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第1章 辺境編
第3話 就職の儀②
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じょじょにその光が弱まった後には、特に何も変わった様子のない子供の姿があった。キョトンとしている彼の上の辺りに文字が浮かび上がっているが、あれが職業の名称のようだ。どう言う原理かは分からないが、これも神聖術の効果なのだろう。
「ノアン、戦士!」
更に神官服を着ていない男が大声を発した。
そして手元にある紙に何やら記載している。
どうやら彼は鑑定士のようだ。親に無理を言って買ってもらった『職業大全』と言う本に書かれていたので間違いないだろう。
鑑定士は人やアイテムなどの情報を読み取ることができる能力を持った職業だ。
ノアンと呼ばれた少年は何やら興奮した様子でステージから降りていく。
きっと結果に満足したのだろう。
そして次々と子供の名前が呼ばれては、神から職業を与えられていく。
反応は千差万別で喜びを体中で表現する子供から、ガックリとうな垂れてステージから降りていく子供まで様々である。
「コラリー、農民!」
もちろん、今職に就いた女の子のように、ほとんど一般人と言える職業を与えられる者も多い。アスターゼには皆が騎士や戦士、黒魔術士などの戦闘職になれる訳ではなく、むしろ農民や労働者などの平民に当たる職業が与えられる方が圧倒的に多いように思えた。
そしてついにアルテナの名前が呼ばれた
彼女は元気な声で返事をして前の方へ駆けて行き、サッと魔法陣へ入ると神官たちが祈り始め、同じ現象が起こる。
「アルテナ、聖騎士!」
会場からおおッとどよめきが漏れる。
大人たちの反応を見るにレア職業のようだ。
アルテナは何が起こったか分からずに司教の男を見上げている。
アスターゼは、アルテナに同情した。
これから彼女は戦いの渦の中に巻き込まれていく宿命を背負ったのだ。
一度決まった職業は決して覆ることはない、絶対の原理原則が存在するのである。
「いいな~! 聖騎士だってよ! 俺もなりたい!」
エルフィスはアスターゼの隣で台に乗ってアルテナの方を眺めながら羨ましそうだ。アスターゼがそんなエルフィスの様子を横目で見ていると、自分の名前が呼ばれた。
恐らく誕生日順に呼ばれているのだろう。
二人の誕生日は1日違いなのだ。
アスターゼは、少し憂鬱な表情で前に歩いて行く。
途中でアルテナとすれ違う時、彼女は泣きそうな声で話しかけてきた。
「アス~。何かおっかないのになっちゃったよ~」
今にも泣き出しそうな声色で縋り付いて来たので、アスターゼは同情しつつ励ましの言葉を掛ける。
ここは前世で大人だった余裕を見せるところだ。
「大丈夫だよ。アルテナならできる! それに俺も騎士になって一緒に戦うから元気を出して!」
アスターゼは決め顔でそう言った。
これで無職とかだったら笑うぞとも思いながら。
『職業大全』には無職と言う職業は記載されていなかったので存在しないのだろうが、もし存在したならばどんな能力になるのだろうなと、ふと気になるアスターゼであった。
「これ! 早く来なさい」
注意を受けてしまったので、涙目のアルテナの頭をポンポンと優しく叩くとアスターゼはそそくさと魔法陣の中へと入る。
そして再び神官たちの祈りによってアスターゼは眩い光に包まれた。
まるで光の柱の中にいるようで、胞子のような光の球体がふわふわと舞っている。中々に幻想的な光景だ。これぞ異世界だなとアスターゼはこれから出る自分の結果のことなどすっかり忘れて滅多にできないであろう体験を楽しんでいた。
しばらくして光が消えると、鑑定士の大きな声が大広間に響き渡――らない。
アスターゼが何も言わない鑑定士の男を見ると、何やらしきりに首をひねっている。次に神官たちの様子を窺い見るが、こちらも同様であった。
「てん……しょ……くし?」
鑑定士の口から疑問の混じった言葉が吐き出される。
何でそこで疑問形なんだよとアスターゼが内心ツッコミを入れる。
そして確か自分の真上辺りに文字が浮かんでいたなと思いだし、上を見上げると、そこには確かに『てんしょくし』と言う文字が浮かび上がっているのが見えた。
――てんしょくし
恐らく転職士のことだろうとアスターゼはすぐに思い当たる。
果たしてそれが職業なのかと問われれば疑問に思わざるを得ないが、こうして結果に現れたのだから職業なのだろう。
しかし、誰も転職士の意味を理解していないようだ。
「てんしょく……士と呼ぶのか?」
「てんしょくとは何なのだ?」
「鑑定士殿ッ! 詳細は分からぬのか?」
初めてのアクシデントなのだろう、司教を始めとした神官たちが喧々囂々と騒ぐ中、鑑定士は暑くもないのに汗をダラダラと流しながらジッとアスターゼの方を凝視している。
「わ、分からないのです……職能は『てんしょく』、説明はてんしょくさせるとだけしか……」
「だから、てんしょくとはどう言う意味なのです!?」
アスターゼは理解した。
