おっさん、軍神として降臨す!

波 七海

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第107話 進撃のバルト王国

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 ――中央ゴレムス暦1583年7月3日
   バルト王国 ブレイン

 バルト王国では既にアウレア攻略軍の準備が整っていた。
 イルクルスの聖戦にいくらか兵力は出しているが、それでも十分な数の兵士たちが王国閲兵練兵場に集まっている。その数三○○○。
 これはあくまで閲兵式の数であって主力はベイルトン郊外に待機している。

 儀仗兵に迎えられた国王トゥルンは兵を激励すべく、兵士たちの前に立つ。
 その目は怒りの炎で燃えていた。
 幾度となく苦汁を舐めさせられた相手である。
 その憎悪は凄まじい。

「皆の者、よくぞ集まってくれた! 此度の戦はあのにっくきアウレア大公国を攻略せんとするものであるッ! ヤツらに目にものを見せてやれッ! ヘリオン平原、サースバードでの戦いの借りを返すは今ぞッ! 諸君らの活躍に期待するッ!」

『うおおおおおおおおお!!』

「総大将、ナリッジ・ブレイン少将前へ!」
「は」

 ブレインは気のない返事をして兵士たちの前へ立ち、トゥルン王の前までやって来る。王の気迫に満ちた顔とは裏腹にブレインの表情は冴えない。

「ブレイン少将、此度の攻略はそちの働きにかかっておる。頼んだぞ」
「は」

 それを見ていた軍部のデナード軍務大臣とカイラス軍務卿は首を傾げていた。
 そして疑問に思いながら好き勝手に言いたい放題だ。

「何かいつもと違わないか?」
「そうですな。従順と言うか覇気がないと言うか……」
「とうとう真人間になったのかな?」
「やっとまともに働く気になったのなら有り難いですな」
「これで半殺しの目にあう部下も減るでしょう」
「よかったですな。がっはっは」

 トゥルン王に激励を受けたブレインは騎乗すると、全軍に申し渡す。

霊峰騎士団クレスト・オーダー、出陣ッ! 」

 霊峰騎士団クレスト・オーダーはバルト王国の最精鋭の騎士団だ。
 彼らはサースバードの戦いに従軍していた。
 その敗北の味を知っているだけに悔しさもひとしおだろう。

 整った動作で閲兵練兵所から出陣していく兵士たちを鼓笛隊がその勇壮な音楽で送りだす。トゥルン王もその様子に目を細めていた。


 ベイルトンからサースバードのデルタ城地帯を通って鬼哭関きこくかんへ。
 ブレインは郊外で主力と合流し、計一八○○○の兵が王都から南進を始めた。



 ◆ ◆ ◆



 フケン要塞では未だ激戦が繰り広げられていた。

「撃て撃てッ弾薬はまだ余裕があるッ! 一斉射撃後、突撃するぞッ!」

 弾薬に余裕があるのはおっさんが地道に硝石や硫黄を備蓄してきたお陰もあるが、エレギス連合王国の供与によるものも大きい。
 何せレオーネが同盟の交渉をまとめた後すぐにエレギス連合王国の巨大船がアウレアにやってきたのだ。それは取りも直さず彼女がアウレアと必ず同盟を結べると言う自信の裏返しに過ぎない。レオーネが同盟、通商を必ず締結できると言う前提で長大な航路を時間を掛けてやってきたのだ。

 タッタッタと言う音とダーンと言う音が混じり合って要塞内に撃ち込まれる。
 一画を占拠したガイナスとバッカスは斉射が終わると敵に向かって走り出した。
 無論、他の兵士たちと共にである。

 一部分とは言え要塞の一画を占拠されたことでアルタイナ軍の士気は下がっていた。ガイナスは戦斧バトルアクスを縦横無人に振り回しアルタイナ兵の頭蓋と叩き割りながら進む。一方のバッカスも自慢の大剣でまるで剣舞のように兵を斬って捨てている。2人の大男おの活躍で要塞内のアルタイナ軍はじょじょに押し込まれていった。

