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機械でも、疑問を抱くことがあるのかしら?
ある日、彼女は何気なくそう呟いた。他に誰も聞いている者はおらず、僕だけが彼女の何気なく発せられた恐ろしい言葉を聞いたのだった。その言葉はそれから、僕の頭の中を四六時中ぐるぐると巡る事になる。
僕は彼女のその言葉を、思い出す必要などなかったのだ。ずっと、見えないふりをし続けていればよかったのだ。なのに、この世界の機構は僕が思うよりもずっと複雑で、不味いタイミングに限って、奥からそれを引き出してくる。
全てが終わる前に、僕は彼女のその言葉の事を思い出していた。ただ独りで。
文字数 11,367
最終更新日 2024.03.15
登録日 2024.03.12
今日も都には雨が降り続いている。まるで私の憂鬱を取り囲むかのように。
何故この都に住み続けているのか、自分にも分からない。いや、分からないことだらけだ。もしかしたら、分かっていることなど何一つとして存在していないのかもしれない。
私は何故、今日もコーヒーを淹れるのだろう。何故、彼女を部屋に迎え入れるのだろう。こんな小さな、鉛と倦怠を帯びた空気の他に、何もない部屋に。
彼女は今日も微笑っていた。私はその笑顔を、直視できないでいた。
時間は過ぎていく。そしてその間も、雨は間断なく降り続く。
深々と、音のない音を立てながら。
文字数 38,020
最終更新日 2024.02.25
登録日 2024.02.01
「俺、母親の中から出てきた時のこと、覚えてるんだよ」
嘘つけよ、と少年は言う。
「嘘じゃない。全部覚えてるんだよ。俺の母親の中から、粘液まみれで出てきて、それで、銃が、滅茶苦茶ちっちゃな銃が、自分のへその緒と棚がってるのを、俺は見たんだよ」
それは嘘だよ、と少年は言う。
「嘘じゃない」
嘘だよ。
少年はいなくなった。そして、僕は自分がこの世界において異端であることを知る。そして、この世界の外には、もう一つのーーいや、更なる世界が広がっているということも。
僕はその時まで黙っていなくてはならない。もしもその時が来なければ、その時は……。
僕はどうするのだろう?
文字数 2,348
最終更新日 2024.02.16
登録日 2024.02.15
文字数 8,398
最終更新日 2023.09.15
登録日 2023.09.15
生きるということが形を伴うものであるとしたら、僕は生きるということを放棄している。
僕はいつまでも逃げ続けている。それを人々は怯懦と呼ぶのかもしれない。
または嘘吐きと。
文字数 3,370
最終更新日 2023.03.25
登録日 2023.03.25
私はどんな場所よりも、空の中に抱かれていることの方が好きだった。
空は、私の全てを肯定してくれていた。
私は、この世界の事が好きではない。ただ、嫌いでもないのだ。ただただ、合わないというだけ。私と私の今いる世界とは、出会うべきではなかった、ただそれだけなのだ。
あれ程美しかった空も、今は重たい雲に覆われて、太陽の姿も見えない。街は水没し、私のいる電波塔のすぐ側まで、水位は昇ってきている。
私は何のために、今更になって、こんな事を書いているのだろう。一体、誰の為に。
窓の外の、豪雨の作る幾つもの細い線の先に、私が憎んでやまなかった雷の壁が揺らいで見えている。
私は書くのをやめた。
・・世界が終わる雨の日に 花澤カレン
文字数 29,384
最終更新日 2022.08.13
登録日 2022.07.21
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