ゲームの世界はどこいった?

水場奨

文字の大きさ
42 / 55
番外編

8話 帝国と皇族

「先生、先生とオースティン様は同じ部屋がいいかと思いまして、1番景色のいい部屋をご用意しました」
「ありがとうございます殿下。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」
「迷惑だなんて!先生は火焔鳥を孵化してくださった神様みたいな方なんですから」
いやいや待て待て。
今の一言でシチストの後ろにいるヤツらが『シチスト様から神だと呼ばれているぞ』みたいなおかしな空気になったぞ。

あー、つまり僕らは帝国にいる間、シチスト殿下の宮でお世話になることになったのだ。
孵化の方法を伝授するまで短くない期間滞在するだろうと、留学先で僕と気安い関係を作っていたシチストが部屋を用意してくれていたらしい。
正直助かったよ。困ったことがあった時に、遠慮なく相談しやすいからね。

「あにうえ、おかえりなさい」
シチストと雑談をしていると、ドアのところから小さな金髪頭が覗いていた。
5、6歳といったところかな、かわいい。
「ただいま、弟皇子みこ
ん?
「シチスト殿下の弟君ですか?」
「そうなのです」
なんというか、顔はそっくりだけど違和感が半端ない。
金髪のことは触れてもいい案件なのか?
まず帝国に金髪っていうのが浮いている気がする。
先祖還りとかなのかな?

「弟皇子はまだ洗礼前なので、このように髪色が明るいのですよ。僕も昔はこんな色でした」
「え、洗礼すると髪色が変わるのですか?」
「はい。皇族は皆黒髪になります」
「へぇ」
国が変わると常識も変わるんだなあ。
駆け寄ってきた弟皇子をシチストが膝に乗せると、少し話したあと彼の耳を両手で塞いだ。
シチストの膝に乗れて嬉しそうな弟皇子がかわいい。

「黒髪に変わらない者は処刑されるので、名を貰えないまま産まれなかったことにされてしまいます」
「え?!」
そのあとシチストが弟皇子からパッと手を離してしまったので、弟皇子の手前、聞き返すこともできない。
そんな重要案件、僕らに話してもいいのか?
そして弟皇子は彼を探しにきた乳母らしき人に見つかって、あっという間にいなくなってしまった。
シチストにおかえりを言いたかっただけらしい。
うん、かわいい。

「先生も不思議に思いませんでしたか?僕は皇帝陛下ちちうえの7番目の皇子なのに、この宮の名前が八宮舎って」
つまり8番目の奥方さまの子ってことだもんね。
「帝国では男児を産んだ順にやっと妃として数に入れてもらえるんですよ」
「それは聞いたことがあります」
皇帝陛下の皇子を産めなければどれほど身分が高かろうが女官扱いとなるんだったかな。専用の住まいが用意されるのは男児を産んでからなのだとか。
産まれたのが女児では妃となれないなんて、ぐぬぬとメロディちゃんが憤慨していた。

「なのに僕は7番目の皇子なんです」
皇子を産まなければ妃になれないのに、8番目の妃様の子が7番目の皇子。
普通に考えれば妃の順番が皇子の数より少なくなることはあっても、多くなることなどあり得ない。

「つまり妃のうちの少なくとも・・・・・1人はその皇子と共に処刑されているんです。洗礼は慶事だけではなく恐ろしい行事なのですよ。まあ宮が残っているということは、処刑された皇子の兄弟は王族として生きているってことなんですけどね」
ということは、妃と全ての皇子や皇女が処分されていた場合には部屋も繰り上がるってことなのか。
帝国こわっ。
てか、そういう話は聞いてもいいのか?

「先生、僕がこんな話をしたのは、先生は知っていた方がいいと思うからなんです。特に秘密ってわけでもないですし」
なんで?
「はぁ、やっぱり気づいてませんでしたよねぇ。先生のおおらかなところは大変好ましいと思っているのですが、とても心配です」
「シチスト殿下、ナローエは何を言っても大丈夫だとしか思わないのですよ」
なんか2人で納得してるけど、そこまで僕も頭が悪いわけじゃないから話してくれたら理解するよ、失礼な。

「先生はご自分がかなり強いと自負していらして、オースティン殿を信頼してるからこそ危機感がないわけですが」
「あ、うん」
それはホントそう。
危機感がなさ過ぎるってよく言われるな。
「僕と先生が手合わせした場合、先生に勝ち目はありません」
「へぁ?」
「オースティン殿でもです」
えー……、それは無くない?

