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24話 戻ってきたもの
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いつも通り、日が暮れるとベッドに入って眠りについた。
電気の様な灯りが皆無なわけではないが、ロウソクを灯すような僅かな範囲の灯りか、魔術を使った短期の灯りが主流な世界では、決められた飲食店以外はまだまだ気軽に活用などできないらしい。
田舎町に街灯なんかもあるわけはないし。
熟睡して、少し眠りが浅く浮いた時だった。
カサリと布の動く音がすると、リクが起き上がった気配がする。
寒くなってきたし、トイレかも?と思わなくはなかったけれど、普段こんな風に気配を消して移動する彼ではない。
リクが部屋を出た後で、俺ものっそりと起きあがった。
うーむ、逢引か?
え、お相手見てみたい。
ほー、リクにも春が来ちまうか?
デバガメ気分でそっと後をつければ、寂れた一軒家にリクが侵入していった。
誰も住んでいなさそうだ。
ここで誰かと待ち合わせでもしていたのならば、あとで少々指導してやらねばなるまい。
もっとロマンティックなシチュエーションをな!
あ、でも暗がりの方が都合がいいかもしれないこと考えてたかも?
な、なら近づきすぎてほにゃほにゃの現場に居合わせちまったら、お互いに気まずいことこの上ないな。
うん、帰るか。
ま、リクに危険がないならいいんだ。
寒いし、なんか羽織るもの持ってくればよかったぜと踵を返して家に帰ろうとした時だった。
「ここまで来て、声もかけずに帰るのですか?」
「リク」
家に入ったはずのリクが背後に立っていた。
めっっっっちゃ、怖いんですけどっ!
いつの間にそんなスキルを身につけたんだよ、お前えぇぇ!
「サフィ様が自分に興味を持ってくれたのだとしたら、とても嬉しいです」
俺も恐怖で目に涙が浮かんでいるが、リクもうるっとした目で俺を見つめている。
ワンコめ!
これは一緒に来て欲しいってことか。
そんな顔されたら、遠慮なくついて行っちまうけども。
「この家は?」
裏町ではない、けれども町外れの廃れた一軒家。
「俺がまだ10歳くらいの時に住んでた家です。それより小さい頃のことは覚えて無いんですよね」
「へえ」
今現在14歳の子供が、10歳より前のことを覚えてないって、普通か?
もっと小さい時のことなら分からなくもないけど。
足を踏み入れると、家の中はガランとして何も無かった。
「婆さんが死んで、ある日突然追い出されて。……何も残ってませんでしたね」
それは、おばあさんとの思い出になる物が、ということだろうか?
金目の物がという雰囲気ではない。
表情の変わらない、リクの横顔を見ていたら切なくなった。
「帰りましょうか」
時間にして、わずか10分ほどでリクが俺を振り返った。
わざわざ人目を盗んでやって来たんだろうに、本当にこのまま帰っていいのか?
「身体が冷えてしまいましたね」
大きく立派になったリクが俺をぎゅっと抱き寄せたのに、帰ろうと言った彼が動き出さない。
震えているのは寒さのためだけ……じゃねえんだろうな。
せめて思い出になる物が残っていたらよかったのに。
しばらくリクの胸に頭を預けていたけど、その彼の身体の隙間から見える景色に、急に違和感を感じた。
色かな?微妙な素材の違いかな?
ぱっと見は普通の壁なんだけど、なんだろ。
「なあ、リク。ここはどんな部屋だったんだ?」
「婆さんが最期に寝てた部屋です」
抱きしめられたままリクの顔を見上げて、でも影になっていてリクがどんな顔をしているのかわからない。
身動いでリクの手から離れると、気になる壁の前に立った。何度か周辺を軽く叩いて、やっぱり『違う』と思う。
リクが怪訝そうに俺を後ろから覆った。
う~む。
気になる。
壁をいろいろと軽く押してみる。力を出すために、魔力を混ぜた時だった。
「サフィ様……!」
…………壁の一部が変形しだした。
取手?
