混沌なる異世界(カオス・ワールド)~様々な異世界国家が集まる異世界の坩堝~

波 七海

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第20話 王都ハン・バーグへ

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 陸海軍基地の沈黙後、バルークの代官所は空から送り込まれた陸防隊の1個中隊により速やかに強襲制圧された。

 魔導小銃を相手に剣とわずかな魔力銃で戦いを挑んでも勝てる訳がなく代官所に詰めていた兵士200名は排除され代官と戦意を喪失した者たちは為す術もなく降伏した。

 幹部クラスの国防隊員は休む間もなく次の作戦の会議をしていた。

 ――護衛艦〈ユリス〉小会議室

 集まったのはノーリッジ海将、魔導戦艦〈リーン〉艦長ホルス空将、コルツ一等陸佐、マイコー特殊警察部隊ユース隊員、そして外交官のオボロである。本国で綿密な打ち合わせは行っていたが今回の作戦には軍以外の特殊警察部隊ユースの一員も参加することになっている。

 注意してもしすぎることはないのだ。
 ぐるりと皆の顔を見回してからノーリッジが最初に口を開いた。

「それでは最終打ち合わせを行いましょう。まず距離ですが、ここバルークから王都のハン・バーグまで200kmと言ったところです。途中に都市や基地があるようですがそれを全部潰していくと陸さんに大いに負担がかかりますし幸い王都は海に面していますので護衛艦と魔導戦艦のみで強襲するのが手っ取り速いかと。飛龍隊は魔導戦艦の対空魔導砲と戦闘機で対応し、護衛艦から発艦させた輸送ヘリで陸さんの1個小隊とユースのマイコーさんを空から突入させて武装勢力の首魁であるバーグ王を逮捕します。如何かな?」

「別に占領したい訳じゃないですしね……。それに陸防隊の現有戦力で王国全土を占領統治なんてできっこありません」

 コルツ一等陸佐は現有戦力の不足を十分に理解しているので自嘲気味に呟く。
 陸上戦力はどうしても技術格差が出にくい。
 とは言えバーグ王国軍の装備を分析した結果では格差は圧倒的なので心配する必要などないのだが万が一がある。

「そうなると戦中みたいに兵力増やさないといけませんね」
「と言うか、そもそも国家とみなしていないですし」

 その言葉に一同からHAHAHAと乾いた笑い声が漏れる。
 室内が微妙な雰囲気になる中、言うべきことがあったオボロが仕方なく新情報を切り出した。

「懸念がないこともありません。先日ですが隣国のコクリ国がバーグ王国に侵攻したとの情報が入っています。それにバーグ王国はタイカ大帝國に朝貢しているので宗主国として介入してくる可能性を政府は危惧しています」

「ええ……今、バーグ王を逮捕しちゃったら国がなくなるんじゃ……」
「となると謝罪と賠償請求は無理ですね」

「そのコクリ国とは国交の締結はできたのかね?」
「まさか! 蛮族扱いされてうの体で逃げ帰ったらしいですよ」

 コクリ国もバーグ王国同様、タイカ大帝國に朝貢しているのだが仲は普通に悪い。
 オースティン大陸の東部と南部では特に朝貢国家が多く列強国の1つに数えられるタイカ大帝國の影響が強いのだ。

「文明レベルはどうなのかね?」
「あまり変わらないようです。騎馬民族みたいですが魔法も使いますし魔力銃も所持しているようですね」

「戦況は?」
「不明です」

 内偵するにも時間がなさすぎた。
 何しろ言語解析が進んでいるのは、公用語である世界共通語とバーグ語、アルトア語だけなのだ。せいぜいバーグ王国の王城内に潜入させることができたくらいである。

「バルークのように一気呵成に制圧するしかないか」
「王都までにある軍基地はどうするんですか?」

「全部破壊することもできますが、最悪隣国からの侵攻でバーグ王国自体が滅亡する可能性を考えると戦力は残しておいた方が良いかと思われます」
「ええ、政府もそれを望んでいません」

 オボロとしては政府の意思を伝えるのみだ。
 国防隊の中で、出しゃばり過ぎるのは良くないだろう。

 周辺国家の介入を許せばそのまま泥沼の戦争に発展する可能性が高く、資源のない島国であるユースティアは世界から断絶しかねない。
 なにせ公海上にはマギロンはないのだ。
 ことの重要性を再認識した会議出席者が黙り込み室内が重い空気に包まれる。
 それを撃ち破ったのはノーリッジの覚悟に満ちた言葉だった。

「なんにせよ。政府の決定には従う。我々にできるのはそれだけだ」

 会議終了後、すぐさま護衛艦は北上を開始。
 時間を合わせて魔導戦艦もゆくっくりと進路を北に向けた。
 同時にユースティア本土からも制空権確保のため50機の戦闘機Y-15がジェットエンジンを吹かして空へと飛び立った。

 綿密な時間調整の下に。

 朗報だったのはバルーク防衛のために護衛艦と魔導戦艦を1隻ずつ派遣することが決まったことだろう。
 タイカ大帝國が魔導船を大量に有していることを想定しての決定である。
 超高高度偵察機〈ホーク・アイ〉による航空映像と写真によれば魔導船の大規模投入はないとの分析結果が出たが念には念を入れる判断が政府首脳がしたと言うことだ。