「ナローエ、実際の戦いとなればいろいろ手を尽くすから勝ち目が無いわけでもないが、殿下の言う通り正面からぶつかれば俺達は殿下に敵わないらしい。これは騎士であれば誰もが知っている噂話・・だ」
「そ、そうなの?」
しかも噂話なの?
「はい。そもそも僕らには物理的な攻撃が効きません。これほど体格のできていない僕でも、戦いの場に立てば一般兵では傷ひとつつけられないのです」
「それは……無敵ですね」
一見弱そうなシチスト無双とか……カッコいい。
さすがは帝国の皇族様だったよ。
そりゃ、周りが神聖視もするよね。

「はぁ、やっぱりわかってないですね。先生、僕や皇太子殿下、あとはダンスリー兄上は大丈夫かと思いますが、それ以外の兄弟は先生をどうにでもできてしまうのです。火焔鳥を孵化できる先生は危険の中に身を置いていると知っていてください」
な、なるほど。
帝国の後継者争いのカギを持った人物ぼくが、野心だらけの狼の巣に放り込まれてる感じなのか。
で、その中に物理攻撃を無効化する相手てきが何人もいる、と。

う、ど、どうしよう。
変な話、僕は僕とオースティンさえ居ればなんとでもなると思っていた。
ゲームでは悪役だったのだから大層な望みを持つことはやめた方がいいだろうけど、僕の邪魔をできる人なんていないと無意識に考えていたと気がついた。
なんて思い上がってたんだ。
だって物理攻撃が効かない人間が世の中にいるなんて思わないじゃないか。

「ちなみに本気になった火焔鳥と龍と、どちらが強いのかなんて分からないわけですから、精霊の力をアテにして戦略を練るのもお勧めしません」
うっ!
火焔鳥と龍が戦って、火焔鳥が勝ってるんだよな。
ゲームの中では、だけど。
というか人間の都合で精霊同士を戦わせるなんて、できればしたくない。

「はぁ、ご自身に自信があるということが、こんなにも無防備な人間を作ってしまうんですね」
シチストの残念な子を見る目が僕に向けられている。
いやまあ、前世の影響もかなり大きいとは思うよ。その上、今世も貴族間の揉め事やお家騒動に巻き込まれることが少ない立ち位置にいる僕だ。
命の危険なんて病弱だったという理由では有ったけども、僕の身分などが理由では感じたことがない。
魔物狩りして国に貢献していればいいだけの存在だからね。

はー、10歳以上も年下のシチストに呆れられているよ。
僕の危機管理能力ダメダメだったって、ホント。
「あの、充分に気をつけたいと思います、はい」
とほほ。





「実際には兵糧攻めや毒もあるし、直接の火には強くてもまるでお湯で煮るような温度攻めや極寒の中に放り出すとかならば勝ち目はあるんだ。まあ、火焔鳥がそれを許さないとは言われているけどな」

シチストが部屋から下がると、オースティンが僕の知らない帝国の話をしはじめた。
本来なら先に調べてから来るべきだったと思うけど、火焔鳥のことだけでも充分に内政干渉だと思っていた僕はそこを怠ってしまったのだ。
これ以上帝国に影響を与えてはいけないと考えるのならば、情報が耳に入らないようにするのではなく、よくよく知って上手く立ち回らなければならなかったんだな……大反省だ。

なんていうか、父上も僕もセイレン国が安定していれば他はどうでもいいって感じになっちゃうからなぁ。
面倒なことや難しいことは王太子殿下やハゥビッセ達に任せておけばいいってさ。
まあそれがビジジュールの呪いみたいな祝福だから仕方ない。
武力に秀でている僕らの一族が、頭脳まで持ったら転覆を目指す可能性が出てしまう。それを精霊は許さないのだろう。

僕についてはゲーム世界の影響を抜けた辺り、つまりオースティンと籍を入れた辺りからその感じが顕著になってきていて、ようやくこの世界から受け入れられたと安心すらしていたのだ。
だからその事に対してはむしろ喜びがあって、自分で考えなくてよいことに疑問を持つことはなかった。
それでいいわけがないよね。自力で考えなければならないこともあるに決まっている。


