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第1章 辺境編
第14話 砦跡にて
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ノーアの大森林から撤退してきたアスターゼたちはその足で村の高台にある砦跡へと向かった。
まだ村長や村の役員たちの姿は見えない。
彼らは今、村中を駆け回って避難を呼びかけていた。
砦跡には一○○名程が集まっていたが、アスターゼが見る限り、今のところ女性や子供が多いようだ。
魔物たちはこの場所に押し寄せるのか、押し寄せるとしたらいつなのか、不安が大きいようで誰しもその表情は優れない。
この砦跡は元々辺境のこの地を開拓するための拠点として建造されたと聞く。
当時、この辺りには先住民が住んでおり、この地の覇権を賭けて争いになったと言う。つまり、アスターゼたちの先祖が、先住民から無理やり奪い取った土地なのである。それを聞いた時、アスターゼは胸糞悪くなったものだが、歴史とは往々にしてこのような争いを生むものなのだ。
また、砦跡と言っても防御機構は失われていない。
周囲に張り巡らされた堀にはまだ水が蓄えられているし、土塁も崩れかかっている場所があるものの、単なる力押しで落ちるような拠点ではない。
いかな強力な力を持つ亜人と言えども、ここに籠っている限り、そう簡単には人間を殺すことはできないだろう。
アスターゼがヴィックスに聞いたところに寄れば、亜人と言うのは人間を憎み、その姿を見れば必ず襲ってくると言う。
ドレッドネイト王国を始め、多くの国に影響力を持っているガウス神教は、天に祝福されて生まれてきた人間にそうではない亜人が嫉妬していると言う解釈を示している。
精霊から落ちた者、精霊の成り損ねなどと言われる亜人にとって、人間やエルフ、ハイエルフの存在は憎むべきものなのである。
アスターゼがノーアの大森林で魔物を喰い止めている兵士の安否を気にしながら、砦跡を見回っていると、後ろから不意に声が掛けられた。
「アス……。あのオーガ強かったね」
「そうだな……」
後ろにいたのはアルテナであった。
討伐ランクCのオーガに苦戦したことがショックなのか元気がない。
本来、若干12歳でランクCの魔物を倒すこと自体が凄いことなのだが。
「あんなのがたくさん攻めてきたら村の人だけじゃ勝てないよ……皆殺されちゃう」
「そうだな。倒すならまず、あいつらを操っている魔物使いを見つけなきゃならない」
「魔物使い!? あの亜人たちは誰かに操られてたの?」
「ああ、その可能性が高い。魔物使いはその職能で魔物を強化できるようだしな」
「そっか……そいつを倒せばいいんだね……」
アルテナは怒りと悔しさのぶつけどころが見つかったことで、自分のやるべきことを理解したのか、その言葉には力が宿っていた。
「おいおい。無理すんなよ? 魔物を操ったり強化したりできる範囲がどれだけなのかは分からないけど、本人が堂々と出てくるとは思えないよ」
魔物使い本人が出てこれば、倒せなくとも転職させてしまえば職能は無効化されるはずだ。それが一番手っ取り早いのになとアスターゼは自分で可能性を否定しておきながらもそう思ってしまう。
「エルはどうしてた?」
「今、砦の中で休んでるよ~。相当疲れたみたい」
エルフィスは剣術の稽古を始めてまだそれ程経っていない。
アスターゼやアルテナに比べて剣捌きや戦い方に不慣れなのは仕方のないことである。それにも関わらず討伐ランクCのウルガルムを倒したこと自体が奇跡的なことであった。
「おッ……ここの柵壊れてるな……。一応報告しておこう」
アスターゼは目的もなくぶらついている訳ではない。
一応、補修が必要そうな場所を探して回っていたのだ。
そんな時、またもや背後から声が掛けられる。
「アス、こんなところにいたのね。心配したのよ?」
アスターゼが振り返ると、そこにいたのはニーナとアルテナの父アレスであった。
「あーごめん。補修が必要な場所を見回ってたんだよ」
「アスターゼ君。子供は休んでいなさい。戦うのは大人の仕事だ」
「そんな訳にもいきません。僕は『戦神の現身』ヴィックスの子、アスターゼです。父さんが不在なのだから僕が戦わなくてどうすると言うんです」
スタリカ村から領都のコンコールズまで馬の足で三日程である。
早馬などの伝令が馬を乗り継いで、やっと2日程度に短縮できるのだ。
領都からの援軍は期待できない。
また、テメレーア王国が動いたのが本当ならばホルス要塞からの援軍も無理だろう。
「しかし、君は……職業が……アレだ。戦闘職ではないだろう?」
アレスは言いにくそうにしている。
アスターゼの職業が不詳だと思われているのだから仕方のない態度である。
そうアスターゼ自身は割り切っていた。
「そこは何とかなります。母さん、村の人たちは集まってきましたか?」
「ええ、結構集まったわ。今はほとんどが砦内に入ったわね」
「母さん、村の人口ってどれ位でしたっけ?」
「だいたい七○○人位かしら……」
スタリカ村はワインの産地として広大な畑がいくつもあり、村にしては面積が大きい。村人の職業も農民が最も多くを占めているようだ。
アスターゼは、転職士になってからこの世界に存在する多くの職業に転職してみた。
職業ごとの特性や職能を確かめるためだ。
このゲーム的な職業システムのことを考えると、実は見えないパラメータのようなものが存在し、職業ごとに補正がかかっているのではないかと考えたのだ。
結果はアスターゼの思った通りであった。
数値で示すことができないため、どうしても感覚的なものになってしまうが、農民は体力や力の補正が高いように思えた。つまり、この世界にレベルアップと言う概念が存在するならば、村人の所謂ステータスは高いと思われるのだ。
