学校外で会えるまで

Karhu

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第5話 服

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 七月の強い日差しを浴びながら元気に花壇で咲く、可愛らしいシュウカイドウと赤いコスモスを下駄箱から眺める。どちらの花も園芸部の活動で育てた花。自分で育てたのと、先生が育てたことが相まってとても可愛くみえる。
 ずっと眺めていたいけれど、もうすぐショートホームルームの時間になってしまう。
 急いで下駄箱から上履きを出して履き、早歩きで教室へ向かう。
 ショートホームルームは十分間。日和先生が出席をとって、連絡事項を伝えてくれる。そして、ホームルームもある。先生が担当であれば確実に二回会えることが確約されているようなもの。来年のことを考えるのは早いけれど、来年も先生が担任になるか分からない。だから、今年のうちに距離を縮められるだけ、縮めておこう。
 考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか教室についていた。一度深呼吸をして、笑顔で教室に入る。たまに、先生の方が先に教室にいることがあるからだ。
 教室に入り、よく話すクラスメイトに挨拶してから、席に着く。周りにいる生徒達は一週間後に始まる夏休みの予定の話で盛り上がっている。
(私はきっと勉強に、料理の練習かな。先生と学校外で会えないし……夏祭り、一緒に行ったりできないし)
 夏休みに夏祭りに行くことや旅行に行く計画を話すクラスメイトの楽しそうな声に少し、気分が沈み、気を紛らわせようと窓の外を見ていると、窓に映る教室のドアが開いたのが見えた。その窓にうっすら映る先生の格好に驚き、勢いよく振り向く。
 教卓へ向かう先生は、半袖のロングワンピースを着ていた。いつも、シャツに、スラックスの、先生が!
「おはようございます」
 教卓で挨拶をして、出席をとり始める先生を目を見開いたまま見つめる。
 先生の着ているロングワンピースは青紫で、爽やかな印象で、この服もとっても似合ってる。ワンピースはハイウエストだから、シャツを着ているときより体の細さがよくわかる。
(細いなぁ。スタイルいいと思うけど細すぎてちょっと心配になってくるなぁ…………それに刺激も強い……)
「花ヶ前 紬さん」
「……あ、はい!」
 先生の姿に見惚れて反応が遅れてしまった。反応が遅れたことに、少し心配そうな顔をして先生が私を見る。でも、それも数秒のことで、すぐに次の生徒の出席をとる。
(いつもの格好も可愛いけど、また違った可愛さだ)
 全員の出席をとり終え、連絡事項を話して動く首元が、いつもはシャツの襟で見えないのに、ワンピースのデザインのおかげで今は見えている。半袖の服を着ているのも初めて見た。シャツは長袖で、暑くなってきたら腕まくりをしていて半袖は着たくないのかと思っていた。先生の知らない姿が見れたことと、魅力的な姿のせいで心臓の鼓動が早い。
「連絡は以上です」
 連絡事項も伝え、やるべきことを終えて先生は挨拶し教室を出ようとする。その動きに合わせてエーラインのスカートの裾がヒラヒラ揺れて、首元と同じようにいつもは見えない細い足首に目がいく。そのまま、履いている靴へ視線を動かす。
 今履いている靴は、いつも履いている革靴ではなく白のローヒールのサマーブーツだ。足全体を覆うデザインで暑そうに感じてしまいそうだけど、全体の色が白で、踵に描かれている花が青から紫のグラデーションで涼しげだ。
(色合いが綺麗だ。先生の雰囲気にも合ってる)
 先生の姿に見惚れているうちに先生は教室を出ていってしまった。
 先生が完全に教室の前から去ったのを無言で確認してから、教室が生徒達の会話で賑やかになった。一時限目の先生が来るまで五分間ある。それまで生徒達は、話したり予習をしたり、様々だ。だから、私が先生を追っても質問でもしに行ったと思われるはず。
 急いで教室を出ると、先生の後ろ姿が見えた。まだそこまで遠くない距離で安堵し、後ろから先生の名前を呼び、追いかける。
「日和先生!」
 私の声に反応して振り向く先生はまるで、見返り美人のよう。先生の周りがキラキラしてみえる。
(うっ! 可愛くて美しいなんて、罪な人だ!)
 ……廊下が想像より暑く、教室との温度差のせいで一瞬ちょっと変なテンションになった。テンションを戻すために数回頭を振って、話したいことを整理してから話し始める。
「そのワンピース、とっても似合ってます!」
 私の言葉で先生は照れて一瞬、私から目を逸らすけれど、また私の目を見てくれた。先生は私からの綺麗ですとか、可愛いです、みたいな好意の言葉に慣れてないけれど、言われてからの復活が早くなった。……まぁ、ほぼ毎日のように好きとか可愛いとか伝えていたら耐性がついてしまうのも当たり前か。
「……ありがとうございます。家のベランダで育てている桔梗の花が綺麗に咲いていて、桔梗に近い色の服を探して着てきたんです」
 先生は一人暮らしでマンションを借りているとこの前教えてくれた。家のベランダで色々な花を育てていて、朝ごはんのパンをベランダに置いた小さい椅子に座って花を褒めながら食べるそうだ。
「そうだったんですね、いつもの格好も好きですし、その格好も好きです」
 先生の耳が赤くなって、先生が下を向く。そのまま少し間を開けてから、小さな震えた声でそうですかと言い、立ち去ろうとする。
「また授業で!」
 その言葉に驚いたのか先生の肩が跳ね上がり、お辞儀をしてから足早に去っていってしまった。
 夏休みまであと一週間。先生がまたワンピースを着てくれたり、学校に着てきたことのない服を着てくれるかもしれない。
 ショートホームルーム前の沈んでいた気分は先生のおかげで元に戻るどころか、いつも以上に上がっていた。高校に入学してからは、気分の浮き沈みや感情の変化の原因は先生だ。それだけ好きなんだ、先生が。頭のなか先生だらけ。
 大好きな可愛い日和先生の後ろ姿が完全に見えなくなってから、教室に戻った。
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