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第1章 辺境編
第13話 奮闘⇒瓦解
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前線にはノーアの大森林近くにある守備隊の詰所の兵と、スタリカ村に駐屯している守備兵が魔物の群れと戦っていた。こちらの戦場では亜人が多いようで、ゴブリンやオーク、オーガなどの人間に近い魔物が主な敵のようだ。
ゴブリンは額から小さな角を生やした小鬼のような亜人で体は小さいが残虐な性格をしている。
オークは豚のような顔付きをしており、その体はでっぷりと太った力士のような体形をしている。知能は高く狡猾で残忍、そして性欲が強くどの種族とも交配しようとする畜生である。
オーガは2本の角を額に生やした亜人で、鬼と言う呼び方が一番合っているだろう。性格は残忍でその膂力は凄まじく力だけで言えば、亜人の中でも屈指だと言える。
だが亜人は武器を持って戦っているので、先程の魔獣よりも戦いやすいのではないかとアスターゼは考えていた。
もちろん、これは全てヴィックスの受け売りである。
醜悪な面をした亜人たちは今、守備兵たちと大激戦を繰り広げている最中であった。アスターゼが見たところ、亜人の数は三○○は下らないと思われた。大分、乱れてはいるが、戦いの当初から戦陣を組んで戦っていたのだろう。現在も前列と後列の兵が交代交代で戦いを進めている。
そんな中、守備隊ではなく村人らしき人物が声を上げた。
「なんだ? どうして子供がここに?」
「加勢しに来ました」
「ここは危険だ。村へ戻りなさい!」
村の大人と戻る戻らないの不毛なやり取りを続けていると、聞き覚えのある声が響いた。
「アスッ!? 何で来たのッ!?」
「母さん、村の一大事を放ってはおけないよ」
すぐに母親の声だと気付いたアスターゼは彼女の誰何を一蹴する。
「ニーナおばさん、どうして突然、こんなに魔物が?」
「分からないわ。今まで1種の魔物が群れで襲ってくることはあったんだけど……」
それを聞いたアスターゼの頭には、敵が魔物使いなのではないかと言う考えが浮かんでいた。魔物使いもまた職業の1種で、様々な魔物を操ることができ、中には最強の生物と言われるドラゴンさえも操る者もいるらしい。
しかし緒戦から守備隊五○と村の駐屯兵一○○で魔物およそ三○○と戦っているのだから大したものである。
アスターゼがアルテナに目配せをする。
「僕たちは遊撃隊として戦うよ」
実際、敵軍を喰い止めている戦列を回り込んでくる亜人が兵士たちを脅かしていたのだ。今はそれを村人が何とか押さえているようだが、このままでは乱戦に持ち込まれるのは目に見えていた。参戦を告げるや否や走り出したアスターゼとアルテナ、エルフィスを止めようとする村人。
「ってオイ! 戻れッ!」
しかし3人はそれに耳を貸さずに亜人へと立ち向かっていく。
1番最初に斬り掛かったのはやはりアルテナであった。
相手はかなりの巨躯を持つオーガ。
しかし、その強烈な一撃は難なく受けられてしまう。
アルテナの顔には驚愕の表情がありありと浮かんでいた。
アスターゼもオークと交戦に入る。
彼は今なら亜人相手でも互角以上に戦えると信じていた。
8歳の時、村に現れた亜人と遭遇し、アルテナたちと何とか撃退した経験があるのだが、3人共その時よりも遥かに強くなっているはずだ。
体格の違いはあれど、タイマンならそこまで苦戦することもないだろうと考えていた。
しかし、その考えはオークと剣を数合交わした時に脆くも崩れ去った。
――強い
強いのだ。はぐれの亜人と戦った時の比ではない。
一撃一撃が重く鋭い。
単なる個体差かとも思ったが、兵士たち隊列を組んで戦っている亜人の攻撃もかなりのものに見える。
ヴィックスとの稽古を通してアスターゼは、相手の攻撃がよく見えるようになったのを実感していた。
あの時よりも自分が弱くなったはずがない。ならば、単に敵が強いのだ。
アスターゼは動作の速度に強弱をつけて何とかオークを翻弄していた。
アルテナですら簡単に勝負を決めることができない中、エルフィスは一方的に押されていた。相手の剣筋にはついていけているのだが、一撃が重いせいでどうしても次の動作に影響が出てしまっているのだ。
「エルッ! 無理するなッ!」
アスターゼも他人を気にしている余裕などなかったのだが、思わずエルフィスに向かって叫んでいた。
アルテナはようやくオーガを倒したようで肩で息をしている。
大地に倒れ伏すオーガは手を斬り飛ばされ、体中に傷がつけられている。
彼女もかなり慎重な戦いを余儀なくされたのだろう。
アスターゼも一撃離脱の精神でちくちくとオークの体力を削りつつダメージを与えていった。エルフィスの方には村の大人が加勢に入ったようだ。
