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第1章 辺境編
第22話 辺境伯の要求
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スタリカ村にコンコルド辺境伯軍が駐留して3か月が経とうとしていた。
ノーアの大森林の入り口にある兵士詰所の大幅な改修工事は、ほとんど終了したと言う話だ。
そんな中、アスターゼはヴィックスと共にコンコルド辺境伯に呼び出しを受けていた。どうやら早速のお仕事のようだと察したアスターゼは憂鬱な気持ちになる。
前の時と同じく、ヴィックスを先頭に本営の建物の中へと入ると、これまた前回と同じメンバーが顔を揃えていた。
ただしアルテナ親子はいない。
「今日、呼び出したのは他でもない。俺自身を転職してもらおうと思ってな」
「閣下の現在の職業は何なのでしょうか?」
「天騎士だ。お前の親父が聖騎士になったというのに俺がその下位職にいると言う訳にもいくまい?」
コンコルド辺境伯はチラリとヴィックスを横目で見た後、アスターゼにニヤリと笑い掛けた。ヴィックスは目を逸らして涼しい顔をしている。
「それで何に転職されるおつもりですか?」
「剣聖だ」
――剣聖
様々な剣技を極めると言われる剣士系究極の職業である。
ヴィックスの話では世界に1人しかいないのではないかと言う話だ。
「なるほど、剣聖ですか」
「俺にその素質はあるか?」
転職は誰でも何の職業にでも就くことができる。
しかし、その素質にあった職業であれば、実力をより大きく引き出せるのだ。
アスターゼは何度かの会談で様々な質問を受けていた。
もちろん転職士と言えど、全て分かっている訳ではないので、答えられない質問も多かったのだが。
「閣下は剣士系の素質をお持ちです。剣聖との相性も悪くはないように感じます」
「悪くはないか……。まぁ良い。今よりも強くなるのは間違いないだろうからな」
「では、転職を行います」
「ああ、そうしてくれ」
【ハローワールド!】
アスターゼはすぐに転職の能力を発動する。
すると、コンコルド辺境伯は輝かしい光に包まれ、その姿が完全に見えなくなる。しばらくして光が消えると、そこには特に変わった様子もない彼の姿があった。
「ジョーカーッ!」
「はッ!」
辺境伯はすぐに傍らにいた男の名前を読んだ。
恐らくは鑑定士なのだろうとアスターゼは予想する。
転職時とは違い、鑑定時には特にエフェクトが発生する訳ではない。
ジョーカーはすぐに情報を読み取ってコンコルド辺境伯に伝えた。
「確かに変更されております」
「閣下、おめでとうございます」
「うむ。俺も今、確認した」
ジョーカーの言葉を聞くが速いかヴィックスはお祝いの言葉を述べた。
アスターゼは自分の父親ながら、抜け目のない男だと感心してしまう。
他の彼の部下たちからも祝福の声が掛けられるが、肝心の辺境伯自身は次のことに考えが向いているようだ。
「ところで前に話した転職士に転職させることはやはり無理なのか?」
「どうやらそのようです。転職可能な職業一覧に転職士の名前はありません」
「そうか、新たに転職士を創り出せれば、アスターゼも自由の身になれるのだがな」
そんなことを言ってはいるが、とても本音とは思えない。
これで話は終わりだと考えたアスターゼは、「それでは」と言って部屋を辞そうとする。しかし、辺境伯の話はまだ終わっていなかったようだ。
「まぁ待て。そう慌てることもなかろう」
苦笑いをしながら退出しようとするアスターゼを呼び止める辺境伯。
転職士を呼び止めると言うことはまだ転職させたい人物がいると言うことだ。
今のアスターゼの力では仕方がない。現状では恩を売っておくしかないだろう。
辺境伯が転職に恩義を感じるかどうかは定かではないが。
「転職のお話でしょうか?」
「ああ、カツリョウ、説明を」
「御意。アスターゼ殿は現在の合戦がどのようなものかご存知か?」
