40 / 41
第40話 ユースティア・タイカ大帝國戦争 ④
しおりを挟む
これこそがタイカ大帝國の誇る最終生物兵器。
オースティン大陸の中でもタイカ大帝國領でしか確認されていない赤い龍――炎龍。
その額に埋め込まれた魔核によって龍と同期できる龍使いたるタイカ大帝國皇帝のみが操ることができる秘術。
バーグ王国王都上空に猛スピードで到達したそれは一羽ばたきして滞空した。
王都ハン・バーグの市街は初めて見る巨大龍に恐慌状態に陥り、国民たちはパニックで騒乱が起きていた。
王城のバルコニーから戦争の様子を見ていた新王ムノウも度肝を抜かれて腰砕けの状態だ。
『チッ……ヘリみたいに滞空できるのか。指示を求む』
『俺らを睨んんでやがる……あまり近づくと危険だぜ』
まだ対空誘導弾を搭載したY-15戦闘機は炎龍の周りを飛び回り牽制している。
それが鬱陶しいようでしきりに気にしてその長い首を振り機嫌が悪そうだ。
『魔導砲による攻撃を具申します。艦隊により一斉射撃を行います』
海防隊と空防隊で所属は違うが、本作戦では戦闘指揮権はイージス護衛艦〈ユリス〉にある。艦長のセイイチ・ホウジョウ海将が僅かに逡巡する。
「(恐らくは魔法由来の生物だろう……魔導砲が効くか? それとも対空ミサイルの飽和攻撃の方がベストか?)」
それも一瞬。
ホウジョウ海将は魔導艦隊による攻撃を選択した。
「魔導艦隊上昇せよ。全砲門を持って一斉射撃を行え」
命令は正確に全部隊に下され、魔導艦隊が動き出す。
攻撃を仕掛けるのは魔導戦艦〈リーン〉、魔導戦艦〈ティア〉、魔導戦艦〈ホルス〉、魔導巡洋艦〈トリス〉、魔導巡洋艦〈ニース〉である。
「戦闘機は魔導艦隊を支援せよ。敵の出せる速度、旋回能力、滞空能力、上昇能力、攻撃方法などを把握したい」
更にユースティア本土に戦闘機の増援を依頼する。
対空ミサイルによる飽和攻撃を試す必要があるかも知れない。
『ラムダ、了解』
『シグマ、了解』
魔導艦隊の攻撃準備が整うまでは何とか注意を引きつけたいところだ。
Y-15の内の1機が炎龍の正面からドッグファイトを仕掛ける。
『チキンレースだッ! テメーも漢なら踏み止まって見せやがれッ!』
マッハ2.5を超える速度で炎龍に迫りその距離は一瞬で詰まっていく。
すると炎龍がすかさず反応し、大きく口を開くとその口元に赤い光が灯る。
嫌な予感がしたラムダのパイロットだが男と男の勝負から降りる訳にはいかないと意味不明のプライドを胸に回避行動に移らない。極度の緊張感の中、それに耐えて突っ込むパイロットに炎龍の口から噴射された炎が襲い掛かる。
間一髪のところで急上昇に転じるY-15。
想像を遥かに超える火炎放射だ。飛龍の火炎弾など比較にもならない。
『なッ……漢の勝負を踏みにじりやがった!』
「……誰かあいつを黙らせろ」
沈痛な面持ちで溜め息をつきながらホウジョウ海将からの指示が飛ぶ。
炎龍は急上昇した機体を追いかけて後を追う。
その加速は凄まじく1つ羽ばたくごとに一気に距離を詰めてくる。
現代科学の結晶であるY-15が負ける訳にはいかないとラムダのパイロットは一転急降下し、機体を大きく旋回させる。だがそれにも着いて来る炎龍。
『こいつ速いぞ! 赤いからか!? 一旦距離を取る!』
急加速には流石の炎龍もついては来れなかったようで諦めたのか、その場で滞空し周囲を見回している。
そこには上昇して臨戦態勢に入った魔導艦隊の姿。
それに気付いた炎龍の注意が艦隊の方に向けられる。
目下のところ双方の距離は15km。
離れているようだが先程の急加速を目にした魔導艦隊の艦長たちに油断などなかった。とは言え初めて体験する予測不能な事態に緊張は最高潮に達する。
「魔導砲出力上昇! 全砲門、撃ちぃ方始め!」
『魔導砲出力上昇! 全砲門、撃ちぃ方始め!』
