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ある日裏山に敵機が落ちた。
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しおりを挟む夜、十一時になるのを待って、僕は黒電話の前に立って、茜の家の番号を回し始めた。
ジー、ジー、という、質量のある音がダイヤルを回す度に鳴る。
家の中は静まり返っている。玄関に掛けられている、木彫りのフクロウのお腹に収まっている時計を見ながら、僕は呼び出し音を聞いて待っていた。
五回ほど呼び出し音が鳴った後、誰かが出た。
「もしもし」
茜だ。気のせいかもしれないが、声に覇気がないように感じられる。
「あ、僕、足人。今、大丈夫?」
少しの間が空いた後、大きな溜息の音が聞こえてきた。それから徐に茜の声がした。
「家の人はもう寝てるからいいよ。で、何?」
「帰りに、操縦士の話をしただろう? 子供だったって」
「……ああ、あれ。そうね、操縦士は子供だった。で、今は病院にいるはず。それが何? ……ねえ、なんだか嫌な予感がするんだけど。気のせいだよね」
「それが気のせいじゃないかもしれない。……僕、あれから少し考えたんだ。でもやっぱり、一部の人を除いて、大人たちが誰も気にしようとしなかったのが気になって。それで明日、彼の所に行ってみようかと思ってるんだけど」
暫く、沈黙。
それから茜の声が聞こえてくる。
「……彼って、あの、操縦士の事? 本気で言ってるの?」
「本気だよ」
僕の指は受話器の螺旋状の接続紐に伸び、無意識に弄んでいる。
僕は少し卑怯な手を使おうとしている。茜の無尽蔵の好奇心に訴えかけようとしているのだ。おまけに彼女の叔父は病院で働いている。操縦士の少年の事も勿論知っている筈だ。
「叔父さんのこと、言ってるのね? ……ああもう、隠してもしょうがないから私も言うけど、今日、私も電話で叔父さんに聞いたのよ。操縦士のこと。そしたら今は意識がなくて、点滴を打って暫く安静だって。酷く衰弱してて、意識が戻るのに暫くかかるだろうって言ってたわ」
「じゃあ、例え明日に行ったとしても、話せるとは限らない?」
「そうでしょうね」
僕はそれでも構わなかった。とにかく一目でいいから、本物の彼の様子というものをこの目で見てみたかった。
「まあ、僕はそれでもいいや、最悪。見れればいいんだ。出来るだけ近くで」
茜が肩をすくめるような音が聞こえた。
「……じゃあ尚更、昼間見に行ったら良かったじゃない。変な意地を張らずに」
「一人で見たいんだよ。落ち着いた状態で。あ、茜も来る? 定員は二名まで。病院ツアー」
茜が小さく息を吸い込む音。
「あなた、分かって言ってるの? さっきも言ったけど、今は軍の関係者が尋問する為に集まって、入り口には見張りが立ってるわ。外にだっているでしょうね。一般人に面会はまず無理よ」
それは分かっている。分かっていて言っているのだ。
「うん。それでも僕は見にいくよ。病院の見取り図は持ってるんだ。何でかは聞かないでね。で、茜も運動神経は悪くないだろう? 内側から入れないなら、外から入ればいい。見張りは窓の外には立てない。薄暗くなるのを待って、窓と排水パイプを伝って中に入ればいい。
……どう?」
考えているような間があった。
それから茜の癖である、いつもの大きな溜息。
「……あなたって時々、本当に無茶をしたがるよね。どういう事なの? 前に住んでた所でもそんなだったの?」
僕は紐を弄ぶのをやめて言う。
「あんまり昔の事は思い出したくないんだ。いい思い出がないから。……で、どう? 茜も行く? それとも、行かない?」
暫く沈黙が流れた。だがその時には既に、僕は茜がどう答えるのか分かっていた。茜の唯一無二の性質を、僕は人一倍把握しているつもりだったから。
暫くして、茜の声が聞こえた。
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