「リク?」
肩越しにリクを窺うと、リクが恐る恐る取手を引く。
出てきたのは、古びた天鵞絨の小箱だ。
小箱を取り出したリクが箱の中身を確認すると、俺の肩に顔を埋めた。
「婆さんが言ってたんだ。この中に俺の本当の親と繋がる品が入ってるんだって。でも、俺にとって覚えてもいない親なんか別にどうでもよくてさ。なのに最後まで婆さんは、俺と親の繋がりを大切にしてくれてたんだな。売ればいい金になったんだろうに」
そしたら薬も買えたのに……
ポツリと呟いたリクの声は、くぐもって俺の肩に消えた。
そうか。
そうかよかった。
リクを大切にしてくれていた人がいたと知って。
生まれてからずっと、あんな風に1人だったわけではなかったと知って。
俺はリクの腕の中でなんとか向きをかえると、大きくなった背中に手を回した。
「リク?」
「もう少し、このままでいてください」
「ふふ」
「……サフィ様?」
「ん~お前、力が強くなったなと思って」
あんなにガリで弱っちかったのに。
ぎゅっと抱きしめ返すと、慌ててリクが身体を起こした。
「帰りましょう。サフィ様が風邪をひいてしまいますから」
「……お前もな」
離れたがらないリクと手を繋いで部屋まで帰ると、一緒に布団に潜り込む。
なんだか、森で一緒に過ごしてた時みたいだ。
「サフィ様、冷たくなってしまいましたね。すみません」
「別にいいぞ。責任持ってあっためてくれるんだろう?」
いつもみたいに抱きかかえられて寝るんだろうし。
ふわぁあ、ねみい。
そのまま寝てしまった俺は、だから気がつかなかった。
自分の身が危険に晒されつつあるということに。
「……本当にサフィ様は……できれば中からあたためて差し上げたいんですけどね」
なんていう、超長期計画を立てているワンコが隣にいるなんて、これっぽっちもな!
電気の様な灯りが皆無なわけではないが、ロウソクを灯すような僅かな範囲の灯りか、魔術を使った短期の灯りが主流な世界では、決められた飲食店以外はまだまだ気軽に活用などできないらしい。
田舎町に街灯なんかもあるわけはないし。
熟睡して、少し眠りが浅く浮いた時だった。
カサリと布の動く音がすると、リクが起き上がった気配がする。
寒くなってきたし、トイレかも?と思わなくはなかったけれど、普段こんな風に気配を消して移動する彼ではない。
リクが部屋を出た後で、俺ものっそりと起きあがった。
うーむ、逢引か?
え、お相手見てみたい。
ほー、リクにも春が来ちまうか?
デバガメ気分でそっと後をつければ、寂れた一軒家にリクが侵入していった。
誰も住んでいなさそうだ。
ここで誰かと待ち合わせでもしていたのならば、あとで少々指導してやらねばなるまい。
もっとロマンティックなシチュエーションをな!
あ、でも暗がりの方が都合がいいかもしれないこと考えてたかも?
な、なら近づきすぎてほにゃほにゃの現場に居合わせちまったら、お互いに気まずいことこの上ないな。
うん、帰るか。
ま、リクに危険がないならいいんだ。
寒いし、なんか羽織るもの持ってくればよかったぜと踵を返して家に帰ろうとした時だった。
「ここまで来て、声もかけずに帰るのですか?」
「リク」
家に入ったはずのリクが背後に立っていた。
めっっっっちゃ、怖いんですけどっ!
いつの間にそんなスキルを身につけたんだよ、お前えぇぇ!
「サフィ様が自分に興味を持ってくれたのだとしたら、とても嬉しいです」
俺も恐怖で目に涙が浮かんでいるが、リクもうるっとした目で俺を見つめている。
ワンコめ!
これは一緒に来て欲しいってことか。
そんな顔されたら、遠慮なくついて行っちまうけども。
「この家は?」
裏町ではない、けれども町外れの廃れた一軒家。
「俺がまだ10歳くらいの時に住んでた家です。それより小さい頃のことは覚えて無いんですよね」
「へえ」
今現在14歳の子供が、10歳より前のことを覚えてないって、普通か?
もっと小さい時のことなら分からなくもないけど。
足を踏み入れると、家の中はガランとして何も無かった。
「婆さんが死んで、ある日突然追い出されて。……何も残ってませんでしたね」
それは、おばあさんとの思い出になる物が、ということだろうか?
金目の物がという雰囲気ではない。
表情の変わらない、リクの横顔を見ていたら切なくなった。
「帰りましょうか」
時間にして、わずか10分ほどでリクが俺を振り返った。
わざわざ人目を盗んでやって来たんだろうに、本当にこのまま帰っていいのか?
「身体が冷えてしまいましたね」
大きく立派になったリクが俺をぎゅっと抱き寄せたのに、帰ろうと言った彼が動き出さない。
震えているのは寒さのためだけ……じゃねえんだろうな。
せめて思い出になる物が残っていたらよかったのに。
しばらくリクの胸に頭を預けていたけど、その彼の身体の隙間から見える景色に、急に違和感を感じた。
色かな?微妙な素材の違いかな?
ぱっと見は普通の壁なんだけど、なんだろ。
「なあ、リク。ここはどんな部屋だったんだ?」
「婆さんが最期に寝てた部屋です」
抱きしめられたままリクの顔を見上げて、でも影になっていてリクがどんな顔をしているのかわからない。
身動いでリクの手から離れると、気になる壁の前に立った。何度か周辺を軽く叩いて、やっぱり『違う』と思う。
リクが怪訝そうに俺を後ろから覆った。
う~む。
気になる。
壁をいろいろと軽く押してみる。力を出すために、魔力を混ぜた時だった。
「サフィ様……!」
…………壁の一部が変形しだした。
取手?
「リク?」
肩越しにリクを窺うと、リクが恐る恐る取手を引く。
出てきたのは、古びた天鵞絨の小箱だ。
小箱を取り出したリクが箱の中身を確認すると、俺の肩に顔を埋めた。
「婆さんが言ってたんだ。この中に俺の本当の親と繋がる品が入ってるんだって。でも、俺にとって覚えてもいない親なんか別にどうでもよくてさ。なのに最後まで婆さんは、俺と親の繋がりを大切にしてくれてたんだな。売ればいい金になったんだろうに」
そしたら薬も買えたのに……
ポツリと呟いたリクの声は、くぐもって俺の肩に消えた。
そうか。
そうかよかった。
リクを大切にしてくれていた人がいたと知って。
生まれてからずっと、あんな風に1人だったわけではなかったと知って。
俺はリクの腕の中でなんとか向きをかえると、大きくなった背中に手を回した。
「リク?」
「もう少し、このままでいてください」
「ふふ」
「……サフィ様?」
「ん~お前、力が強くなったなと思って」
あんなにガリで弱っちかったのに。
ぎゅっと抱きしめ返すと、慌ててリクが身体を起こした。
「帰りましょう。サフィ様が風邪をひいてしまいますから」
「……お前もな」
離れたがらないリクと手を繋いで部屋まで帰ると、一緒に布団に潜り込む。
なんだか、森で一緒に過ごしてた時みたいだ。
「サフィ様、冷たくなってしまいましたね。すみません」
「別にいいぞ。責任持ってあっためてくれるんだろう?」
いつもみたいに抱きかかえられて寝るんだろうし。
ふわぁあ、ねみい。
そのまま寝てしまった俺は、だから気がつかなかった。
自分の身が危険に晒されつつあるということに。
「……本当にサフィ様は……できれば中からあたためて差し上げたいんですけどね」
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