転職士の野望~現代で散々転職に失敗した俺は職業固定の世界の価値観をぶち壊す~

波 七海

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第1章 辺境編

第24話 職業を決める者

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 スタリカ村を出発しておよそ4日でコンコルド辺境伯の領都コンコールズへと到着した。馬に乗れないアスターゼは、辺境伯が乗る馬車に同乗させられてしまった。流石に、4日も辺境伯と同じ馬車で過ごすのはアスターゼにとって地獄以外の何物でもなかった。
 会社の社長や会長クラスの人間と同じ環境でずっと過ごすのと同じ感じである。
 コンコルド辺境伯は一応、まだ部下でもないアスターゼにかなりの仕事をさせたことを自覚していたからか、彼に対して甘い態度で接してきた。しかしそれはそれで、やりにくいアスターゼであった。

 馬車の窓から領都が見えた時のアスターゼはまさに驚天動地の極致であった。
 スタリカ村から出たことがなかったのも要因の1つであろうが、そこは辺境と言う響きから想像していたものとは全く異なっていたのだ。

 かなりの規模と言うだけでなく、見た目までこだわって造られた街のようだ。
 まるまる1つの山を使っているようで、山頂に城と城壁がそびえ立ち、その周囲には水堀がある。
 更にその周囲に街が斜面に沿って、整然と家々が建ち並んでいる。
 その街もまた城門と水堀によって守られている。
 美しさと実用性を兼ね合わせた大都市であると言えるだろう。

 アスターゼが窓の外に広がる風景から目が離せないでいるのを見て、コンコルド辺境伯は自慢げに言った。

「俺の祖父の代から整備して開拓してきた地だからな。辺境の蛮地などとは言わせぬ」

 アスターゼにはその声にみなぎる自信と辺境伯としての自負が感じられた。
 やがて専用の城門から領都へ入ると、街の中には多くの人、人、人。
 アスターゼが確かにここはもう辺境じゃないなと思いながら人々の様子を観察していると、辺境伯の帰還を知った人々がかなりの広さを持つ大通りを開ける。
 それはさながら、海を割ったと言われる預言者の如くである。

「人口はどれ位なんですか?」

「12万程度だ」

 それを聞いて更に驚きを隠せないアスターゼ。
 この文明レベルの世界で12万もの人口を抱える大都市の存在は、前世では考えられないのではないだろうかと、驚きを禁じ得ない。

 広い分、街中の移動が不便そうではあるが、カツリョウ曰く、職業ジョブ生業なりわいによって住む区画が整備されているらしい。そのため、人流に無駄が少なく、民衆から不満は出ていないと言う。

 そのまま、城へ続く城門を通り過ぎる。
 街を囲む城壁も高かったが、城の周囲の城壁は重厚で更に高い。
 辺境伯が言っていた通り、ここに魔術士を配置すれば一方的に敵を攻撃することができるだろう。

 やがて城の前へと到着すると、辺境伯とアスターゼ、カツリョウたちが一部の兵士に護衛されて城へと入っていく。他の兵士たちはまた別の何処かへと機敏な動きで立ち去って行った。

「兵士の皆さんはどこに?」

「兵は城壁内の兵舎で暮らしています。いつ敵が来ても即応できるようにね」

「アスターゼッ! お前は今日から城内で暮らすように。部屋などは用意する。人も付ける故、不都合があれば言うが良かろう」

「城内でですか? それは私が閣下の部下に加わると言う認識なのでしょうか?」

「無論だ。ちゃんと給金も出る。中央共通金貨で五枚出そう。俺に手を貸してくれ」

 中央共通金貨は中央オラリオン大陸で出回っている金貨で、五枚と言えば五十万と言ったところだ。誰も持たない能力の対価が金貨五枚なのは見合っているのかは自分でも分からない。

 報酬は良いとしても正式に辺境伯の部下になるのは考えどころかも知れない。
 アスターゼの脳が高速で回転を始める。
 今のところ、辺境伯は職業に縛られない政治を行っているようだ。
 と言ってもまだ軍事面しか見た訳ではないのだが。
 アスターゼの目的は、この世界の職業制度からの人々の解放だ。
 満足している人にそれを強制するつもりはないが、不満を持つ人々の力になりたいとは思っている。

「閣下、閣下は神から授かったと言う職業を強いられる世界についてどう思われますか?」

 思ってもみなかったことを質問されたせいなのか、辺境伯は一瞬驚いたような顔をするがすぐに真顔に戻ると断言してのけた。

「くだらんことだ。職業を決めるのは神ではない」

 アスターゼは、これから多くの兵士を魔術士に転職させることになっている。
 この世界はまだまだ群雄が割拠する戦国時代だと言う。
 軍事的な転職は必要なことなのだと割り切るしかないのかも知れない。
 それにスタリカ村のこともあれば、力も金もないのだ。
 しばらくは辺境伯のやり方を観察して見極めるしかないだろう。
 アスターゼはやはり今は時期を待つしかないと観念して返答した。

「分かりました。では微力ながら尽力致しましょう」
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