――ならば
まだ村長や村の役員たちの姿は見えない。
彼らは今、村中を駆け回って避難を呼びかけていた。
砦跡には一○○名程が集まっていたが、アスターゼが見る限り、今のところ女性や子供が多いようだ。
魔物たちはこの場所に押し寄せるのか、押し寄せるとしたらいつなのか、不安が大きいようで誰しもその表情は優れない。
この砦跡は元々辺境のこの地を開拓するための拠点として建造されたと聞く。
当時、この辺りには先住民が住んでおり、この地の覇権を賭けて争いになったと言う。つまり、アスターゼたちの先祖が、先住民から無理やり奪い取った土地なのである。それを聞いた時、アスターゼは胸糞悪くなったものだが、歴史とは往々にしてこのような争いを生むものなのだ。
また、砦跡と言っても防御機構は失われていない。
周囲に張り巡らされた堀にはまだ水が蓄えられているし、土塁も崩れかかっている場所があるものの、単なる力押しで落ちるような拠点ではない。
いかな強力な力を持つ亜人と言えども、ここに籠っている限り、そう簡単には人間を殺すことはできないだろう。
アスターゼがヴィックスに聞いたところに寄れば、亜人と言うのは人間を憎み、その姿を見れば必ず襲ってくると言う。
ドレッドネイト王国を始め、多くの国に影響力を持っているガウス神教は、天に祝福されて生まれてきた人間にそうではない亜人が嫉妬していると言う解釈を示している。
精霊から落ちた者、精霊の成り損ねなどと言われる亜人にとって、人間やエルフ、ハイエルフの存在は憎むべきものなのである。
アスターゼがノーアの大森林で魔物を喰い止めている兵士の安否を気にしながら、砦跡を見回っていると、後ろから不意に声が掛けられた。
「アス……。あのオーガ強かったね」
「そうだな……」
後ろにいたのはアルテナであった。
討伐ランクCのオーガに苦戦したことがショックなのか元気がない。
本来、若干12歳でランクCの魔物を倒すこと自体が凄いことなのだが。
「あんなのがたくさん攻めてきたら村の人だけじゃ勝てないよ……皆殺されちゃう」
「そうだな。倒すならまず、あいつらを操っている魔物使いを見つけなきゃならない」
「魔物使い!? あの亜人たちは誰かに操られてたの?」
「ああ、その可能性が高い。魔物使いはその職能で魔物を強化できるようだしな」
「そっか……そいつを倒せばいいんだね……」
アルテナは怒りと悔しさのぶつけどころが見つかったことで、自分のやるべきことを理解したのか、その言葉には力が宿っていた。
「おいおい。無理すんなよ? 魔物を操ったり強化したりできる範囲がどれだけなのかは分からないけど、本人が堂々と出てくるとは思えないよ」
魔物使い本人が出てこれば、倒せなくとも転職させてしまえば職能は無効化されるはずだ。それが一番手っ取り早いのになとアスターゼは自分で可能性を否定しておきながらもそう思ってしまう。
「エルはどうしてた?」
「今、砦の中で休んでるよ~。相当疲れたみたい」
エルフィスは剣術の稽古を始めてまだそれ程経っていない。
アスターゼやアルテナに比べて剣捌きや戦い方に不慣れなのは仕方のないことである。それにも関わらず討伐ランクCのウルガルムを倒したこと自体が奇跡的なことであった。
「おッ……ここの柵壊れてるな……。一応報告しておこう」
アスターゼは目的もなくぶらついている訳ではない。
一応、補修が必要そうな場所を探して回っていたのだ。
そんな時、またもや背後から声が掛けられる。
「アス、こんなところにいたのね。心配したのよ?」
アスターゼが振り返ると、そこにいたのはニーナとアルテナの父アレスであった。
「あーごめん。補修が必要な場所を見回ってたんだよ」
「アスターゼ君。子供は休んでいなさい。戦うのは大人の仕事だ」
「そんな訳にもいきません。僕は『戦神の現身』ヴィックスの子、アスターゼです。父さんが不在なのだから僕が戦わなくてどうすると言うんです」
スタリカ村から領都のコンコールズまで馬の足で三日程である。
早馬などの伝令が馬を乗り継いで、やっと2日程度に短縮できるのだ。
領都からの援軍は期待できない。
また、テメレーア王国が動いたのが本当ならばホルス要塞からの援軍も無理だろう。
「しかし、君は……職業が……アレだ。戦闘職ではないだろう?」
アレスは言いにくそうにしている。
アスターゼの職業が不詳だと思われているのだから仕方のない態度である。
そうアスターゼ自身は割り切っていた。
「そこは何とかなります。母さん、村の人たちは集まってきましたか?」
「ええ、結構集まったわ。今はほとんどが砦内に入ったわね」
「母さん、村の人口ってどれ位でしたっけ?」
「だいたい七○○人位かしら……」
スタリカ村はワインの産地として広大な畑がいくつもあり、村にしては面積が大きい。村人の職業も農民が最も多くを占めているようだ。
アスターゼは、転職士になってからこの世界に存在する多くの職業に転職してみた。
職業ごとの特性や職能を確かめるためだ。
このゲーム的な職業システムのことを考えると、実は見えないパラメータのようなものが存在し、職業ごとに補正がかかっているのではないかと考えたのだ。
結果はアスターゼの思った通りであった。
数値で示すことができないため、どうしても感覚的なものになってしまうが、農民は体力や力の補正が高いように思えた。つまり、この世界にレベルアップと言う概念が存在するならば、村人の所謂ステータスは高いと思われるのだ。
――ならば
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