ゲームの世界はどこいった?

水場奨

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32話 7年後の 僕の父上

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僕は今年、7歳になる。

この間父上に『ユジリスの誕生日には、神様からお前の驚くような祝い物プレゼントが届くと思うよ』と言われた。
あまり遠回しに言葉を伝えることを得意としない父上の、その含みのある言葉の意味は、コレだったのかな。


「ユジリス、紹介しよう。まだ先の話になるが、俺と共に生涯を歩んでくれることになった、マリアだ。お前が許してくれれば、お前の、ユジリスの……お婆様になるな」
「ユジリス様、マリアです。……こんなに利発そうな御孫様に会えて、嬉しい、ですわ」

なんで、この人は泣いているんだろう。
控えめにゆっくりと前に出てきて僕を撫でるその手が、なんて優しいんだろう。
僕と同じ、緑の瞳が僕を柔らかく見つめていた。

僕はその様子を見て穏やかに笑う父上を見上げた。

僕は父上の本当の子供ではない。
お爺様の前の奥方様から、そう言われたことがある。

父上によく似たその人は、父上達の婚姻を見届けるとお爺様を5往復ビンタした上で『シーバス様も、もう自由になるといいですわ!』とか言い放って颯爽と去って行った。
僕にも綺麗な笑顔で『今まで悪かったわね』って言ってくれたけど、その雰囲気があまりにも怖かったから今でもはっきりと覚えている。

後に残されたお爺様は放心していろんな涙を流していた。
僕が忘れられないくらい怖かったんだから、お爺様も怖かったに違いない。

美しい人が怒ると怖さが半端ないんだなって。
だからいつもオースティンも父上には誠心誠意謝罪をするんだと思う。
でもほぼほぼ毎日、何をそんなに謝ることがあるんだろうか。
悪いことをした時はきちんと反省して、2度と繰り返さないようにしないといけないと思う。

オースティンはダメな大人だ。
強くてカッコいいけどさ。

「まあ、その、マリアも俺のことを嫌になることもあるかもしれないが」
おそらく、お爺様はトゥエランジェ様のことがトラウマになっているのだと思う。

「何をおっしゃっているのですか。私は全てを存じ上げた上で、それでもシーバス様を愛しています。国を丸っと守っているシーバス様を、私1人で支えられるはずもありません」
そう強くお爺様に宣言したマリア様は、なぜかそのまま後ろを向き、部下さん達の前で膝を軽く折った。

「どうか一緒に、シーバス様を支えるお手伝いを、よろしくお願いします」
部下さん達が感極まって泣いている。
うん、トゥエランジェ様の時にはなかった感じだと思う。

やり取りの意味はよくわからないけど、お爺様がめちゃくちゃ照れていて、みんな仲良くて楽しそうでいいなと思った。




「ユジリス様はシフォンケーキがお好きだと伺って、今日はその、作ってきましたの。食べていただけるかしら」

「うわあ!すごいですね!」
マリア様が持ってきた籠を開けると、そこには柔らかそうな丸いケーキが入っていた。
もう1つの籠にはたくさんの生クリームまであった。

ビジジュール領は果物以外の甘いものが少ない。
砂糖は高いから、甘味は果物からとるのだ。
だからこんな贅沢なケーキを、本当に僕が食べてもいいのかな。

お皿に乗せられた生クリームたっぷりのケーキ。
口に入れたらふわっと溶けた。
「おっいひ~、でっふ!」
あ、口の中にモノが入ってるのに思わず喋っちゃった!

「ふふふ、お口に合ってよかったわ」
マリア様はマナー違反したのに、怒らないで笑ってくれる人なんだな。
僕はすっごく幸せになった。

「お婆様、ありがとう!!」
今までだって父上達は優しいし、不幸だと思ったことなんかない。
でも、もしかしたら、こういう人をお母様って言うんじゃないのかな。
僕にはお母様がいないから、それだけがちょっと寂しかった。

「マリア様はまだ若いから、お婆様って感じじゃないですよね。何か別の呼び方がいいんじゃないかなあ。うーん、ユジリス、マリア様と名前で呼ぶかい?」
オースティンを呼ぶ時みたいに、慣れたら呼び捨てで呼べばいい。
父上はそう言ってくれたけど。

「あ、あの、もしよかったら、家にいる時だけ、お母様って呼んでもいいですか?外ではきちんとマリア様とお呼びしますから!」

「!!!」

「え?あの?」
何か悪いことを言ってしまったのだろうか?

ハンカチで目頭を押さえるマリア様を、お爺様がそっと抱きしめた。
父上が『よくやった』って言って褒めてくれる時みたいに、僕の頭を強く撫でた。

「はい、はい、ユジリス様。そう、お呼びください」

マリア様はトゥエランジェ様や父上ナローエに比べたら、そんなに美しい人ではない。
けれど、こんなに美しく幸せそうに笑うマリア様は、誰よりも綺麗だと思ったんだ。

「お爺様は、こんなに美しい人と一緒になれて、世界一の幸せ者ですね」
なんて言葉が、心から溢れて飛び出た。

「いや、ユジリス、あー、マリアがお母様なら、俺はお父様だな!」

「それは別にいいです」
「なんで!」

「あははははは!シーバス様は残念でしたね。あ、それからユジリス、1つ訂正しておく。世界一の幸せ者は俺だからな!」

あ、うん。
オースティンのことはどうでもいいかな。

「父上」
「ユジリス、なんだい?」

「父上、ありがとうございました。僕が驚く誕生日のお祝い物は……お母様だったんですね」
ケーキももちろん、すっごく嬉しかったけど。
みんながお祝いしてくれること自体が、ものすごく嬉しいことなんだけど。

「……喜んでくれたかい?」
「はいっ!父上、大好きです!」
なんで父上は僕の欲しいものがわかるんだろう。

父上にぎゅーっとしてもらって。
お母様にもぎゅーっとしてもらって。

今年の誕生日のことは、一生忘れないと思う。


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