命令が復唱され魔導艦隊から五月雨のように魔導砲が発射され、炎龍へと降り注ぐ。その場にいた全員がその効果を固唾を飲んで見守っている。
――だが
「魔導レーダーに感あり。目標健在! 動きなし!」
レーダー士から悲鳴のような声が上がる。
魔導戦艦の主砲ですらダメージを与えるに至っていない。
「撃ち方止め。目標を確認する」
やがて爆裂式魔導砲による煙が晴れると徐々にその全様が明らかになっていく。
「目標の無事を確認。無傷な模様……。ッ? 何かフィールドのような球体に覆われています!」
「フィールドだと?」
監視員からの報告に魔導戦艦〈リーン〉の艦長も直接、超望遠機能を使って大型モニターに表示させる。
乗組員の理解が及ばない。
「何だあれ……バリア?」
しばしの沈黙の中、ようやく誰かの口から声が漏れるが誰もがそれが何なのか理解できずにいた。ユースティアの逆位相による魔導障壁とも違うものなのだがこれだけは本能的に理解できた。
あれによって魔導砲が無力化されたのだと言うことを。
「一点突破型収束魔導砲を使う。各艦用意ができ次第撃って良し!」
原理は不明だが撃ち破れるとしたらそれしかないと艦長は判断する。
『撃ってぇ!!』
各艦の艦長が叫ぶ。
主砲から発射された一点突破型収束魔導砲が一斉に火を噴いた。
一発、二発、三発……と次々と命中するとバリアには徐々に亀裂が入り五発目にようやく砕け散る。
まるでガラスの球のように。
「全砲撃てぃ!」
再び魔導砲が炎龍の体に集中する。
様子を見ているのか、動きはなく良い的だ。
「チッ……有効弾はなしか……」
「僅かながら流血があるようです。撃ち続けましょう」
魔導戦艦〈リーン〉では艦長と副長が話し合っていた。
通常魔導砲が効かないなら、一点突破型収束魔導砲を撃ちまくればいいのだと言う短絡的な思考だ。しかしこの魔導砲はタメが長い。
「目標、再びバリアを展開」
その時、イージス護衛艦〈ユリス〉から全部隊に無線が入る。
『残っているY-15による対空ミサイルの飽和攻撃を行う。10機は全弾撃ち尽くせ! 魔導艦隊は一点突破型収束魔導砲の準備にかかれ!』
対空攻撃が可能なイージス護衛艦2隻と巡洋艦級護衛艦2隻も王都沖に展開しているが、ホウジョウ海将は今回の攻撃を見てからの攻撃に加わるか否かを判断することにした。間もなく増援のY-15がやってくる。その時にタイミングを合わせて全艦隊と全戦闘機による飽和攻撃を行うつもりだ。
命令を受けて半島に残っていた10機が編隊を組み直し炎龍に進路を取る。
まずは対空誘導弾のみによる攻撃を行う。
空中にいる味方魔導艦隊の更に上空をパスしたY-15、全機は超至近距離でほぼ同時に各4発の対空誘導弾を放ち急旋回する。
対空誘導弾はマッハ3の速度で炎龍に迫るが、飛来するそれに何かを感じたのか身をかわそうと羽ばたくと回避行動を取った。しかしかわしたつもりの攻撃は進路を変え、再び炎龍に肉薄すると全弾命中した。
すぐにレーダー士から報告がくる。
「レーダーに感あり。目標健在!」
そこには再びバリアを張った炎龍の姿があった。
ホウジョウ海将が唸る。
こうなれば、タイミングを合わせての飽和攻撃だ。
一点突破型収束魔導砲を叩きこんでバリアを破壊後に間断なく対空誘導弾を叩きこむ。
それしかない。
「もうすぐ本土からY-15が来援する。その時が勝負だ。魔導艦隊はそれまで攻撃し続けろ!」
炎龍からの攻撃はまだ火炎放射が1度あっただけだ。
攻撃し続けて相手に付け入る隙を与えてはならない。
対空誘導弾を撃ち尽くした全機は本土へ帰投する。
護衛艦は攻撃目標にされないように来たる来援機を待って攻撃を仕掛けるため動けない。となれば敵の目を引きつけるのは魔導艦隊の役割となる。
もう何度目になるかも分からない魔導砲が一斉に発射される。