「ええい! 踏み止まれい! アルタイナの興廃この一戦にあり! この程度では要塞は落ちぬッ死んでも殺せッ!」

 フケン要塞の総大将であるカントの言葉に焦りの色が見える。
 大丈夫と自身に言い聞かせてもアウレア軍の勢いは凄まじかった。

「おいそこのひげ面野郎! 俺と尋常に勝負ッ!」

 同じくフケン要塞に籠っていたテイホ将軍が最早鬼神と化したガイナスを挑発する。

「ああ!? テメェは何モンだ? 名乗れッ」
「我こそはアルタイナの矛、テイホよ。うぬが如き俺が討ち取ってくれるわッ」
「おもしれぇ一回討ち取られてみたかったんだ。やってみろ若造がッ」
「では行くぞッ」

 テイホの偃月刀が唸りを上げてガイナスに迫る。
 狙いは首のようだ。ガイナスはそれを薙ぎ払うと一旦間合いを取った。

「いい一撃だッ若造呼ばわりしたことは撤回してやる。俺はガイナス。殺してやるからかかって来い」
「ガイナスかッ言葉はいらねぇ俺の技を見よッ」

 槍と斧、そのリーチ差は大きい。
 流石のガイナスも中々内に飛び込めないでいた。

「(手がしびれやがる。一撃一撃が重いぜ。やるなッ)」

「オラオラオラオラオラァッ」

 テイホの連撃が続く。
 ガイナスはひたすら防御に徹して偃月刀をさばくのに懸命だ。

「(チィ確かにつえぇな)」
「ホラホラどうしたぁッ」

 ガイナスは上段からの一撃を紙一重でかわすと一気に前に出る。
 彼の程になればコンパクトな一撃でも十分重い攻撃になるのだ。

 テイホは攻撃を柄の部分で何とか受け止めると、間合いを計って下がりながら偃月刀を薙ぎ払う。とにかくリーチの差を生かすために距離を取るのが賢いやり方だ。
 しかしガイナスは更に踏み込んでいく。刃の部分をかわし柄の部分を体で止めてやり過ごすと、小さく呻きながらも戦斧をテイホの体目がけて振り下ろす。

「何ッ!?」

 振り切れないガイナスにテイホが焦りの声を上げる。
 戦斧の刃と偃月刀の柄の部分がかち合った。
 言わば鍔迫り合いのような状況だ。
 槍などの長物になると柄による攻撃もかなり有効である。

 ガイナスは顔面を強かに打ち据えられ間合いを取る破目になった。

「やるなッ」
「貴様こそなッ」

 双方一歩も引かない状態で、相手の隙を窺うジリジリとした展開になる。
 勝負は長引きそうだ。



 ◆ ◆ ◆



 フケン要塞に夜の帳が降りる頃――

 突貫で作り続けた桟道がかなりの完成を見た。

 要塞の頂上まで桟道は繋がっていないが、後は採光用の窓を破るか、桟道の一番上からフック付きのロープを投げて乗り込むかで侵入はできそうだ。

 これもフケン要塞の西側が完全に天然のままだからこそできるのだが。

「よし。本隊と連絡は取ったな。ここからは決死行だ。落ちたら死ぬぞ」

「覚悟の上だぜ」
「はッ」

 ベアトリスが突入前の喝を入れると、ドーガは当然と言った感じで、レスターはいささか緊張した感じで答えた。

 兵士の一部にガーランド銃を持たせ桟道を昇って行く。
 左から右上まで登ったら、その上にある桟道を右から左上に登っていく。

 夜の闇が恐怖心を余計に煽る。
 落ちて死ぬよりどうせなら戦って死にたいのは皆同じ気持ちだろう。

 本隊も総攻撃をかけているところだ。
 その隙に内部に侵入できればアルタイナ軍は大混乱に陥るのは間違いない。

 そしてついに桟道の一番上まできた。
 ここからは頂上に出っ張りにフックをかけて上る。
 ベアトリスが聖剣とガーランド銃を腰に下げてよじ登っていく。
 鎧は重いので着ていない。

 するすると上っていくと岩を削って作られた採光用の窓がいくつもある。

 その窓を壊し内部へと侵入する。
 大きな音を立てたがアルタイナ軍もアウレア軍の攻撃でそれどころではないはずである。ベアトリスは狭い窓から暗い室内に体を滑り込ませた。

「げ、俺ぁ無理だな。入らねぇ。頂上まで登るわ」

 ドーガは体が大き過ぎて無理であった。
 レスターや兵士たちは順番に侵入していく。

「よし。内部を混乱させるぞ。覚悟はいいなッ」

 ベアトリスはそう指示を出すと聖剣ヴァルムスティンを抜き放った。
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