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第1章 辺境編
第23話 領都コンコールズへ
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結局、コンコルド辺境伯が引き連れて来た兵士の内、およそ一割の二○○名程度が黒魔術士へと転職を果たした。
しかし、魔術士になったからと言ってすぐに魔術が使える訳ではない。
キャリアポイントを消費して魔術を習得する必要があるのだ。
転職時に最初から能力を習得している場合もあるし、キャリアポイントをそこそこ持っている場合もあるようだが、強くなるにはやはり戦闘をこなす必要があるだろう。
ヴィックスに寄れば、コンコルド辺境伯は新しく黒魔術士に転職した兵士たちにノーアの大森林で訓練を積ませる気らしい。
辺境伯は長期間、領都を空けている訳にもいかず帰還すると言うので、スタリカ村に残す兵士はヴィックスと大魔術士のノルン・バルザンドに任せられると言う。
ヴィックスは自分の隊以外の軍勢を任せられて嬉しいのか、やる気に燃えている。
アスターゼはようやく厄介な辺境伯から逃れられるとホッとしていたのだが、静かに歓喜していたところに冷や水をかけられてしまう。
領都コンコールズに着いて来るように言われてしまったのだ。
目的は、魔術士の増強、つまり転職命令である。
一体どこまで魔術士の数を増強するつもりなのかとアスターゼはコンコルド辺境伯の野心に呆れてしまう。
それにこれまでは職業を変えることが不可能な世界であった上、必ず神から授かった職業に就くように厳しく国民を管理してきたドレッドネイト王国である。
今、辺境伯が行っている行為が明るみになれば、国自体と争いになりかねないのでは?と心配になるのだ。
この国の勢力状況が分からないので何とも言えないが、戦争になればヴィックスやニーナを始めアルテナやエルフィスたちの身に危険が及ぶのは間違いないだろう。
しかしそんなことを考えたところでどうにもならない。
ヴィックスに転職士としての将来を相談した時点で、既に降りられない電車へ乗車してしまったようなものだ。
この電車が止まる駅は存在しない。
広場にはヴィックス、ニーナ、ライラ、アルテナ、エルフィス、リュカなどがアスターゼを見送りに来ていた。
「アス、上手く取り入れよ?」
「ははは……僕に野心はありませんよ……」
ヴィックスは息子の栄達を望んでいるようだ。
確かに親子そろって辺境伯の重臣になれば、大きな権力と兵力を持つに至る可能性がある。
「アス、無理はしないようにね」
「分かりました。母さんもお元気で」
ニーナは心配そうな表情をしている。
聡明で情が深い彼女は早くからアスターゼが政治利用されることを恐れていた。
それに本来の巣立つ15歳よりも3年も早い息子の旅立ちである。
寂しい訳がない。
「兄貴、行ってら」
「おう。行ってくる。母さんを頼むぞ?」
「わーってる」
ライラは特に感情を表情に出していない。
あまり愛想のない彼女だが、決して冷たい人間ではない。
アスターゼは彼女がいれば母も大丈夫だろうと思っている。
「アス~行っちゃ嫌だよ~」
「大丈夫。心配しないで。アルテナもいずれ領都に来ることになる。また会えるよ」
アルテナは今にも泣きそうな顔になっている。
アスターゼは彼女に近づくと、その頭を優しく撫でる。
「今生の別れになる訳じゃない」
アルテナはそれを聞いてアスターゼの胸に頭を預けると、そっとその胸に寄り添った。そしてアスターゼにしか聞こえないような声で呟く。
「うん……すぐ行くよ……」
そんな雰囲気を感じて言葉を掛けづらかったのかエルフィスが遠慮がちに話しかける。
「アス、必ず戻れよな」
「ああ、この調子じゃいつになるか分からないけどな。再会するまで元気でな」
「おうよ。その時の俺は神官の職業熟練者だぜ」
相変わらず底なしの笑顔が眩しい男である。
アスターゼは右手を握り拳にして差し出すと、エルフィスはその意図に気付いたのか同様の仕草を見せる。二人の右拳がコツンとぶつかり合うと二人は、ガッシリと手と手を握り合った。
「アスターゼさん、僕はきっと将来世界を変えられるような人間になります! 待っていますよ!」
「ああ、必ずまた会おう」
リュカは寂しいと言うより将来が楽しみな様子である。
彼は頭のキレる子供だ。
将来は有望だろう。
きっとアスターゼの描く未来を助ける存在になるに違いないと思われた。
2人は握手をすると目を合わせてニヤリと笑った。
アスターゼは、辺境伯に「そろそろ出発するぞ」と促され馬車へと向かう。