各艦長たちは予測した。
炎龍が再びバリアを展開して耐える選択をするだろうと。
しかしそれはあっさりと裏切られる。
炎龍が急旋回で魔導砲を回避すると口から巨大な火炎弾を放ったのだ。
それは火炎放射とは違い、かなりの速度で魔導艦に迫る。
「回避! 面舵いっぱい!」
魔導巡洋艦〈トリス〉が回避行動を取るが躱しきれない。
火炎弾は左舷に命中する。
「左舷に被弾! そ、装甲が溶解している模様!」
「クソッ……機関はどうなった!?」
「機関出力正常! 飛べます!」
「一点突破型収束魔導砲を撃てッ!」
魔導巡洋艦〈トリス〉の艦内の緊張が一気に高まった。
炎龍が攻撃に転じたのだ。
しかも有効弾でありこれ以上の命中弾は避けなければならない。
動揺が走ったのは他の魔導艦も同様だ。
最悪、落ちる。
転移以来、軍事行動初の犠牲者が出るかも知れない。
そんな恐怖が艦内に広がり、このままでは何かを引き金に恐慌状態に陥る可能性がある。
炎龍は旋回を続け、次の目標を定めたのか急降下を開始。
大きく口を開くと火炎放射を放った。
速度が違い過ぎる。
魔導艦の速度は時速300km~400km程度しか出ないのだ。
相手は下手をすれば戦闘機並の速度と機動力を持つと予想される。
まともに火炎放射を喰らった魔導戦艦〈ホルス〉が炎に包まれて炎上した。
幸いだったのは火炎弾ではなく火炎放射だったことと、魔導障壁による減衰・強化と装甲の難燃性、これに尽きる。艦橋の一部が炎上しているが広がる様子はない。
各艦から一点突破型収束魔導砲が発射される。
超高速で動き回る炎龍に直線の魔導砲は当たらない。
科学技術による誘導弾搭載型の魔導艦は未だ配備されていないのだ。
誘導型魔導砲に至ってはテスト段階である。
それでも撃ち続けなければならない。
牽制すらしないとなれば炎龍は労せずして各艦を攻撃していくだろう。
「くそ……誘導魔導弾が撃てればな……」
実用化していたのは旧世界の超魔導大国であったアマリア帝國くらいのものだ。
イージス護衛艦〈ユリス〉の戦闘指揮所ではホウジョウ海将が戦闘機の来援をひらすら祈っていた。
魔導艦が落とされれば一点突破型収束魔導砲が撃てなくなる。
恐らく炎龍のバリアを破壊できるのはそれしかないだろう。
対空ミサイルの攻撃のみで破壊できるとは思えない。
「魔導戦艦〈ティア〉に被弾! 火炎弾です。右舷に爆発を認める!」
「来援はまだか……全て落とされるぞ……」
「レーダーに感あり。南東から本土から来援! 間もなく到着します! 数50!」
「来たかッ!」
ホウジョウ海将はガタッと立ち上がると叫んだ。
「来援機に通信。炎龍の注意を引いてくれ! 距離を詰めて攪乱せよ!」
「危険すぎます!」
「承知の上だッ! 魔導艦を落とす訳にはいかん!」
待ちに待ったY-15戦闘機が到着した。
またうるさいのが来たかとばかりに炎龍の動きが止まる。
「魔導艦隊が近すぎる。距離を取らせろ!」
まずは炎龍の動きを止めてバリアを張らせることが先決だ。
それを一点突破型収束魔導砲で破壊し、間髪入れずに対空誘導弾の飽和攻撃で勝負を決める。
「魔導戦艦〈リーン〉に被弾! 高度が落ちています!」
「死んでも落ちるなッ! 主砲の仰角が足りなくなるぞ!」
Y-15の1機が牽制の対空誘導弾を1発発射する。
当然のようにバリアに阻まれるが注意を引くことには成功したようだ。
その隙に魔導艦隊が炎龍から距離を取る。
「全部隊に通達。これから一斉攻撃を開始する。タイミングを合わせろ! 外すな。必ず当てろッ!」
作戦内容が通達される。
賽は投げられた。
本作戦はタイミングが全てだ。
射撃統制システムにより着弾予測が算出されカウントダウンが開始される。
炎龍は近づくY-15を確実に捉えているのかバリアを解除して火炎弾を何発も撃ち出し始めた。
