苦しめられていた。まるで、自分が何人も存在しているように。
オリビアに会うと……乱れた心が楽になる。
これがなくなってしまったら……どうなるのか?
しかしヴェルナーはここでは引くことができなかった。
「オリビア様、語り継がれたものが真実とは限らないかもしれません」
「オリビア様はどちらに?」
次の日、ヴェルナーが出勤するとオリビアの姿がない。
(……昨夜の言葉に気分を害したのだろうか……)
ヴェルナーは不安に思った。
昨日聖食をしたばかりだから問題ないが、1週間以上ハンガーストライキをされたら……どうなるのだろうか。
「オリビア様は本日私用でお休みをいただいております」
見習いの聖職者がそう言うのを聞いて……ヴェルナーは「はいそうですか」とスッキリした気分にはなれなかった。
(私用……?オリビア様は生まれも育ちも聖堂のはず、外に知り合いがいるのだろうか……?)
その日、ヴェルナーは仕事が終わっても帰宅することができないでいた。オリビアの行方が気になって仕方がない。
聖堂の前で腕を組み、ウロウロしていると……カサリと音がした。ヴェルナーが振り返ると「ヴェルナー、何してるのよ?動物園の熊みたいね」と呆れた声がして……
何もない空間から服をめくるようにオリビアが現れた。
「オリビア様……」
「……ああ、初めて見たのね?聖女の羽衣よ……姿を消す事ができるの。あまり知る人は少ないから内密に」
「……羽衣」
オリビアはヴェルナーの目には見えない衣類を手で畳むような動作をすると「どうしたの?……私ちょっと疲れてるんだけど……」と少し浮かない顔で言った。
「……今日お休みでらっしゃいましたので」
「……ああ、そうね」ヴェルナーに背を向けるようにオリビアが言う。
「どちらに行かれたのかと」
「………………ヴェルナー、人間は残酷ね」
「え?」
「あなたの結婚……私が最高指揮官に伝えておきましょう。名前は?聖女の言葉は重いから……きっと望む相手と結婚できるはずよ」
「え……?ええ……と」ヴェルナーは言葉に詰まる。
名前がわからない。
特徴から貴族だと言うことと……顔立ちしか……
「……あなたの見た少女はおそらくリベルナという女性、できるだけ早く……明日にでも結婚をするべきだわ。大至急ね」
オリビアのまくし立てるような言葉にヴェルナーは何も言えずにただ彼女を見つめた。
「……私、今から大聖堂に行ってくるから。あなたは帰って命を待って」
そんなヴェルナーを気にする素振りはないオリビアは、羽衣を聖堂の椅子に掛けそそくさと出ていったのだ。
こうしてヴェルナーは初恋の女性、リベルナを手に入れたけれど……オリビアがなぜあのような行動に出たのか、今もよくわからない。
216
あなたにおすすめの小説
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
私から何でも奪い取る妹は、夫でさえも奪い取る ―妹の身代わり嫁の私、離縁させて頂きます―
望月 或
恋愛
「イヤよっ! あたし、大好きな人がいるんだもの。その人と結婚するの。お父様の言う何たらって人と絶対に結婚なんてしないわっ!」
また始まった、妹のワガママ。彼女に届いた縁談なのに。男爵家という貴族の立場なのに。
両親はいつも、昔から可愛がっていた妹の味方だった。
「フィンリー。お前がプリヴィの代わりにルバロ子爵家に嫁ぐんだ。分かったな?」
私には決定権なんてない。家族の中で私だけがずっとそうだった。
「お前みたいな地味で陰気臭い年増なんて全く呼んでないんだよ! ボクの邪魔だけはするなよ? ワガママも口答えも許さない。ボクに従順で大人しくしてろよ」
“初夜”に告げられた、夫となったルバロ子爵の自分勝手な言葉。それにめげず、私は子爵夫人の仕事と子爵代理を務めていった。
すると夫の態度が軟化していき、この場所で上手くやっていけると思った、ある日の夕方。
夫と妹が腕を組んでキスをし、主に密会に使われる宿屋がある路地裏に入っていくのを目撃してしまう。
その日から連日帰りが遅くなる夫。
そしてある衝撃的な場面を目撃してしまい、私は――
※独自の世界観です。ツッコミはそっと心の中でお願い致します。
※お読みになって不快に思われた方は、舌打ちしつつそっと引き返しをお願い致します。
※Rシーンは「*」を、ヒロイン以外のRシーンは「#」をタイトルの後ろに付けています。
【完結】私は義兄に嫌われている
春野オカリナ
恋愛
私が5才の時に彼はやって来た。
十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。
黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。
でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。
意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。
聖女だった私
山田ランチ
恋愛
※以前掲載したものを大幅修正・加筆したものになります。重複読みにご注意下さいませ。
あらすじ
聖女として国を救い王都へ戻ってみたら、全てを失っていた。
最後の浄化の旅に出て王都に帰ってきたブリジット達、聖騎士団一行。聖女としての役目を終え、王太子であるリアムと待ちに待った婚約式を楽しみにしていたが、リアムはすでに他の女性と関係を持っていた。そして何やらブリジットを憎んでいるようで……。
リアムから直々に追放を言い渡されたブリジットは、自らが清めた国を去らなくてはいけなくなる。
登場人物
ブリジット 18歳、平民出身の聖女
ハイス・リンドブルム 26歳、聖騎士団長、リンドブルム公爵家の嫡男
リアム・クラウン 21歳、第一王子
マチアス・クラウン 15歳、第二王子
リリアンヌ・ローレン 17歳、ローレン子爵家の長女
ネリー ブリジットの侍女 推定14〜16歳
エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。
普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。
※課長の脳内は変態です。
なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。
責任を取らなくていいので溺愛しないでください
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。
だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。
※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。
※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。
(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身
青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。
レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。
13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。
その理由は奇妙なものだった。
幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥
レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。
せめて、旦那様に人間としてみてほしい!
レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。
☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる