アニンバイツ

飲杉田楽

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過去の章~赤い雨季~

15.始まりは悪夢

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異形徒…それは 人が人でなくして
人を超越した存在。

その姿は醜く、漆黒を司る血管が
灰色と紫色に染まりゆく皮膚
を伝ってドクドクと波打っている。
超越という表現より退化という表現の方が
確立している気もするが、
それは見た目の問題であり、
中身、すなわち肉体的な機能は
完全に 人間の運動能力を
上回っており化け物じみていることは
確かである。


元は人間として機能し、
紡がれた文明の中、子孫繁栄という名目
否、使命のもと、生存を許されていた種族であり、成れの果てが この異形なのだというのだからなんとも皮肉めいた話である。と
何十年か前に他人事のようにとある専門家が
テレビの向こう側でそれはそれは 
得意になって喋っていたが、 その専門家も
今となってはその他人事として捉えていた
脅威に足を掬われ、今頃、夜間問わず
徘徊するこの異形達の
仲間入りをしている頃だろう。

何百年何千年という時を超えて 
文明開化を幾度となく成功させて来た
人種の滅亡の様は 異様なまでに呆気なく
煙草から流れ出る噴煙の如く
風に揺られるだけの 意味のないものとして
変わり果てた姿で徘徊という使命を背負い
死して尚、 その大地と向き合っているかのようにすら感じられる

が、
しかし、
彼ら、異形に感情というものはない。
完全に喪失しているといえば
それは紛れもなく
嘘になってしまうわけなのだが、
その脈絡を持つことをやめた脳細胞達は
人間が1番大切とされる欲や感情の殆どを
停止してしまっていた。
その結果、ウイルスの作用でもある
殺人欲と食欲のみが 活性化。
動く屍と成り果てた者達は
体温を保有し呼吸をし続ける者のみを
狙う獰猛なハンターとして
この崩壊の一途をたどる世界に
君臨してしまっていた。

本来ならば、人間としての
役目を終えたものは
業火に焼かれ、天に召されて逝くものなのだが 異形徒達を弔うこと自体が決して安易ではなく、 この世界での当たり前や常識、
秩序、法律はすでに黒板の下に蔓延っては
強くもない風に無駄に舞っては人々に
咳を患わせるチョークの粉 と同等な位、
無意味なものとなっていた。

骨を軋ませ、
腐りきったはずの筋肉が
メキメキと まるで腐敗した木々が
折れて行くかのような音を立てて 
無理矢理稼働していく。

当に朽ちても可笑しくはないその五体は
今も血液とは形容し難い生命のみを繋ぐ
循環液としてどす黒く染まりながらも機能しており、その様はまるで 
怪物や化け物といった人として判別不可能な域に達した生命体であった。
一度死亡してからもう一度息を吹き返した
その生ける屍達は枯渇した体を潤すためか
死亡して間もない人間の血肉を求める。

無論、
生存している人間は
至極真っ当だと言わんばかりに
視覚に捉え次第、殺し喰らいに行く。
死後硬直寸前の四肢を無理を強要して
稼働させるわけなのだから途中で
骨が折れるのは当然なのだが、
異形徒達はそれをもろともせず、
自分の2つの欲を満たすためだけに
奔走する。

そして、この恐ろしい災厄の
発端となったのが、
人の中に眠る本当の力を 誘発させる物質
インバイトである。

太陽国で発見され、
世界に公表してからというもの
戦争にそのインバイトが使われるように
なり、
間も無くして、
ウイルスが 蔓延した。

そのウイルスは勿論、 インバイトを
摂取しすぎたものが暴走し異形と化して
蔓延したものである。
それがゆえに そのウイルスにかかったものは
有害な誘発作用のある インバイトに
侵食され、まるで血肉を食らう屍のように
徘徊するゾンビのように人々を襲っては食べ襲っては食べてはを繰り返す。
無論、その病、つまりはそのウイルスは
伝染する。   

このウイルスの 特効薬は見つかっておらず、
未だ、 未知なる恐怖に
人々は怯え縮こまる他なかった。
これは
そんな世界の運命に抗いながら
生きる者達の物語。
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