「バリアを解除しないと攻撃できないのか……。まぁ作戦に影響はない」
魔導艦隊から一斉に一点突破型収束魔導砲が5発発射される。
それから少し遅れてY-15、50機から各4発、計200発の対空誘導弾が発射される。更にはイージス護衛艦2隻、と巡洋艦級護衛艦2隻からも計220発の対空誘導弾が発射された。
世界の刻が止まる。
この場にいる全ての国防隊員が勝負の行方を見守っていた。
緊張が最高潮に達した瞬間――
炎龍が大爆発を引き起こした。
レーダー士が確認、通信士が全部隊に無線を送る。
「目標ロスト……撃破したと思われます」
魔導レーダーから魔力反応が消失していた。
そして煙が晴れ国防隊員たちの目が一点に集中する。
そこで見たものは――バラバラになって落ちていく炎龍の姿であった。
『え、炎龍……目標撃破! 敵反応ありません!』
その瞬間、全ての艦、戦闘機に乗る国防隊員から大きな歓声が上がった。
――ユリウス歴2569年4月5日
この日、クレア半島のバーグ王国王都、ハン・バーグで起こったユースティア・タイカ大帝國戦争は終結を見た。
ユースティアのイージス護衛艦2隻、巡洋艦級護衛艦2隻、魔導戦艦3隻、魔導巡洋艦2隻、戦闘機Y-15、のべ100機の攻撃を受けタイカ大帝國の魔導艦隊は殲滅。最終生物兵器の炎龍は一点突破型収束魔導砲と対空誘導弾の飽和攻撃によって爆発四散。その後、到着した竜騎兵15万も魔導砲による対地攻撃によりこの世から消えた。
これは列強国が事実上、大敗北した瞬間であり歴史の転換点となる。
オースティン大陸の中でもタイカ大帝國領でしか確認されていない赤い龍――炎龍。
その額に埋め込まれた魔核によって龍と同期できる龍使いたるタイカ大帝國皇帝のみが操ることができる秘術。
バーグ王国王都上空に猛スピードで到達したそれは一羽ばたきして滞空した。
王都ハン・バーグの市街は初めて見る巨大龍に恐慌状態に陥り、国民たちはパニックで騒乱が起きていた。
王城のバルコニーから戦争の様子を見ていた新王ムノウも度肝を抜かれて腰砕けの状態だ。
『チッ……ヘリみたいに滞空できるのか。指示を求む』
『俺らを睨んんでやがる……あまり近づくと危険だぜ』
まだ対空誘導弾を搭載したY-15戦闘機は炎龍の周りを飛び回り牽制している。
それが鬱陶しいようでしきりに気にしてその長い首を振り機嫌が悪そうだ。
『魔導砲による攻撃を具申します。艦隊により一斉射撃を行います』
海防隊と空防隊で所属は違うが、本作戦では戦闘指揮権はイージス護衛艦〈ユリス〉にある。艦長のセイイチ・ホウジョウ海将が僅かに逡巡する。
「(恐らくは魔法由来の生物だろう……魔導砲が効くか? それとも対空ミサイルの飽和攻撃の方がベストか?)」
それも一瞬。
ホウジョウ海将は魔導艦隊による攻撃を選択した。
「魔導艦隊上昇せよ。全砲門を持って一斉射撃を行え」
命令は正確に全部隊に下され、魔導艦隊が動き出す。
攻撃を仕掛けるのは魔導戦艦〈リーン〉、魔導戦艦〈ティア〉、魔導戦艦〈ホルス〉、魔導巡洋艦〈トリス〉、魔導巡洋艦〈ニース〉である。
「戦闘機は魔導艦隊を支援せよ。敵の出せる速度、旋回能力、滞空能力、上昇能力、攻撃方法などを把握したい」
更にユースティア本土に戦闘機の増援を依頼する。
対空ミサイルによる飽和攻撃を試す必要があるかも知れない。
『ラムダ、了解』
『シグマ、了解』
魔導艦隊の攻撃準備が整うまでは何とか注意を引きつけたいところだ。
Y-15の内の1機が炎龍の正面からドッグファイトを仕掛ける。
『チキンレースだッ! テメーも漢なら踏み止まって見せやがれッ!』
マッハ2.5を超える速度で炎龍に迫りその距離は一瞬で詰まっていく。
すると炎龍がすかさず反応し、大きく口を開くとその口元に赤い光が灯る。
