学校外で会えるまで

Karhu

文字の大きさ
4 / 15

第4話 お昼ごはん

しおりを挟む
 梅雨入りして雨が降り、晴れて廊下の窓に残った雨粒の影が日差しで床にくっきりと見えるのに癒やされながら、数学の先生に質問する為、職員室前に来た。
 この時間に来たのは、お昼休み中なら基本的に職員室にいると、先生本人に教えてもらったから。
 日和先生を好きになってから先生の担当科目を得意科目にしようと勉強してる。だけど、先生への気持ちを“学業を疎かにしたから”と無碍にされては困るので、先生の担当科目以外も力を入れて勉強するように変えた。
 職員室のドアをノックしてから開け、学年・クラス・名前を言い、数学の先生を探す。ドアを開けた瞬間に香ったのは、コーヒーの香りだ。そのいい香りを堪能しつつ職員室内を見渡すと、隅の方に置いてあるプリンターで印刷しているのを見つけて近づく。
 印刷が終わったのを確認して、数学の先生に声をかけて質問すると、快く答えてくれた。
 いくつか質問してお礼を言った後、印刷物を運ぶのを手伝おうとしたが断わられてしまい、数学の先生が印刷物を持って職員室を出て行くのを見送る。
 職員室に来る口実であった質問を終え、日和先生のデスクへ向かう。
 先生のデスクには一本生けられる花瓶が置いてあって、向日葵を生けていた。向日葵の鮮やかで明るい黄色も先生にあってる。バレッタの淡い黄色も似合うし、どの色も先生にあうんだろうな。
 六月に咲く色々な花を思い浮かべながら、デスクでお弁当を食べている先生に声をかけた。
「日和先生」
「!」
 驚かせない為に少し大きな足音をたてて近づいたけれど、駄目だったようだ。凄い勢いで私の方へ顔を向けられ、私も少し驚く。
「ど、どうしたんですか、花ヶ前さん」
 告白してからの先生は私を意識しているのがよく分かる。授業中に目が合うのもそうだけど、話しかけると少しオドオドされる。今もそうだ。
「お弁当、美味しそうですね。先生の手作りですか?」
 先生が食べているお弁当は、彩りも良くて栄養バランスも良さそう。
 お弁当の中身は卵焼きにひじきに小さく切られた鮭、ほうれん草の胡麻和えと唐揚げ、プチトマトとご飯。美味しそうだなぁ。
「はい、手作りです。手作りと言っても冷凍食品多めですよ。私がした事といえば卵焼きを焼いて、炊いたご飯とおかずを詰めただけです」
 先生はそう言ったけれど、毎日お弁当を自分で作るのは大変だ。高校生になってから自分でお弁当を作るようにした。毎日、何を入れるか考えたり栄養バランスを考えたり大変で、中学生のとき彩りと栄養バランスの良いお弁当を毎日作ってくれた母には感謝しかない。学生の私がそうなんだ、働いている先生はもっと大変なはず。
 その事を端的に伝えると、凄くないですよ。他の方もそうですよと言って顔を逸らされた。
 顔を逸らされたことで、悪戯をしたくなってしまった。思いついた悪戯を実行するために、顔を逸らしたままの先生の耳元に顔を近づけた。
「先生、好きです」
 告白したときと同じセリフを、耳元で囁いた。
 囁いた瞬間に振り向かれ、私と先生の顔が一気に近づく。耳を真っ赤にしながら、キャスター付きの椅子を後退させて私から距離をとる先生が、可愛くてしかたがなくて頬が緩んでしまう。
 先生は何か言おうとするが、プリンターの動く音で職員室にいることを思い出したのか口を閉じる。そして、真っ赤に染まった耳を手で隠し目を閉じて、数回首を横に振っていた。
(可愛い……)
 先生は耳がすぐ赤くなる。
 この前、園芸部の活動で花壇の花に水やりをしていたら先生が“可愛いね”と花を褒めていて、“可愛いって言ってる先生が可愛いですよ”と周りに聞こえない小さな声で伝えたら、耳を真っ赤にしながらそっぽ向かれてしまった。反応が可愛くてつい“耳が真っ赤ですよ”と伝えたら今のように手で隠して。それからは何かあると手で耳を隠すようになった。
 それを思い出して頬を更に緩ませながら、まだ少し動揺している先生に、悪戯する前に聞こうとしていたことを質問する。
「先生の好きなお弁当のおかずってなんですか?」
「え? あ、卵焼きとひじきです。和食が好きで、醤油やダシを使った料理は大体好きですよ」
 先生との会話で、できるだけ先生の好きなものを聞き出すようにしている。今みたいに動揺していなくても教えてくれるけど、どうして聞くんですかと聞かれたら、好きだからだと答えるしかない。そう答えたら教えてくれなくなりそう。だから、質問されないようにできるだけ不意をついて聞くようにしている。
 他に教えてもらった好きなものは、たい焼きに抹茶プリン。コンビニで買ってよく食べると教えてくれた。
「卵焼きは甘めに味付けしてあるんですか?」
「甘いのが好きなので、そうですよ」
 好きなものの話をしている先生はとっても楽しそう。園芸部の活動で花について説明しているときは、最近知った花笑みという言葉がぴったりな笑顔だった。今は小さな笑みだけれど、どの表情の先生も好きだ。
 聞きたかったことも聞けたし、気持ちもまた伝えられた。嬉々としながら教室に戻ることを伝える。
「教えてくれてありがとうございました。そろそろ教室に戻ります」
「どういたしまして……?」
 戸惑っている先生にお辞儀をして、職員室のドアの前で失礼しますと言ってから職員室を出た。
 先生の好きな料理を知れたので、今日から料理にも力を入れよう。
 母に料理を教えてもらおうと決め、母にどうお願いしようか考えながら廊下を歩いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...