アスターゼが何とか1匹のオークを葬り去った頃、辺りに大声が響き渡った。
焦りの混じった声だ。
「狼煙だッ! あれは……テメレーア軍が動いた合図だぞッ!」
テメレーア王国。
ドレッドネイト王国の隣国で絶えず国境で戦火を交えている敵対国家だ。
国土の大半が山地と森林に覆われた国で鉄やミスリルと言った資源が豊富だが、豊かな平地を求めてドレッドネイトの領地を奪わんと戦争を仕掛けてくるのである。
「ホルス要塞があるだろう? あそこを通らねばこちらに出るのは難しいはずだぞッ!」
テメレーア王国のテッサロニー地方からこのコンコールズ地方に攻め込むには天嶮の要塞ホルス要塞を通るか、急峻な山地を通って大きく迂回してくる必要がある。どちらにもドレッドネイト王国の密偵の目が光っているし、ホルス要塞からの狼煙があったことを考えると、テメレーア軍が襲来したのはホルス要塞の方だろう。
要塞には常に王国直属の軍とコンコルド辺境伯軍合わせて五○○○程が駐留している。いかな大軍で攻められてもそう簡単に落ちるものではない。
しかし、この見計らったかのようにタイミングを合わせた襲撃に兵士たちの士気は大きく下がる。テメレーア王国はとうとう魔物と手を組んだか?と言う疑念が兵士たちの頭をよぎり、たちまち戦列が崩れ乱戦の様相を呈してきたのであった。
乱戦の中、アルテナの躍動が光る。
彼女の前に立ちふさがった亜人は漏れなくその首をはねられた。
アスターゼも『夢幻流剣術』を駆使して奮闘していた。
騎士に転職して稽古をしたり狩りをしていた成果が表れているのだ。
流石にオーガには力負けしたがゴブリンやオークとは体格の差を埋めるほどの活躍を見せる。
エルフィスも頑張っていた。
木々などの障害物を上手く利用しながら、囲まれないように動き着実に敵を葬ってゆく。
しかしそこへ悲鳴に近い声が戦っている全員の耳に届いた。
「新手だッ! 亜人が……新たに三○○はいるぞッ!」
「村人は退けッ! 村の砦跡に全員避難しろッ!」
そんな声が飛び交う中、アルテナは最後まで戦う意志を見せたが、アスターゼとニーナに引きずられるようにして連れ出された。
エルフィスも悔しそうに撤退を開始している。
こんな時に父さんがいてくれたら……とアスターゼは唇を噛んだ。
将来の相談をしたタイミングでまさかこのような事態が起こるとは思ってもみなかった。ヴィックスがいれば、亜人の軍など容易く蹴散らしていただろう。
ここはもうもたない。
「村の砦跡で籠城戦か」とアスターゼは呟きながらもこのピンチをどのように切り抜けるかを考えるのであった。
ゴブリンは額から小さな角を生やした小鬼のような亜人で体は小さいが残虐な性格をしている。
オークは豚のような顔付きをしており、その体はでっぷりと太った力士のような体形をしている。知能は高く狡猾で残忍、そして性欲が強くどの種族とも交配しようとする畜生である。
オーガは2本の角を額に生やした亜人で、鬼と言う呼び方が一番合っているだろう。性格は残忍でその膂力は凄まじく力だけで言えば、亜人の中でも屈指だと言える。
だが亜人は武器を持って戦っているので、先程の魔獣よりも戦いやすいのではないかとアスターゼは考えていた。
もちろん、これは全てヴィックスの受け売りである。
醜悪な面をした亜人たちは今、守備兵たちと大激戦を繰り広げている最中であった。アスターゼが見たところ、亜人の数は三○○は下らないと思われた。大分、乱れてはいるが、戦いの当初から戦陣を組んで戦っていたのだろう。現在も前列と後列の兵が交代交代で戦いを進めている。
そんな中、守備隊ではなく村人らしき人物が声を上げた。
「なんだ? どうして子供がここに?」
「加勢しに来ました」
「ここは危険だ。村へ戻りなさい!」
村の大人と戻る戻らないの不毛なやり取りを続けていると、聞き覚えのある声が響いた。
「アスッ!? 何で来たのッ!?」
「母さん、村の一大事を放ってはおけないよ」
すぐに母親の声だと気付いたアスターゼは彼女の誰何を一蹴する。
「ニーナおばさん、どうして突然、こんなに魔物が?」
「分からないわ。今まで1種の魔物が群れで襲ってくることはあったんだけど……」
それを聞いたアスターゼの頭には、敵が魔物使いなのではないかと言う考えが浮かんでいた。魔物使いもまた職業の1種で、様々な魔物を操ることができ、中には最強の生物と言われるドラゴンさえも操る者もいるらしい。
しかし緒戦から守備隊五○と村の駐屯兵一○○で魔物およそ三○○と戦っているのだから大したものである。
アスターゼがアルテナに目配せをする。
「僕たちは遊撃隊として戦うよ」
実際、敵軍を喰い止めている戦列を回り込んでくる亜人が兵士たちを脅かしていたのだ。今はそれを村人が何とか押さえているようだが、このままでは乱戦に持ち込まれるのは目に見えていた。参戦を告げるや否や走り出したアスターゼとアルテナ、エルフィスを止めようとする村人。