嫌な予感がしたラムダのパイロットだが男と男の勝負から降りる訳にはいかないと意味不明のプライドを胸に回避行動に移らない。極度の緊張感の中、それに耐えて突っ込むパイロットに炎龍の口から噴射された炎が襲い掛かる。
間一髪のところで急上昇に転じるY-15。
想像を遥かに超える火炎放射だ。飛龍の火炎弾など比較にもならない。
『なッ……漢の勝負を踏みにじりやがった!』
「……誰かあいつを黙らせろ」
沈痛な面持ちで溜め息をつきながらホウジョウ海将からの指示が飛ぶ。
炎龍は急上昇した機体を追いかけて後を追う。
その加速は凄まじく1つ羽ばたくごとに一気に距離を詰めてくる。
現代科学の結晶であるY-15が負ける訳にはいかないとラムダのパイロットは一転急降下し、機体を大きく旋回させる。だがそれにも着いて来る炎龍。
『こいつ速いぞ! 赤いからか!? 一旦距離を取る!』
急加速には流石の炎龍もついては来れなかったようで諦めたのか、その場で滞空し周囲を見回している。
そこには上昇して臨戦態勢に入った魔導艦隊の姿。
それに気付いた炎龍の注意が艦隊の方に向けられる。
目下のところ双方の距離は15km。
離れているようだが先程の急加速を目にした魔導艦隊の艦長たちに油断などなかった。とは言え初めて体験する予測不能な事態に緊張は最高潮に達する。
「魔導砲出力上昇! 全砲門、撃ちぃ方始め!」
『魔導砲出力上昇! 全砲門、撃ちぃ方始め!』
命令が復唱され魔導艦隊から五月雨のように魔導砲が発射され、炎龍へと降り注ぐ。その場にいた全員がその効果を固唾を飲んで見守っている。
――だが
「魔導レーダーに感あり。目標健在! 動きなし!」
レーダー士から悲鳴のような声が上がる。
魔導戦艦の主砲ですらダメージを与えるに至っていない。
「撃ち方止め。目標を確認する」
やがて爆裂式魔導砲による煙が晴れると徐々にその全様が明らかになっていく。
「目標の無事を確認。無傷な模様……。ッ? 何かフィールドのような球体に覆われています!」
「フィールドだと?」
監視員からの報告に魔導戦艦〈リーン〉の艦長も直接、超望遠機能を使って大型モニターに表示させる。
乗組員の理解が及ばない。
「何だあれ……バリア?」
しばしの沈黙の中、ようやく誰かの口から声が漏れるが誰もがそれが何なのか理解できずにいた。ユースティアの逆位相による魔導障壁とも違うものなのだがこれだけは本能的に理解できた。
あれによって魔導砲が無力化されたのだと言うことを。
「一点突破型収束魔導砲を使う。各艦用意ができ次第撃って良し!」
原理は不明だが撃ち破れるとしたらそれしかないと艦長は判断する。
『撃ってぇ!!』
各艦の艦長が叫ぶ。
主砲から発射された一点突破型収束魔導砲が一斉に火を噴いた。
一発、二発、三発……と次々と命中するとバリアには徐々に亀裂が入り五発目にようやく砕け散る。
まるでガラスの球のように。
「全砲撃てぃ!」
再び魔導砲が炎龍の体に集中する。
様子を見ているのか、動きはなく良い的だ。
「チッ……有効弾はなしか……」
「僅かながら流血があるようです。撃ち続けましょう」
魔導戦艦〈リーン〉では艦長と副長が話し合っていた。
通常魔導砲が効かないなら、一点突破型収束魔導砲を撃ちまくればいいのだと言う短絡的な思考だ。しかしこの魔導砲はタメが長い。
「目標、再びバリアを展開」
その時、イージス護衛艦〈ユリス〉から全部隊に無線が入る。
『残っているY-15による対空ミサイルの飽和攻撃を行う。10機は全弾撃ち尽くせ! 魔導艦隊は一点突破型収束魔導砲の準備にかかれ!』
対空攻撃が可能なイージス護衛艦2隻と巡洋艦級護衛艦2隻も王都沖に展開しているが、ホウジョウ海将は今回の攻撃を見てからの攻撃に加わるか否かを判断することにした。間もなく増援のY-15がやってくる。その時にタイミングを合わせて全艦隊と全戦闘機による飽和攻撃を行うつもりだ。