この世界に転職と言う言葉自体が存在しないのだ。
「なるほど……ここは職業が完全に固定された世界だったんだな」
騒ぎが増々大きくなる中、アスターゼだけが冷静に状況を見極めていた。
「ノアン、戦士!」
更に神官服を着ていない男が大声を発した。
そして手元にある紙に何やら記載している。
どうやら彼は鑑定士のようだ。親に無理を言って買ってもらった『職業大全』と言う本に書かれていたので間違いないだろう。
鑑定士は人やアイテムなどの情報を読み取ることができる能力を持った職業だ。
ノアンと呼ばれた少年は何やら興奮した様子でステージから降りていく。
きっと結果に満足したのだろう。
そして次々と子供の名前が呼ばれては、神から職業を与えられていく。
反応は千差万別で喜びを体中で表現する子供から、ガックリとうな垂れてステージから降りていく子供まで様々である。
「コラリー、農民!」
もちろん、今職に就いた女の子のように、ほとんど一般人と言える職業を与えられる者も多い。アスターゼには皆が騎士や戦士、黒魔術士などの戦闘職になれる訳ではなく、むしろ農民や労働者などの平民に当たる職業が与えられる方が圧倒的に多いように思えた。
そしてついにアルテナの名前が呼ばれた
彼女は元気な声で返事をして前の方へ駆けて行き、サッと魔法陣へ入ると神官たちが祈り始め、同じ現象が起こる。
「アルテナ、聖騎士!」
会場からおおッとどよめきが漏れる。
大人たちの反応を見るにレア職業のようだ。
アルテナは何が起こったか分からずに司教の男を見上げている。
アスターゼは、アルテナに同情した。
これから彼女は戦いの渦の中に巻き込まれていく宿命を背負ったのだ。
一度決まった職業は決して覆ることはない、絶対の原理原則が存在するのである。
「いいな~! 聖騎士だってよ! 俺もなりたい!」
エルフィスはアスターゼの隣で台に乗ってアルテナの方を眺めながら羨ましそうだ。アスターゼがそんなエルフィスの様子を横目で見ていると、自分の名前が呼ばれた。
恐らく誕生日順に呼ばれているのだろう。
二人の誕生日は1日違いなのだ。
アスターゼは、少し憂鬱な表情で前に歩いて行く。
途中でアルテナとすれ違う時、彼女は泣きそうな声で話しかけてきた。
「アス~。何かおっかないのになっちゃったよ~」
今にも泣き出しそうな声色で縋り付いて来たので、アスターゼは同情しつつ励ましの言葉を掛ける。
ここは前世で大人だった余裕を見せるところだ。
「大丈夫だよ。アルテナならできる! それに俺も騎士になって一緒に戦うから元気を出して!」
アスターゼは決め顔でそう言った。
これで無職とかだったら笑うぞとも思いながら。
『職業大全』には無職と言う職業は記載されていなかったので存在しないのだろうが、もし存在したならばどんな能力になるのだろうなと、ふと気になるアスターゼであった。
「これ! 早く来なさい」
注意を受けてしまったので、涙目のアルテナの頭をポンポンと優しく叩くとアスターゼはそそくさと魔法陣の中へと入る。
そして再び神官たちの祈りによってアスターゼは眩い光に包まれた。
まるで光の柱の中にいるようで、胞子のような光の球体がふわふわと舞っている。中々に幻想的な光景だ。これぞ異世界だなとアスターゼはこれから出る自分の結果のことなどすっかり忘れて滅多にできないであろう体験を楽しんでいた。
しばらくして光が消えると、鑑定士の大きな声が大広間に響き渡――らない。
アスターゼが何も言わない鑑定士の男を見ると、何やらしきりに首をひねっている。次に神官たちの様子を窺い見るが、こちらも同様であった。
「てん……しょ……くし?」
鑑定士の口から疑問の混じった言葉が吐き出される。
何でそこで疑問形なんだよとアスターゼが内心ツッコミを入れる。
そして確か自分の真上辺りに文字が浮かんでいたなと思いだし、上を見上げると、そこには確かに『てんしょくし』と言う文字が浮かび上がっているのが見えた。
――てんしょくし
恐らく転職士のことだろうとアスターゼはすぐに思い当たる。
果たしてそれが職業なのかと問われれば疑問に思わざるを得ないが、こうして結果に現れたのだから職業なのだろう。
しかし、誰も転職士の意味を理解していないようだ。
「てんしょく……士と呼ぶのか?」
「てんしょくとは何なのだ?」
「鑑定士殿ッ! 詳細は分からぬのか?」
初めてのアクシデントなのだろう、司教を始めとした神官たちが喧々囂々と騒ぐ中、鑑定士は暑くもないのに汗をダラダラと流しながらジッとアスターゼの方を凝視している。
「わ、分からないのです……職能は『てんしょく』、説明はてんしょくさせるとだけしか……」
「だから、てんしょくとはどう言う意味なのです!?」
アスターゼは理解した。
この世界に転職と言う言葉自体が存在しないのだ。
「なるほど……ここは職業が完全に固定された世界だったんだな」
騒ぎが増々大きくなる中、アスターゼだけが冷静に状況を見極めていた。
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