「いえ、あまり存じ上げませんが、騎士や戦士など近接戦闘職同士の戦いが中心かと思っております」
アスターゼは合戦の現場を見たことがないが、亜人の持っていたスキルを見たことや、転職士のことについて調べていく内に何となくだが理解し始めていた。
例えば、このカツリョウと言う男の職業は『軍師』だ。
軍師の職能は〈計略〉で色々な種類の計略が並んでいるのを確認済みだ。
そして特性である。これは自分の配下の軍勢に効果があり、攻撃や防御の強化などが行われるとアスターゼは考えていた。
金色のオークに【看過】を使った結果、その特性に【魔物強化Lv2】【歩兵突撃Lv3】と言うものがあった。
恐らくはあれで亜人の軍を強化していたと思われるのだ。
「そうです。現在は弓や銃の撃ちあい、陣形を組んでの白兵戦、乱戦が専らの戦い方です。しかし、世界には黒魔術士や白魔術士などの魔術を使える職業が存在します。彼らを活用しない手はありません。魔術はロングレンジでしかも威力の高い攻撃が可能です。彼らを要塞に籠らせれば、そう簡単に落とせるものではありません」
アスターゼは思い出していた。
リュカの話でも魔術を使う魔術士の数は少ないと言うものであった。
戦争に大量の魔術士を投入することは、今までの戦い方が根本から覆ることを意味する。
この男は思っていた以上の野心家なのかも知れないなと、アスターゼはコンコルド辺境伯の脅威度を一段階引き上げた。
「それで、今連れてきている兵士たちの中で素質のある者を魔術士に転職して欲しいのだ」
それを聞いてアスターゼはゲンナリしてしまう。
あの人数の素質を確認した上、転職させろと言うのだ。
かなりの消耗は覚悟しなければならない。
「今回連れてきたのは軍の一部だ。いずれ領都に来て残りの兵士たちの転職も頼むぞ」
人使いが荒いことだ。
しかし拒否すると言う選択肢はない。
アスターゼは不承不承ながら承諾の返事をしたのであった。
「まぁ、そんな顔をするな。一通りの転職が済めば、しばらく暇をくれてやる」
コンコルド辺境伯にとっては飴と鞭のつもりなのだろうが、何だか圧倒的に飴が少ないような気がするアスターゼであった。
ノーアの大森林の入り口にある兵士詰所の大幅な改修工事は、ほとんど終了したと言う話だ。
そんな中、アスターゼはヴィックスと共にコンコルド辺境伯に呼び出しを受けていた。どうやら早速のお仕事のようだと察したアスターゼは憂鬱な気持ちになる。
前の時と同じく、ヴィックスを先頭に本営の建物の中へと入ると、これまた前回と同じメンバーが顔を揃えていた。
ただしアルテナ親子はいない。
「今日、呼び出したのは他でもない。俺自身を転職してもらおうと思ってな」
「閣下の現在の職業は何なのでしょうか?」
「天騎士だ。お前の親父が聖騎士になったというのに俺がその下位職にいると言う訳にもいくまい?」
コンコルド辺境伯はチラリとヴィックスを横目で見た後、アスターゼにニヤリと笑い掛けた。ヴィックスは目を逸らして涼しい顔をしている。
「それで何に転職されるおつもりですか?」
「剣聖だ」
――剣聖
様々な剣技を極めると言われる剣士系究極の職業である。
ヴィックスの話では世界に1人しかいないのではないかと言う話だ。
「なるほど、剣聖ですか」
「俺にその素質はあるか?」
転職は誰でも何の職業にでも就くことができる。
しかし、その素質にあった職業であれば、実力をより大きく引き出せるのだ。
アスターゼは何度かの会談で様々な質問を受けていた。
もちろん転職士と言えど、全て分かっている訳ではないので、答えられない質問も多かったのだが。
「閣下は剣士系の素質をお持ちです。剣聖との相性も悪くはないように感じます」
「悪くはないか……。まぁ良い。今よりも強くなるのは間違いないだろうからな」
「では、転職を行います」
「ああ、そうしてくれ」
【ハローワールド!】
アスターゼはすぐに転職の能力を発動する。