命令を受けて半島に残っていた10機が編隊を組み直し炎龍に進路を取る。
まずは対空誘導弾のみによる攻撃を行う。
空中にいる味方魔導艦隊の更に上空をパスしたY-15、全機は超至近距離でほぼ同時に各4発の対空誘導弾を放ち急旋回する。
対空誘導弾はマッハ3の速度で炎龍に迫るが、飛来するそれに何かを感じたのか身をかわそうと羽ばたくと回避行動を取った。しかしかわしたつもりの攻撃は進路を変え、再び炎龍に肉薄すると全弾命中した。
すぐにレーダー士から報告がくる。
「レーダーに感あり。目標健在!」
そこには再びバリアを張った炎龍の姿があった。
ホウジョウ海将が唸る。
こうなれば、タイミングを合わせての飽和攻撃だ。
一点突破型収束魔導砲を叩きこんでバリアを破壊後に間断なく対空誘導弾を叩きこむ。
それしかない。
「もうすぐ本土からY-15が来援する。その時が勝負だ。魔導艦隊はそれまで攻撃し続けろ!」
炎龍からの攻撃はまだ火炎放射が1度あっただけだ。
攻撃し続けて相手に付け入る隙を与えてはならない。
対空誘導弾を撃ち尽くした全機は本土へ帰投する。
護衛艦は攻撃目標にされないように来たる来援機を待って攻撃を仕掛けるため動けない。となれば敵の目を引きつけるのは魔導艦隊の役割となる。
もう何度目になるかも分からない魔導砲が一斉に発射される。
各艦長たちは予測した。
炎龍が再びバリアを展開して耐える選択をするだろうと。
しかしそれはあっさりと裏切られる。
炎龍が急旋回で魔導砲を回避すると口から巨大な火炎弾を放ったのだ。
それは火炎放射とは違い、かなりの速度で魔導艦に迫る。
「回避! 面舵いっぱい!」
魔導巡洋艦〈トリス〉が回避行動を取るが躱しきれない。
火炎弾は左舷に命中する。
「左舷に被弾! そ、装甲が溶解している模様!」
「クソッ……機関はどうなった!?」
「機関出力正常! 飛べます!」
「一点突破型収束魔導砲を撃てッ!」
魔導巡洋艦〈トリス〉の艦内の緊張が一気に高まった。
炎龍が攻撃に転じたのだ。
しかも有効弾でありこれ以上の命中弾は避けなければならない。
動揺が走ったのは他の魔導艦も同様だ。
最悪、落ちる。
転移以来、軍事行動初の犠牲者が出るかも知れない。
そんな恐怖が艦内に広がり、このままでは何かを引き金に恐慌状態に陥る可能性がある。
炎龍は旋回を続け、次の目標を定めたのか急降下を開始。
大きく口を開くと火炎放射を放った。
速度が違い過ぎる。
魔導艦の速度は時速300km~400km程度しか出ないのだ。
相手は下手をすれば戦闘機並の速度と機動力を持つと予想される。
まともに火炎放射を喰らった魔導戦艦〈ホルス〉が炎に包まれて炎上した。
幸いだったのは火炎弾ではなく火炎放射だったことと、魔導障壁による減衰・強化と装甲の難燃性、これに尽きる。艦橋の一部が炎上しているが広がる様子はない。
各艦から一点突破型収束魔導砲が発射される。
超高速で動き回る炎龍に直線の魔導砲は当たらない。
科学技術による誘導弾搭載型の魔導艦は未だ配備されていないのだ。
誘導型魔導砲に至ってはテスト段階である。
それでも撃ち続けなければならない。
牽制すらしないとなれば炎龍は労せずして各艦を攻撃していくだろう。
「くそ……誘導魔導弾が撃てればな……」
実用化していたのは旧世界の超魔導大国であったアマリア帝國くらいのものだ。
イージス護衛艦〈ユリス〉の戦闘指揮所ではホウジョウ海将が戦闘機の来援をひらすら祈っていた。
魔導艦が落とされれば一点突破型収束魔導砲が撃てなくなる。
恐らく炎龍のバリアを破壊できるのはそれしかないだろう。
対空ミサイルの攻撃のみで破壊できるとは思えない。
「魔導戦艦〈ティア〉に被弾! 火炎弾です。右舷に爆発を認める!」
