彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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10話 sideクリス

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最初はうまくいっていた。

父さんに新しい家に連れてこられた時、あの世界の中だと気がついた。
それも主人公の立ち位置で、僕は歓喜した。

漫画の中では理由は描かれていなかったけど、きっと父さんに愛されているんだと思っていたのに、まずその前提が違っていたとは思わなかった。
母さんと父さんは愛し合っているって。だから僕も愛されていて、大切にされるだろうって。

でもそこが全く違っていたなんて。

実際には本妻が病床について落ち込んでいた父さんに、母さんがつけこんだ結果僕が生まれたらしいのだ。
父さんは悪い人ではないから、母さんや僕のことを見捨てたりはしなかった。
だから親子2人、本妻さんが亡くなるまで普通に、いや少し贅沢な生活ができるくらいの援助があった。

けれど父さんが心底愛しているのは本妻マリアンティーヌと息子のサリスフィーナだけだった。
僕達2人のせいでサリスフィーナが父さんに反抗するようになると、父さんは僕達から距離を置くようになり、僕の不遇出発という漫画の裏側はこんな風になっていたんだと感動すらしたのだけど。

それでも、結果は変わらないはずだ。
この漫画は、クリスの不遇の状態から始まる英雄譚には変わりないのだ。ちょっと思っていたよりも不遇過ぎるスタートだったのが、案外胸にきたけど。
本宅に越して今まで、漫画の通り進んでいたのに。


「僕も兄さんを探しに行きます」

どこから話がズレてしまったのだろうか。

やっぱり母さんが兄さんを森に捨てに行かなかったからなのかな。
兄さんが勝手に川に流されちゃったから、いけなかったのかもしれない。
でも、自分の母親が人殺しみたいになるのが嫌だったんだよ。
それによってもたらされる非難に耐えられるのかなって思ってしまったんだ。

それで父さんから距離を置かれたことが、それなりにネックになっていたんだと気づいた。そんな柔なメンタルなのに、それ以上耐えられるのかって。
だから少しでも不遇感を減らそうと、母さんが兄さんを捨てにいったりしないように、なるべく一緒にいるようにしたのが間違いだったんだな。

最近母さんに近づかなくなった僕に、母さんが変な顔をすることがあるけど、心を鬼にすることに決めた。一時的にではあるけど、批判の的になる覚悟も決めた。
母さんが父さんに嫌われて処分されることになっても、それが本当のストーリーなんだ。それで兄さんから罵詈雑言を浴びせられても仕方ない。
そうしないと僕のストーリーが始まらないんだから。

本来なら僕も漫画の通り、そろそろオオウルカミの始祖の怨念と出会い、彼を成仏させることによって加護を得るはずなんだ。
だから、森に行かないといけない。

そして洗礼までの2年ちょいで練習して、それなりの使い手になっていないとならないんだ。
そうしないと姫様とのクライマックスにたどり着けないからな。

学院で第1王子と知り合って仲間になれば、なんでも手に入るようになるし、その後の人生楽しいことばかりだ。
この家にいても結構贅沢できてるけど、それだけじゃなくて、名誉も欲しいしかわいいお姫様を手に入れて羨望の眼差しで見られたい。
なんならハーレムを築いてもいいんだしな。

世界を手に入れて、頂点に立ってみたい。男だったらそのぐらいの野望は持っていて当たり前だろう。
そして僕は、その未来を約束されてるんだ。
そのための不遇スタートなんだから、耐えないとダメだよね、うん。

「兄さんは森にいると思うんだ」

僕がそう言うと、護衛5人と森に入った。
ストーリーと同じ、森の中腹にある黒く淀んだ池を探すけれど見つからない。
黒く淀んだ池で死んだオオウルカミに用事があるのに、汚れた池がないのだ。

まだ現れていないのかな?
それとも兄さんの怪我から順番に物語は進むのかな。
けど、そうこうしているうちに、僕の歳は重ねてしまうわけで……どちらにしても、これからもこまめに見に来なくちゃいけないだろう。

そもそも母さんが兄さんを捨てなかったから、話が進まないんだ。
それが悪い。
早く兄さんを見つけて、母さんに捨ててもらわないとな。
そのために、早く兄さんをみつけなくっちゃ。


ーーーーーーーーーー

クリスはこの世界が漫画世界だと思っているだけの、良くも悪くもない普通の子です
現時点では漫画の通りサリスフィーナを悪人だと思っています
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