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三話 染爾
しおりを挟む物心付いたときからナイフを握っていた。
仲間と呼べるものは居なかった。
仲間だと思っていなかった訳ではない。ただ戦死した仲間を見たとき、
特に何も思わなかった。少し残念に思う程度。
帰り道に立ち並ぶ商店が閉店した時に
思う物憂げさくらいしか感じることが出来なかった。
結果的にそれは仲間ではない。
仕事上関係を紡いだ人間でしかなかった。
だからと言って精神的に欠落していた訳ではない。
世話をしてくれた近所のおばちゃんが流れ弾で死んだ時は泣いたし、
よくおはぎをくれたお爺さんが地雷の餌食になったと聞いた時は一日中鬱になった。
悲しさを感じる余裕もあるし人を殺す事を躊躇もする。
だが仕事上、
金銭が絡む場合において標的を殺害することには特に躊躇はなかった。
壊れた機械を整備する整備士のように世の中に解れがあれば
取り除かなくてはならない。
間違った正義と判っていても、
生きるためには仕方ないことだと理解していたし、幼少期から『死にたくない』という一心でナイフを振るって来たのだから自分の命ほど可愛いものはなかった。
だからこそ必至に標的の首に刃を向けて来た。刃なんて表現は格好が良過ぎるのかもしれない。
ただひたすらに刃物を
ぶつけているに等しい。
蚊を潰すように。
切るなんて表現は少し違和感を覚える。
皮膚を裂いて骨を断つこの行為はただひたすらに日頃の鬱憤を標的と言う丁度いいサンドバックにぶつけてるに過ぎなかったからだ。
そんな中で名前なんてものはどうでもよかった。
佐藤、田中、フラン、バリー、ソル、キム、ンフ、タール、ホワン…
死んだ人間の名前を引き継いできたからこそ本当の自分の名前なんてとうの昔に忘れた。もしかすると一番新しいホワンという名が本来名付けられた名前なのかもしれないし、それまで通り過ぎてきた名前の中に正解があったのかもしれない。
親は何人もいた。
派遣される度に本日の父親と母親の名前を覚えた。その中に本当の両親がいたのかもしれないがそんなこと考えるだけ時間の無駄だ。
名前はそれほど無意味で執着も無い。
どうせまた変わる。
そんな風に思った…ゼンジ…染爾。
はじめて苗字と名前が揃った。
少し特別に感じられた。
なんとなくだが、この名前が続くといいなと思ってしまった。
少年は自分が否定した
名前を呟き続けた。
もう忘れないように…
そんな大層な心がけではない。
なんとなく名前が変わることが
面倒になったからだろう。
『おかの…ぜんじ』
少年は鋭い眼光をすこし弱めた。
説明はできない
光のようなものを感じたからだ。
長い廊下は踏みしめる度に
砂のザラザラとした音が響く。
幾度となく踏みしめたコンクリート製の床と幾度となく聴いてきた砂埃が靴底を滑る音…
しかしそれは、
今までより新鮮に感じた。
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