「ってオイ! 戻れッ!」
しかし3人はそれに耳を貸さずに亜人へと立ち向かっていく。
1番最初に斬り掛かったのはやはりアルテナであった。
相手はかなりの巨躯を持つオーガ。
しかし、その強烈な一撃は難なく受けられてしまう。
アルテナの顔には驚愕の表情がありありと浮かんでいた。
アスターゼもオークと交戦に入る。
彼は今なら亜人相手でも互角以上に戦えると信じていた。
8歳の時、村に現れた亜人と遭遇し、アルテナたちと何とか撃退した経験があるのだが、3人共その時よりも遥かに強くなっているはずだ。
体格の違いはあれど、タイマンならそこまで苦戦することもないだろうと考えていた。
しかし、その考えはオークと剣を数合交わした時に脆くも崩れ去った。
――強い
強いのだ。はぐれの亜人と戦った時の比ではない。
一撃一撃が重く鋭い。
単なる個体差かとも思ったが、兵士たち隊列を組んで戦っている亜人の攻撃もかなりのものに見える。
ヴィックスとの稽古を通してアスターゼは、相手の攻撃がよく見えるようになったのを実感していた。
あの時よりも自分が弱くなったはずがない。ならば、単に敵が強いのだ。
アスターゼは動作の速度に強弱をつけて何とかオークを翻弄していた。
アルテナですら簡単に勝負を決めることができない中、エルフィスは一方的に押されていた。相手の剣筋にはついていけているのだが、一撃が重いせいでどうしても次の動作に影響が出てしまっているのだ。
「エルッ! 無理するなッ!」
アスターゼも他人を気にしている余裕などなかったのだが、思わずエルフィスに向かって叫んでいた。
アルテナはようやくオーガを倒したようで肩で息をしている。
大地に倒れ伏すオーガは手を斬り飛ばされ、体中に傷がつけられている。
彼女もかなり慎重な戦いを余儀なくされたのだろう。
アスターゼも一撃離脱の精神でちくちくとオークの体力を削りつつダメージを与えていった。エルフィスの方には村の大人が加勢に入ったようだ。
アスターゼが何とか1匹のオークを葬り去った頃、辺りに大声が響き渡った。
焦りの混じった声だ。
「狼煙だッ! あれは……テメレーア軍が動いた合図だぞッ!」
テメレーア王国。
ドレッドネイト王国の隣国で絶えず国境で戦火を交えている敵対国家だ。
国土の大半が山地と森林に覆われた国で鉄やミスリルと言った資源が豊富だが、豊かな平地を求めてドレッドネイトの領地を奪わんと戦争を仕掛けてくるのである。
「ホルス要塞があるだろう? あそこを通らねばこちらに出るのは難しいはずだぞッ!」
テメレーア王国のテッサロニー地方からこのコンコールズ地方に攻め込むには天嶮の要塞ホルス要塞を通るか、急峻な山地を通って大きく迂回してくる必要がある。どちらにもドレッドネイト王国の密偵の目が光っているし、ホルス要塞からの狼煙があったことを考えると、テメレーア軍が襲来したのはホルス要塞の方だろう。
要塞には常に王国直属の軍とコンコルド辺境伯軍合わせて五○○○程が駐留している。いかな大軍で攻められてもそう簡単に落ちるものではない。
しかし、この見計らったかのようにタイミングを合わせた襲撃に兵士たちの士気は大きく下がる。テメレーア王国はとうとう魔物と手を組んだか?と言う疑念が兵士たちの頭をよぎり、たちまち戦列が崩れ乱戦の様相を呈してきたのであった。
乱戦の中、アルテナの躍動が光る。
彼女の前に立ちふさがった亜人は漏れなくその首をはねられた。
アスターゼも『夢幻流剣術』を駆使して奮闘していた。
騎士に転職して稽古をしたり狩りをしていた成果が表れているのだ。
流石にオーガには力負けしたがゴブリンやオークとは体格の差を埋めるほどの活躍を見せる。
エルフィスも頑張っていた。
木々などの障害物を上手く利用しながら、囲まれないように動き着実に敵を葬ってゆく。
しかしそこへ悲鳴に近い声が戦っている全員の耳に届いた。
「新手だッ! 亜人が……新たに三○○はいるぞッ!」
「村人は退けッ! 村の砦跡に全員避難しろッ!」
そんな声が飛び交う中、アルテナは最後まで戦う意志を見せたが、アスターゼとニーナに引きずられるようにして連れ出された。
エルフィスも悔しそうに撤退を開始している。
こんな時に父さんがいてくれたら……とアスターゼは唇を噛んだ。
将来の相談をしたタイミングでまさかこのような事態が起こるとは思ってもみなかった。ヴィックスがいれば、亜人の軍など容易く蹴散らしていただろう。
ここはもうもたない。
「村の砦跡で籠城戦か」とアスターゼは呟きながらもこのピンチをどのように切り抜けるかを考えるのであった。
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