すると、コンコルド辺境伯は輝かしい光に包まれ、その姿が完全に見えなくなる。しばらくして光が消えると、そこには特に変わった様子もない彼の姿があった。
「ジョーカーッ!」
「はッ!」
辺境伯はすぐに傍らにいた男の名前を読んだ。
恐らくは鑑定士なのだろうとアスターゼは予想する。
転職時とは違い、鑑定時には特にエフェクトが発生する訳ではない。
ジョーカーはすぐに情報を読み取ってコンコルド辺境伯に伝えた。
「確かに変更されております」
「閣下、おめでとうございます」
「うむ。俺も今、確認した」
ジョーカーの言葉を聞くが速いかヴィックスはお祝いの言葉を述べた。
アスターゼは自分の父親ながら、抜け目のない男だと感心してしまう。
他の彼の部下たちからも祝福の声が掛けられるが、肝心の辺境伯自身は次のことに考えが向いているようだ。
「ところで前に話した転職士に転職させることはやはり無理なのか?」
「どうやらそのようです。転職可能な職業一覧に転職士の名前はありません」
「そうか、新たに転職士を創り出せれば、アスターゼも自由の身になれるのだがな」
そんなことを言ってはいるが、とても本音とは思えない。
これで話は終わりだと考えたアスターゼは、「それでは」と言って部屋を辞そうとする。しかし、辺境伯の話はまだ終わっていなかったようだ。
「まぁ待て。そう慌てることもなかろう」
苦笑いをしながら退出しようとするアスターゼを呼び止める辺境伯。
転職士を呼び止めると言うことはまだ転職させたい人物がいると言うことだ。
今のアスターゼの力では仕方がない。現状では恩を売っておくしかないだろう。
辺境伯が転職に恩義を感じるかどうかは定かではないが。
「転職のお話でしょうか?」
「ああ、カツリョウ、説明を」
「御意。アスターゼ殿は現在の合戦がどのようなものかご存知か?」
「いえ、あまり存じ上げませんが、騎士や戦士など近接戦闘職同士の戦いが中心かと思っております」
アスターゼは合戦の現場を見たことがないが、亜人の持っていたスキルを見たことや、転職士のことについて調べていく内に何となくだが理解し始めていた。
例えば、このカツリョウと言う男の職業は『軍師』だ。
軍師の職能は〈計略〉で色々な種類の計略が並んでいるのを確認済みだ。
そして特性である。これは自分の配下の軍勢に効果があり、攻撃や防御の強化などが行われるとアスターゼは考えていた。
金色のオークに【看過】を使った結果、その特性に【魔物強化Lv2】【歩兵突撃Lv3】と言うものがあった。
恐らくはあれで亜人の軍を強化していたと思われるのだ。
「そうです。現在は弓や銃の撃ちあい、陣形を組んでの白兵戦、乱戦が専らの戦い方です。しかし、世界には黒魔術士や白魔術士などの魔術を使える職業が存在します。彼らを活用しない手はありません。魔術はロングレンジでしかも威力の高い攻撃が可能です。彼らを要塞に籠らせれば、そう簡単に落とせるものではありません」
アスターゼは思い出していた。
リュカの話でも魔術を使う魔術士の数は少ないと言うものであった。
戦争に大量の魔術士を投入することは、今までの戦い方が根本から覆ることを意味する。
この男は思っていた以上の野心家なのかも知れないなと、アスターゼはコンコルド辺境伯の脅威度を一段階引き上げた。
「それで、今連れてきている兵士たちの中で素質のある者を魔術士に転職して欲しいのだ」
それを聞いてアスターゼはゲンナリしてしまう。
あの人数の素質を確認した上、転職させろと言うのだ。
かなりの消耗は覚悟しなければならない。
「今回連れてきたのは軍の一部だ。いずれ領都に来て残りの兵士たちの転職も頼むぞ」
人使いが荒いことだ。
しかし拒否すると言う選択肢はない。
アスターゼは不承不承ながら承諾の返事をしたのであった。
「まぁ、そんな顔をするな。一通りの転職が済めば、しばらく暇をくれてやる」
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