シチストから聞いた話は別に秘密というわけでもないらしいし、斬っても刺しても死なない軍人がいるって広く知られていたら、帝国に喧嘩を売ろうなんて考えなくなるもんな。
帝国が秘密にする必要がなかった。
調べればわかったことで、そうすればそれなりの対応を用意できただろうに後手後手になってしまったのは反省すべきだろう。

「皇太子殿下は問題ないとして、第2皇子ツァツルマ殿下は2、3年前の後継者争いが起きた際に処刑されたという噂だし」
「噂?」
そういうのってちゃんと公布されたりしないんだっけ?
「あー……、実際にはその姿を見たって話もあって、その辺りはよくわからなかった。皇族の処刑は火焔鳥の領分らしいんだ」
「ふ、ふーん」
幽霊だったらこわっ。
後継者争いで負けて処刑なら、怨みつらみ溜まってて化けて出るとか……すっごくありそう。

第3皇子ダンスリー殿下は常に辺境辺りの軍に身を置いていて皇城には近づかないと聞くし、危険なのはその下からか。第4皇子フォルムルト殿下は火焔鳥の孵化を巡って関係者に対して非道な行為があったとかで、今は身の危険を感じて皇城内にいないらしいが」
「そ、そっか。思ってた以上に火焔鳥を取り巻く環境って血生臭いんだね、ははは」
んでもって、一筋縄ではいかない人達が相手なのか……。
あれ?僕、大丈夫か?

「はぁ、やっとか。だから王太子殿下が何度も気をつけろって言ってたんだぞ」
あー、うー、本当にごめんってば。
ようやくシヨング殿下の言葉が沁みてきた僕だった。







感想 13

あなたにおすすめの小説

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

りんご成金のご令息

けい
BL
 ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。  それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。 他サイトにも投稿しています。

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

【完結】半端なあやかしの探しもの

雫川サラ
BL
人の子として生まれながら人ならざる「力」に目覚めてしまった少年・蘇芳。生きる場所を失い、絶望の淵に一度は立った蘇芳だが、ひとりのあやかしとの鮮烈な出会いによって次第に内側から変わり始める。 出会いも最悪なら態度も最悪なそのあやかしにどうしようもなく惹かれる理由は、果たして本当に血の本能によるものだけなのか? 後ろ向きな考え方しかできなかった少年が突然自分に降りかかった宿命にぶつかり、愛することを知り、生きようとする理由をその手で掴むまでのお話。 本作で第11回BL小説大賞に参加しております。投票やご感想大変嬉しいです。 ※オメガバースの世界観を下敷きとした、前近代(近世)日本に似た異世界のお話です。独自設定はほんの味付け程度ですが1話目に作中に登場する用語の説明があります ※R描写あり回には*をつけます

王子殿下が恋した人は誰ですか

月齢
BL
イルギアス王国のリーリウス王子は、老若男女を虜にする無敵のイケメン。誰もが彼に夢中になるが、自由気ままな情事を楽しむ彼は、結婚適齢期に至るも本気で恋をしたことがなかった。 ――仮装舞踏会の夜、運命の出会いをするまでは。 「私の結婚相手は、彼しかいない」 一夜の情事ののち消えたその人を、リーリウスは捜す。 仮面を付けていたから顔もわからず、手がかりは「抱けばわかる、それのみ」というトンデモ案件だが、親友たちに協力を頼むと(一部強制すると)、優秀な心の友たちは候補者を五人に絞り込んでくれた。そこにリーリウスが求める人はいるのだろうか。 「当たりが出るまで、抱いてみる」 優雅な笑顔でとんでもないことをヤらかす王子の、彼なりに真剣な花嫁さがし。 ※性モラルのゆるい世界観。主人公は複数人とあれこれヤりますので、苦手な方はご遠慮ください。何でもありの大人の童話とご理解いただける方向け。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

そのモブは、私の愛しい唯一無二

ミクリ21
BL
アズエル・ミスティアはある日、前世の記憶を思い出した。 所謂、BLゲームのモブに転生していたのだ。 しかし、アズエルにはおかしなことに思い出した記憶が一つだけではなかった。 最初はモブだと信じきっていたのに、副会長セス・フェリクスに迫られ続けるアズエルの話。