青い月の下で

大川徹

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16節『幕間・強襲』

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 同時刻、桑谷は一人通学路を歩いていた。群れるのが嫌いな彼は部活もせず、こうして一人で帰るのが日課だったが今日は妙な胸騒ぎがしていた。例えば、後ろから誰かが自分を追いかけてくるような。
 
 「どなどなー! ね、聞いて! あたち、ヒミコを傷つけちゃったのかなぁ!」

 予想は当たった。追いかけてくるどころか自分を声高く呼んでくる少女。笹本だ。

 「逃げるか」

 しかし、笹本の足は速い。クラスで一番速いことを思い出し、彼は一歩出す前に諦めた。

 「何だ。めずらしく真面目なことを言うじゃないか。頭でも打ったか」
 「何度も考えたんだけど、やっぱりそんな気がした」
 「お前も考えられるんだな」

 あの出来事はもう数日前だ。ずっと彼女の中で尾を引いていたのだろう。

 「一つだけ言うなら、価値観の違いってやつだ。例えば、お前は俺と遊びたいが俺は絶対に遊ばれたくない」
 「えー、どうしてー」
 「雨宮も同じだ。世の中みんなお前みたいだったら平和だったのにな」

 俺は絶対にごめん被るがと心の中で付け足す。

 桑谷は笹本を嫌う一方で肝心なことは絶対に口にしない。むしろ笹本をたしなめ、助長し暴走させ他人を巻き込むのは楽しいと感じていた。樫崎が雨宮を学校で追いかけた時もそうだ。萩谷が現れた時も自分がなるべく損をしないように場を操ろうとした。

 「せいぜい、次に雨宮と会った時にはうまく立ち回ることだな」
 「そだね。豆腐の話はもうしない」
 「話の論点、そこか?」

 その時、ぴたりと桑谷の足が止まった。

 「おい」

 根拠はなく、視界によぎった影に不審感を覚えた。何かいる。笹本は気にせず歩いていくが再び目の前に影がよぎった時、疑問は確信に変わった。

 「笹本!」

 反射的に彼女を突き飛ばすと同時に桑谷は頭を殴打された。

 現れたのは黒服。いつか笹本が蹴り飛ばした男だ。歪む視界で桑谷は敵を視認する。だが、一歩後退した隙に黒服が四人に増えていた。

 「いつの間に!」

 何だお前らと叫びながら、蹴りを放つ。だが、男に受けられるや足を腕で固定され、地面へと投げつけられた。

 ――強い!

 雨宮を襲った男達のことは笹本から聞いた。だが、話は違う。以前はこちらが不意打ち、あの場は階段。今、地の利は相手にある。起き上がる暇さえ与えられずに、桑谷は踏みつけられ這いつくばるしかない。

 鮮やか。喧嘩の技量とはくらべものにならない。その手練手管は武術の域。

 「どなどな!」
 「逃げろ! 笹本!」

 咄嗟に戦う構えをした笹本も桑谷の窮地に思考が止まった。助けたい、逃げない、動けない。そう逡巡した矢先、残った三人が笹本を取り囲んだ。

 「うわあ、まずいまずい! 食べないでー!」

 そう叫びながら一人に拳を叩き込む。その手は空を切り、いつの間にか正面から側面に移動した相手が笹本の腕を掴んでひねりあげる。「いたっ」と言った瞬間、彼女のみぞおちに男の拳が突き刺さった。

 「くそ、マジかよ」

 男に押さえられ笹本の上半身がだらんと垂れる。そのまま抱え上げられ、どこかへ連れていかれていく。桑谷は満身の力で男から抜け出そうとしたが、今度は強烈な一撃が桑谷の背に走る。男に踏み潰された勢いで、彼はえづくなり視界が暗転した。最後に見えたのは笹本の白い腕だった。
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