「来援はまだか……全て落とされるぞ……」
「レーダーに感あり。南東から本土から来援! 間もなく到着します! 数50!」
「来たかッ!」
ホウジョウ海将はガタッと立ち上がると叫んだ。
「来援機に通信。炎龍の注意を引いてくれ! 距離を詰めて攪乱せよ!」
「危険すぎます!」
「承知の上だッ! 魔導艦を落とす訳にはいかん!」
待ちに待ったY-15戦闘機が到着した。
またうるさいのが来たかとばかりに炎龍の動きが止まる。
「魔導艦隊が近すぎる。距離を取らせろ!」
まずは炎龍の動きを止めてバリアを張らせることが先決だ。
それを一点突破型収束魔導砲で破壊し、間髪入れずに対空誘導弾の飽和攻撃で勝負を決める。
「魔導戦艦〈リーン〉に被弾! 高度が落ちています!」
「死んでも落ちるなッ! 主砲の仰角が足りなくなるぞ!」
Y-15の1機が牽制の対空誘導弾を1発発射する。
当然のようにバリアに阻まれるが注意を引くことには成功したようだ。
その隙に魔導艦隊が炎龍から距離を取る。
「全部隊に通達。これから一斉攻撃を開始する。タイミングを合わせろ! 外すな。必ず当てろッ!」
作戦内容が通達される。
賽は投げられた。
本作戦はタイミングが全てだ。
射撃統制システムにより着弾予測が算出されカウントダウンが開始される。
炎龍は近づくY-15を確実に捉えているのかバリアを解除して火炎弾を何発も撃ち出し始めた。
「バリアを解除しないと攻撃できないのか……。まぁ作戦に影響はない」
魔導艦隊から一斉に一点突破型収束魔導砲が5発発射される。
それから少し遅れてY-15、50機から各4発、計200発の対空誘導弾が発射される。更にはイージス護衛艦2隻、と巡洋艦級護衛艦2隻からも計220発の対空誘導弾が発射された。
世界の刻が止まる。
この場にいる全ての国防隊員が勝負の行方を見守っていた。
緊張が最高潮に達した瞬間――
炎龍が大爆発を引き起こした。
レーダー士が確認、通信士が全部隊に無線を送る。
「目標ロスト……撃破したと思われます」
魔導レーダーから魔力反応が消失していた。
そして煙が晴れ国防隊員たちの目が一点に集中する。
そこで見たものは――バラバラになって落ちていく炎龍の姿であった。
『え、炎龍……目標撃破! 敵反応ありません!』
その瞬間、全ての艦、戦闘機に乗る国防隊員から大きな歓声が上がった。
――ユリウス歴2569年4月5日
この日、クレア半島のバーグ王国王都、ハン・バーグで起こったユースティア・タイカ大帝國戦争は終結を見た。
ユースティアのイージス護衛艦2隻、巡洋艦級護衛艦2隻、魔導戦艦3隻、魔導巡洋艦2隻、戦闘機Y-15、のべ100機の攻撃を受けタイカ大帝國の魔導艦隊は殲滅。最終生物兵器の炎龍は一点突破型収束魔導砲と対空誘導弾の飽和攻撃によって爆発四散。その後、到着した竜騎兵15万も魔導砲による対地攻撃によりこの世から消えた。
これは列強国が事実上、大敗北した瞬間であり歴史の転換点となる。
0
あなたにおすすめの小説
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
裏スキルで最強異世界攻略~異世界召喚されたのだが、勇者じゃないと追い出されたので新しい国を造りました~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
いつものようにヤンキーに絡まれて逃げていたら、いつの間にか異世界召喚されてました。でも、スキルが『農民』しかなかったから、いらないと追放されました。
エブリスタ、カクヨム、ノベリズム、ノベルアップ、小説家になろうにも掲載しています。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる