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30話 5年後の 母
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「なんでよ!!貴方は私の子供でしょう?!私の味方になるべきでしょう?!!」
貴女が僕の母親として、何かしてくださったことがあったでしょうか。
僕は喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
キレている人に反論して、まともな話し合いになるわけがない。
僕とオースティンの婚約が決まり、国をあげてお祝いムードの中、何度も呼び出されては説得という名の反対を受けている。
最初は真っ当な結婚もできないことを申し訳なく思い下手に出ていたわけだが、母と話をすればするほど、その言葉に僕に対する愛情を感じることができず、気が滅入るだけの場となった。
その内にはユジリスが僕の子ではないという確証も得たようで、父の裏切りを詰るようにもなった。
今回も僕を呼び出しユジリスを廃する手伝いを取り付けようとした母を跳ね除けた途端、癇癪を起こしたわけだ。
僕は、ただ怒鳴り散らかすその美しい女性を見つめた。
僕はずっと寂しかった。
けれど前世の記憶があったから、人でいられたのだ。
オースティンを害することもなく、ギリギリ、恨みの沼に足を突っ込まなくてよかった。
20そこそこで死んでしまったけど、前の両親の愛がそこにはあったから。
だから、僕という魂が、つまらない、意味のない魂だなんて思わずに済んだ。
どんなにこの世界が寂しくても、死の間際、手を握ってくれた、あの場所にあった愛が僕を支えてくれていた。
この世界ではずっと寂しかったけど、それでも途中からは僕の隣に僕を思ってくれる人がいてくれた。
だから僕は生きていてもいいと、信じられた。
でも、今の母はどうだろうか。
「母上、母上は誰かに愛される努力をしたことがありますか?誰かを、自分のことのように愛したことはありますか?……少なくとも僕は母上から愛された、記憶がありません」
今まで喋ることのなかった僕が口を開いたことで、急に何をいい出したのかと母がポカンと僕を見上げた。
「それが何よ」
僕の口から出た言葉が『愛』などという滑稽なワードだったからよくなかったのかもしれない。
「今の現状になった事柄について、母上が全て悪かったなんて思っておりません。夢見た結婚生活で遭遇した環境は……父上の行いは、その時の母上にとって裏切りに近かったでしょう」
自分だけを愛して欲しい。
それは、僕にも痛いほどわかる。
「けれど、父上の気持ちもわかるのです。魔力の暴走はどう理性で押さえても押さえられない、そういうものなのです」
オースティンでさえ、狂う。
「何が、わかる、ですってぇ!!あんなこと!あんな悍しい!アレは人ではなく獣よ!」
けれど僕にとっては、ただ叫び散らかす母上こそが人ではないものに見えてしまう。
「じゃあなぜ!なぜ壊れてもいいからと父上について行かなかったのです。あの時の父上には、母上を壊したくないという思いやりがきっとあった!……母上には、父上の苦しみに対する優しさはありましたか?」
知ろうと、しましたか?
僕はそれを知り、耐えられないと思ったからついて行くことを決めたのだ。
僕は壊れても後悔はしないけれど、僕を壊したらオースティンはきっと後悔する。だから遠慮なく愛をぶつけてもらうために、魔導師として腕を磨くのだ。
その努力のひと欠片でも、母上は父上に寄り添っただろうか?
「愛する妻を得てもなお、そこに留まれないビジジュールの男としての苦しみを理解できないのならば、手を出すべきではなかったのです、母上」
金を積み、他を蹴散らし、当時の父には母以外の選択肢はなかったと聞いている。
「ビジジュールの男としての苦しみ?」
「そうです。国の防衛のみに心血を注ぐ、ビジジュールはそういう家だからこそ、この国で存在する意味があるのです。それを支える覚悟がないのであれば、憧れは、恋慕は、そこで留めておくべきでした」
寂しいからと、労いもせず我が儘をぶつける。
それが許されるような世界ではないんだよ。
気を抜けば命に関わる。そんな世界で父上は生きているんだ。
今の僕をここまで構う父が、母に何も感じないことなどなかったと思うのだ。
きっと、大切にしたいと思う時もあったはずだ。
「相手に寄り添う気持ちを持たなければ、好かれる努力をしなければ、手に入れたと思ってもあっという間に指をすり抜けていく。……心とはそういうものです」
母が初めて見るモノのように僕を見上げている。
何もかも、恵まれたところにいた美しいお姫様。
それが母だ。
こんなことすら、助言してくれる人がいなかったんだね。
母上は、子供過ぎた。
憧れがそのまま、綺麗なままでいられる、そんな人と結ばれるべきだった。
そこに逞しさや同性から向けられる賛辞なんかはなくても、整った容姿と着飾った美しさを保つ、そんな家の人が相手なら、きっと母上は今もお姫様でいられただろう。
「ところで母上。母上の今も続く華やかな生活は、一体どなたが支えてくれているのでしょうね」
「え?」
「我が家からは、母上が最低限の生活を過ごすための必要経費と、使用人と屋敷を保つための支援しか無いはずです。確認してきましたが、母上の生家からはありませんでした」
「え?」
「名乗りもせず、母上に知られることもなく、それでも母上を支えてくれている。それは一体、どなたでしょう。僕は、それが本当の、本来の、愛の形だと思います」
そう言うと、僕は部屋を後にした。
母も、愛されるという幸せを知れるといい。
そう、思った。
貴女が僕の母親として、何かしてくださったことがあったでしょうか。
僕は喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
キレている人に反論して、まともな話し合いになるわけがない。
僕とオースティンの婚約が決まり、国をあげてお祝いムードの中、何度も呼び出されては説得という名の反対を受けている。
最初は真っ当な結婚もできないことを申し訳なく思い下手に出ていたわけだが、母と話をすればするほど、その言葉に僕に対する愛情を感じることができず、気が滅入るだけの場となった。
その内にはユジリスが僕の子ではないという確証も得たようで、父の裏切りを詰るようにもなった。
今回も僕を呼び出しユジリスを廃する手伝いを取り付けようとした母を跳ね除けた途端、癇癪を起こしたわけだ。
僕は、ただ怒鳴り散らかすその美しい女性を見つめた。
僕はずっと寂しかった。
けれど前世の記憶があったから、人でいられたのだ。
オースティンを害することもなく、ギリギリ、恨みの沼に足を突っ込まなくてよかった。
20そこそこで死んでしまったけど、前の両親の愛がそこにはあったから。
だから、僕という魂が、つまらない、意味のない魂だなんて思わずに済んだ。
どんなにこの世界が寂しくても、死の間際、手を握ってくれた、あの場所にあった愛が僕を支えてくれていた。
この世界ではずっと寂しかったけど、それでも途中からは僕の隣に僕を思ってくれる人がいてくれた。
だから僕は生きていてもいいと、信じられた。
でも、今の母はどうだろうか。
「母上、母上は誰かに愛される努力をしたことがありますか?誰かを、自分のことのように愛したことはありますか?……少なくとも僕は母上から愛された、記憶がありません」
今まで喋ることのなかった僕が口を開いたことで、急に何をいい出したのかと母がポカンと僕を見上げた。
「それが何よ」
僕の口から出た言葉が『愛』などという滑稽なワードだったからよくなかったのかもしれない。
「今の現状になった事柄について、母上が全て悪かったなんて思っておりません。夢見た結婚生活で遭遇した環境は……父上の行いは、その時の母上にとって裏切りに近かったでしょう」
自分だけを愛して欲しい。
それは、僕にも痛いほどわかる。
「けれど、父上の気持ちもわかるのです。魔力の暴走はどう理性で押さえても押さえられない、そういうものなのです」
オースティンでさえ、狂う。
「何が、わかる、ですってぇ!!あんなこと!あんな悍しい!アレは人ではなく獣よ!」
けれど僕にとっては、ただ叫び散らかす母上こそが人ではないものに見えてしまう。
「じゃあなぜ!なぜ壊れてもいいからと父上について行かなかったのです。あの時の父上には、母上を壊したくないという思いやりがきっとあった!……母上には、父上の苦しみに対する優しさはありましたか?」
知ろうと、しましたか?
僕はそれを知り、耐えられないと思ったからついて行くことを決めたのだ。
僕は壊れても後悔はしないけれど、僕を壊したらオースティンはきっと後悔する。だから遠慮なく愛をぶつけてもらうために、魔導師として腕を磨くのだ。
その努力のひと欠片でも、母上は父上に寄り添っただろうか?
「愛する妻を得てもなお、そこに留まれないビジジュールの男としての苦しみを理解できないのならば、手を出すべきではなかったのです、母上」
金を積み、他を蹴散らし、当時の父には母以外の選択肢はなかったと聞いている。
「ビジジュールの男としての苦しみ?」
「そうです。国の防衛のみに心血を注ぐ、ビジジュールはそういう家だからこそ、この国で存在する意味があるのです。それを支える覚悟がないのであれば、憧れは、恋慕は、そこで留めておくべきでした」
寂しいからと、労いもせず我が儘をぶつける。
それが許されるような世界ではないんだよ。
気を抜けば命に関わる。そんな世界で父上は生きているんだ。
今の僕をここまで構う父が、母に何も感じないことなどなかったと思うのだ。
きっと、大切にしたいと思う時もあったはずだ。
「相手に寄り添う気持ちを持たなければ、好かれる努力をしなければ、手に入れたと思ってもあっという間に指をすり抜けていく。……心とはそういうものです」
母が初めて見るモノのように僕を見上げている。
何もかも、恵まれたところにいた美しいお姫様。
それが母だ。
こんなことすら、助言してくれる人がいなかったんだね。
母上は、子供過ぎた。
憧れがそのまま、綺麗なままでいられる、そんな人と結ばれるべきだった。
そこに逞しさや同性から向けられる賛辞なんかはなくても、整った容姿と着飾った美しさを保つ、そんな家の人が相手なら、きっと母上は今もお姫様でいられただろう。
「ところで母上。母上の今も続く華やかな生活は、一体どなたが支えてくれているのでしょうね」
「え?」
「我が家からは、母上が最低限の生活を過ごすための必要経費と、使用人と屋敷を保つための支援しか無いはずです。確認してきましたが、母上の生家からはありませんでした」
「え?」
「名乗りもせず、母上に知られることもなく、それでも母上を支えてくれている。それは一体、どなたでしょう。僕は、それが本当の、本来の、愛の形だと思います」
そう言うと、僕は部屋を後にした。
母も、愛されるという幸せを知れるといい。
そう、思った。
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