 ―――



 ――バーグ王国王都ハン・バーグ 

 2か月前のアルトア王国攻略軍の大敗はバーグ王国にとって大きな痛手であった。
 10万近い被害(捕虜含め)を出した大敗北。
 その戦闘結果を聞きつけたのか、北東の隣国であるコクリ国、タイシン国が国境を越えて侵攻してきたのだ。
 国境付近に兵を駐屯させるところから始まり、ちょくちょく越境をするようになって局地的な争いになる。その攻勢を何とか受け流し続けていたところに今回のコクリ国による本格侵攻であった。

 タイシン国とは小競り合い程度だとは言え、2か国から侵攻を受けたバーグ王国上層部は会議が紛糾していた。
 行われているのは国王を交えた御前会議である。
 参加者は国王であるベラル・バーグ以下、大将軍フェーン、軍師ムノウ、外務卿セルノ、軍務卿ガルラ、第1騎士団長タリック、第2騎士団長ズルーノ、海軍本部司令ミミガーとそうそうたる顔ぶれが揃っている。

「だから早期の講和をと言っとるんだッ!」
「それができたら苦労などしていない」

 状況は大体がセルノとガルラが大音声で罵り合い、ムノウが困惑顔でオロオロしているの構図である。
 ムノウが軍師の立場にいるのは国王の身内、甥であるからと言う理由もあったが、この場にはあまり相応しくないように見える。
 フェーンとタリック、ズルーノたちはそれを渋い表情で見つめている。
 ミミガーに至っては海軍と言うこともありまるで他人事のように考えていた。

「タイシン国は昨年の飢饉の影響から回復していない! 大規模攻勢する戦力などなく講和に持ち込めば軍をコクリ戦線に回せる! 後は要塞に立て籠もって時間稼ぎをすれば良いのだ!」
「実際攻めて来とるんだ。こちらからの講和の打診にも興味を示さぬ。希望的観測はやめてもらおう」

 現在、王都が動員できるのはせいぜい3万、飛龍隊が20騎と言ったところで、既にコクリ戦線に5万の兵力と20騎の飛龍隊を送っている。
 対するコクリ国の兵力は斥候によれば12万を超えると言う。
 飛龍隊も50騎ほど確認されており制空権を取られている圧倒的不利な状況は覆せないだろう。

「国内の各基地から軍を召集すべきでは?」

 フェーンがようやく重い口を開くがそう簡単に軍を動かせない事情を抱えていた。
 長年に渡る重い税負担によって民衆の不満が高まっている状況だ。
 実際、武装蜂起が起こっている都市がいくつかあり今は問題なくとも軍を動かせば民が立ち上がる可能性を捨てきれない。

「それにバルークからの定時魔力通信が途切れて久しい。こちらからの問いかけにも応答がなく何かが起きた可能性が高いだろう」
「バルークでも蜂起か……」

「いや、そうとも言い切れぬ……。敵国による侵攻も考えられよう」
「敵ですと? となればどこから? まさかアルトア王国とは言いますまいな?」

 ムノウがコイツ正気かよと言った表情で呆れたような態度を見せる。
 それを見たフェーンの拳は岩をも砕かんばかりに硬く握られ爪が喰い込んで出血するほどだ。

「まだあるだろう。あの国だ」

「「「(ああ、あの国か)」」」

 バルークに来たのはユースティアと言う国家だと魔力通信で報告を受けているが軍師ムノウは流して聞いていたため覚えがなかった。多くの者が察する中、ムノウは理解が及ばずに悪態をつく。

「あの国とはどこの国なのです。はっきりと申せばよかろうに。まったく脳筋はこれだからいかぬ」
「我らが攻め込んだと思われるユースティアと言う名の国だ」

 血管が切れそうなほどの青筋を額に浮かべながらフェーンが言った。
 何とか抑えているがいつブチギレてもおかしくはない。

「ああ、有りましたなぁ。しかし所詮は蛮族。例え王都に攻めてこようが私の知略を持ってすれば撃退することなど容易い」

 フェーンとは異なりムノウは余裕綽々の態度で見下したかのようなことを言ってのける。

「その蛮族相手に10万近くの兵が消えたのだ」
「どうせ地の利を生かして勝利したか、錯乱した帰還兵の戯言かのどちらかでしょう」

 アルトア王国攻略軍は全滅した訳ではない。
 多くの船は沈められたが何とか帰還した兵もいるのだ。
 もちろん見逃されたのはユースティア側が逆に大虐殺を起こして問題になるのを恐れたせいでもある。ちなみに帰還兵のほとんどが心神喪失状態に陥っている。 

「それに攻めてきたと言うならば何故すぐにこないのです? 2ヵ月近く経ってからようやく攻めてくるなど有り得ませぬな。もしや船も作れぬ蛮族やも知れませぬぞ?」
「貴殿は多くの目撃証言を全て嘘だと断じるのかッ!?」

 フェーンとムノウの舌戦が繰り広げられる。
 舌戦と言うほど高尚な戦いかは誰にも分からない。

「もう良い。例えバルークが落ちていたとしても王都まで進軍するにはかなりの日数を要する。大将軍フェーンよ、直ちに兵2万5千と飛龍10騎を率いてコクリ戦線に援軍として赴け」

「御意」

 進まない会議に業を煮やしたバーグ国王がついに決断し命令を下した。
 国王の言は絶対。
 フェーンは大将軍としての責を果たすべく頭を垂れるのであった。
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