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Stage3 ヤミ先輩は病みます!
しおりを挟む「トゥルースのみなさん!よろしくお願いしまーす」
緊張知らずで控え室のドアを開けたのはまだ若気な女性だった。
「はーい」
みんな揃って返事をする。
その日も公演は始まった。歓迎会から2日が経ったが友佳先輩は何も言ってこない。もしかしたら、罰ゲームなど忘れたのかもしれない。いや、元々揶揄っただけかもしれない。
そうして、3日目のライブが始まる。
ファンの歓声を浴びるように聞き一曲目がスタート。
たて続けに汗が飛び散る激しい曲を5曲歌い観客も沸いていく。歌い終われば間も無くトークコーナーに突入した。
息切れを知らない丸岡先輩がメンバーの呼吸が整うまでを繋ぐ。
とてつもなく他愛ない話をしていく、先輩がボケると自然に周りの人がツッコミを入れていく。
一見して自然にここまでを流したが、丸岡先輩がメンバーの呼吸の整い加減を横目に見てボケ出すタイミングを見計らっていた。
俺にはこんな舞台でそれをできない。先輩がリーダーである所以はそこだろう。
「私が青信号で横断歩道を渡ってたんですよ。そうしたら、猛スピードの車に吹っ飛ばされまして宙を三回転半してここに居るんですよ。」
先輩がエピソードトークを並べる。
そこにすかさずツッコむ
「ってそれ今死んでるじゃん!」
「そうです!私が世にも有名なゾンビです!」
この上なく笑えないほどつまらないボケとツッコミだが、彼女らの必死さとコミカルな動作に観客も笑いに包まれている。
「そういえば、アユとちーちゃん!ステージデビューしたけどどんなよ!」
あのセクハラ平野先輩が何故か胸を揉むモーションをつけて聞いてきた。
アユと一瞬アイコンタクトを取ると「アユが言う」と言ってるような目線を送ってきたのでおれも「よし行け!」と目線を送った。
俺とアユは特に練習に力を入れてきた為お互いのことを感じ取れるまでになっている。
「そうですねぇ、平野先輩がバイセクシュアルでセクハラ大好き女性だってことが意外でしたね」
「そういえば、知らなかったもんねぇ」
「はい。もうバイを公言しちゃえばいいじゃないですか」
突然の提案に平野先輩がピクリと身を震わせた。ただ、口を開いたのはいつも受けの黒髪ぱっつん先輩だった。
「いやー、平野ねぇなりたかったキャラをまだ目指してるんだよ。だから他のキャラは受け付けないんだよねぇ」
アイドルの間でもキャラの争奪戦は日常茶飯事らしい。キャラに応じてファンの集まり具合も変わる。キャラを180度変えたらセンターになったなんてのもあったとか。だから政略的にキャラは選ぶ。
ただ自分の意図とは違うキャラが成立することも普通に起こる。
「それで先輩はどんなキャラを目指しているんですか?」
俺も話を盛り上げるために話に加わる。
「それはですね、今のヤミちゃんみたいに大人しく慎ましい感じですね」
「あー、取られてるね。そりゃ」
そう言ってヤミ先輩に視線が集まる。
ヤミ先輩は闇に潜んでそう感じに大人しい。だからと言って存在感がないわけではなかった。
「そそそ、そう言えばさぁ」
「え?ここで話変える?」
そんな感じでトークが続いていった。
トークコーナーの終了時間がくれば再び曲が流れ始めてライブの再開だった。ただ、そこでハプニングが起きた。
先ほどのヤミ先輩が飲み物をステージで倒して水をステージにぶちまけた。
ステージというのはもともと滑りやすい、場合によってはアーティストの靴裏に滑り止めを付けることもあるほどだ。
そんな所に、水が平たく塗られる程でもあれば転倒の危険性が非常に高い。
曲の最中のハプニングであったにも関わらず、先輩たちは怯むことはなかった。怯んでいたのは俺とヤミ先輩だけだった。
先輩たちはアイコンタクトで意思疎通、濡れた場所を避けるように配置につき、何事もなかったかのように一曲を歌い続ける。
先輩たちの足元には、水筒の水たまりと同様に先輩たちの汗が足場を不安定にしていた。
そんな中でも先輩たちはヤミの失敗は何ともないと伝えるように踊っていた。
ハプニングがハプニングでなくなり本日もライブが終了した。
先輩たちはシャワーを浴びに行った、ヤミ先輩を除いて。ヤミ先輩は控え室で縮こまって落ち込んでいた。
「せ、先輩?大丈夫ですよ。何の問題もないですから」
俺は励まそうと声をかけた。しかしそれが間違いだった。先輩のアレに触れてしまったのだ。
「そんな事ないわ、水ぶちまけたとかあり得ない、観客のみんなの視線も痛い、なんでみんな気を使うの、もういいよ、私はダメだ私はダメだ。辞めようかなアイドル。もう楽しちゃおうかな。私を必要としている人なんていないもんね。私の代役なら平野でいいよねーーーー」
俺が触れたのは先輩の悪癖の部分、ヤミ先輩の『病み』だった。
もう手がつけられない、一度開いた口から言葉が止まらない。堰を切った彼女の病みは俺の脳に雪崩れ込んでくる。助けてほしい、シンプルにそう思った。
その時は幸いタイミングがよく先輩たちがシャワーから帰ってきて空気とヤミ先輩が普段の様子に戻った。
そして、重い足どりでシャワーを浴びに行ってしまった。
「ねぇ、もしかしてヤミが病んでた?」
声をかけてきたのは丸岡先輩だった。
「はい、病んでるって感じでしたね」
返答を聞くなり面倒くさそうに頭をぽりぽりと搔いた。
「やっぱりな、ああいう時は無視していいから」
「そうですか」
分かったと言っても、どうにかしてあげたいなって思う。俺の心の中でもどかしさが暴れている。
今はもうステージに立てない姉の願いを叶えるためには誰1人として欠けることは許されない。その為にも俺はヤミ先輩を助けたい。その思いだけが募り、ドアをただ眺めていた。
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