長い間、暮らしてきた村から出る寂寥感と領都でのこれからに思いを馳せるとアスターゼは馬車へと乗り込んだのであった。
しかし、魔術士になったからと言ってすぐに魔術が使える訳ではない。
キャリアポイントを消費して魔術を習得する必要があるのだ。
転職時に最初から能力を習得している場合もあるし、キャリアポイントをそこそこ持っている場合もあるようだが、強くなるにはやはり戦闘をこなす必要があるだろう。
ヴィックスに寄れば、コンコルド辺境伯は新しく黒魔術士に転職した兵士たちにノーアの大森林で訓練を積ませる気らしい。
辺境伯は長期間、領都を空けている訳にもいかず帰還すると言うので、スタリカ村に残す兵士はヴィックスと大魔術士のノルン・バルザンドに任せられると言う。
ヴィックスは自分の隊以外の軍勢を任せられて嬉しいのか、やる気に燃えている。
アスターゼはようやく厄介な辺境伯から逃れられるとホッとしていたのだが、静かに歓喜していたところに冷や水をかけられてしまう。
領都コンコールズに着いて来るように言われてしまったのだ。
目的は、魔術士の増強、つまり転職命令である。
一体どこまで魔術士の数を増強するつもりなのかとアスターゼはコンコルド辺境伯の野心に呆れてしまう。
それにこれまでは職業を変えることが不可能な世界であった上、必ず神から授かった職業に就くように厳しく国民を管理してきたドレッドネイト王国である。
今、辺境伯が行っている行為が明るみになれば、国自体と争いになりかねないのでは?と心配になるのだ。
この国の勢力状況が分からないので何とも言えないが、戦争になればヴィックスやニーナを始めアルテナやエルフィスたちの身に危険が及ぶのは間違いないだろう。
しかしそんなことを考えたところでどうにもならない。
ヴィックスに転職士としての将来を相談した時点で、既に降りられない電車へ乗車してしまったようなものだ。
この電車が止まる駅は存在しない。
広場にはヴィックス、ニーナ、ライラ、アルテナ、エルフィス、リュカなどがアスターゼを見送りに来ていた。
「アス、上手く取り入れよ?」
「ははは……僕に野心はありませんよ……」
ヴィックスは息子の栄達を望んでいるようだ。
確かに親子そろって辺境伯の重臣になれば、大きな権力と兵力を持つに至る可能性がある。
「アス、無理はしないようにね」
「分かりました。母さんもお元気で」
ニーナは心配そうな表情をしている。
聡明で情が深い彼女は早くからアスターゼが政治利用されることを恐れていた。
それに本来の巣立つ15歳よりも3年も早い息子の旅立ちである。
寂しい訳がない。
「兄貴、行ってら」
「おう。行ってくる。母さんを頼むぞ?」
「わーってる」
ライラは特に感情を表情に出していない。
あまり愛想のない彼女だが、決して冷たい人間ではない。
アスターゼは彼女がいれば母も大丈夫だろうと思っている。
「アス~行っちゃ嫌だよ~」
「大丈夫。心配しないで。アルテナもいずれ領都に来ることになる。また会えるよ」
アルテナは今にも泣きそうな顔になっている。
アスターゼは彼女に近づくと、その頭を優しく撫でる。
「今生の別れになる訳じゃない」
アルテナはそれを聞いてアスターゼの胸に頭を預けると、そっとその胸に寄り添った。そしてアスターゼにしか聞こえないような声で呟く。
「うん……すぐ行くよ……」
そんな雰囲気を感じて言葉を掛けづらかったのかエルフィスが遠慮がちに話しかける。
「アス、必ず戻れよな」
「ああ、この調子じゃいつになるか分からないけどな。再会するまで元気でな」
「おうよ。その時の俺は神官の職業熟練者だぜ」
相変わらず底なしの笑顔が眩しい男である。
アスターゼは右手を握り拳にして差し出すと、エルフィスはその意図に気付いたのか同様の仕草を見せる。二人の右拳がコツンとぶつかり合うと二人は、ガッシリと手と手を握り合った。
「アスターゼさん、僕はきっと将来世界を変えられるような人間になります! 待っていますよ!」
「ああ、必ずまた会おう」
リュカは寂しいと言うより将来が楽しみな様子である。
彼は頭のキレる子供だ。
将来は有望だろう。
きっとアスターゼの描く未来を助ける存在になるに違いないと思われた。
2人は握手をすると目を合わせてニヤリと笑った。
アスターゼは、辺境伯に「そろそろ出発するぞ」と促され馬車へと向かう。
長い間、暮らしてきた村から出る寂寥感と領都でのこれからに思いを馳せるとアスターゼは馬車へと乗り込んだのであった。
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