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第二章 ナミディアの領主
2-20 再出発
しおりを挟む昨日の夜二十時頃に出発は明日だとの連絡が来た。
いつでも出発できるように準備しておくように言われていたため、特に問題はなかった。今はカルマへの街道を荷馬車を護衛しながら皆で歩いているところだ。
しかし、護衛する荷馬車の台数はかなり増えていた。
昨日までの十台から二十台へ大幅に。
流石に、多すぎて護衛に手が回らないと反対したのだが、他の冒険者を手配できなかったので仕方ないと言われた。
報酬に色を付けてもらえる事にはなったが、事情が解らないと納得できない。
すると、ホンザは理由を教えてくれた。
エクス公国で蝗害が発生し、収穫前の小麦がかなりやられたとの事だ。蓄えも少なく、このままでは間もなく飢饉が起こるという。
それを聞きつけた商人らが小麦を買い占めて、エクス公国で高値で卸そうとしているらしく、危機感を覚えたホンザは急遽、穀倉地帯である、メルディナで高騰しつつある小麦を仕入れたようだ。
あの伝令は彼の店の者であったらしい。エクス公国は何とかして小麦をかき集めようとしているらしく、公国出身であるホンザにもツテを使って依頼が来たとの事であった。
明らかに足りない護衛数で一行は進む。
こんな時に警戒すべきは魔物よりも野盗の類である。
しかし、大商隊であるにも関わらず、今のところ彼等の捜査網には引っかかっていないようだ。
襲撃は午前中に豚人十五匹だけであった。
隊列など何もなく、統率のたいして取れていない魔物など、四組のパーティには敵ではなかった。
「しかし、この商隊は最終的にはエクス公国まで行くのだろう? そこはどうするんだ?」
昼食の休憩中にダライアスが尋ねてきた。
「まだ、どうしようかと考えている。別に依頼自体はカルマまでの契約だから、そこでおさらばしても問題はないんだけど……」
「お前は時々、勢いで行動する事があるからな。まぁ嫌いじゃないけど」
レヴィンはエクス公国の民の窮状を訴えるホンザの鬼気迫る表情を思い出していた。
「去年は凶作で不作だったッ! それに加えて今年も蝗害による大不作となると、とてもじゃないが民は生きていけない。一刻も早く食糧を届ける必要があるのです!」
「そんな事は俺の知った事ではないッ! 国がどこかに支援を求めれば良い話だろう!」
イシュタルの無慈悲な言葉がホンザを打ち据える。
他のパーティも何も言わない。
「国が動くのを待っていたら、下手すれば餓死者がでてしまう! 何とか護衛を延長して欲しい!」
「エクス公国が無能集団なだけだろ。恨むんなら自分の国を恨むんだな。と言うか、お前が仕入れた小麦はもとはと言えばアウステリアの物だろう。盗人猛々しいとはこの事だなッ!」
「若ッ! 言葉が過ぎますぞ!」
隣りではガルバッシュがイシュタルを諌めている。
「カルマの街で護衛を引き受けてくれるヤツがどれだけいるかな? カルマにいる冒険者は魔の森で金を稼ぐのに夢中だからな」
「ぐ……」
「しかし、エクス公国の民も民だな。蓄えが少ないなど、農民の普段からの努力が足りんだけではないのか?」
「あなたは貴族でしたな……。上がそう言う考えだと下にしわ寄せがいくんだッ! 少しは民の事を考えてみたらどうなのですかッ!」
「他国者に言われる筋合いはないッ!」
ダライアスは農民だ。
どちらかと言えば、ホンザの心境に共感しているようだ。
イシュタルに対しては露骨に文句を言っている。
レヴィンもイシュタルの本性を知ってどん引きしている。
危険性に目を向けている部分は理解できるが、その民を民とも思わぬ思想に引いているのである。
結局、この日は午前中の魔物の襲撃以外は何も起こらなかった。
その夜、商人のホンザ達が眠っている中、四組のパーティは寝ずの番をしていた。それぞれのパーティ内で順番に見張りを交代しているのだ。
そんな中、『無職の団』は全員が起きて話し合っていた。
「さて、こんな時間にすまないが、意見を聞きたい」
レヴィンはそう切り出した。
「エクス公国の首都エクスまでの護衛延長がホンザさんから出されている。どうしたらよいだろう?」
「俺は、護衛を引き受けても構わないと思っている。彼の考えには共感できる」
ダライアスが口火を切る。
「だが、他に護衛を受けてくれそうなパーティがいないんだろ? 危険じゃないか?」
ヴァイスは危険性を心配している。もっともな意見だ。
「いや、現在カルマで依頼を出しているらしいので、まだどうなるか解らない。しかし、ホンザさんは焦っている。護衛が見つからなくても強行する可能性がある。その場合は確かに危険な護衛となるな」
「彼の目的は餓える可能性のある民に食糧を届ける事なのだろう? それなら、エクス公国の食糧生産をになっている地方の村々を回るつもりなんじゃないか? 首都エクスに直行して、はい、お終いとはならないんじゃないかな?」
ベネディクトが別の視点から発言する。
「確かに、国に渡すと下に行き渡らない可能性があるからな……。それはホンザさんの望むところではないだろうし」
「エクス公国領に入ってからは特に危険……。食い詰めた野盗が大勢いそう……」
シーンも反対寄りのようである。
「あたしはレヴィンの意見に従うよ。レヴィンはいつも的確な判断をしてくれるよ」
「アリシア、盲目的に信じるのも危険だぞ? いや信頼してくれているのは嬉しいけどさ」
「レヴィン、肝心の君の意見はどうなんだい?」
「俺は、できれば助けてあげたいと思っている。それに普通に戦えば魔物はもちろん、野盗相手にも後れをとるとは思っていない。ただ、俺以外は人間相手の戦闘をした事がない。皆に人間を殺す覚悟はあるか?」
全員が押し黙る。
「まぁ最悪、俺一人で護衛をして、皆はカルマに残ると言う手もある。その場合はベネディクトが指揮を取って依頼をこなして欲しい。となると、前衛に職業変更したのは痛いな……」
「一人でなんて、それこそ行かせられないッ!」
ベネディクトが悲鳴のような声を上げる。
「俺は人の悪意には慣れている。そこらの野盗ぐらい確実に仕留められるだろう」
誰も話そうとしない。皆、迷っているのだろう。
「ではカルマでもう一度聞くよ。考えておいてくれ」
そして夜は更けてゆく……。
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