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1幕 白峰高校殺人事件
3話 癖
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俺が目覚めたのは気を失ってから2時間後だった。
目を開けた先に見えたのは石膏ボードの貼られている天井。視界を縁取るようにカーテンが掛けられており、すぐにここが何処かの医務室であるとわかった。
「すいませんでしたぁ!」
まだ、再起動されていない頭を破るようにデカイ声が響く。
その声の主が奈津子捜査官であることはすぐに分かる。申し訳なさでよりしっかりと謝ってくれたのはありがたい。が、なにより声がデカすぎて頭が痛い。
「すまんなぁ、名探偵。こいつはまだ日が浅くてな」
奈津子捜査官をフォローするように松ぼっくり頭の松原さんが声量を抑えて優しい声で言う。
「はは、まあ、僕は大丈夫ですよ。それより、捜査の方はどうなりましたか」
「それなんだが、鑑識の方も終わり新たな進展もないから、俺ら3人主体で解決することになった。すまんな、名探偵」
「っていま、3人って言いませんでした?!」
さっきから一度も声量を変えない奈津子捜査官の声が響く。
「捜査を任されたのは、先輩とこの痴漢探偵でしょ? なんで私が入ってるの」
「そりゃ、決まってんだろ。お前は場数を踏まないと一向に良くない。俺の判断だ。あと、失礼だから探偵に『痴漢』をつけるのやめろ」
そう言い、奈津子捜査官の額にピシャリと少し優しめにチョップが入る。
その後、しばしの沈黙が流れた。
このままだと気まずいので話しかける。
「えーと、まず僕のことは日向と呼んでもらって構いませんので」
何言ってんだろ。
「そうか、なら俺らの事も名前で呼んでもらって構わんぞ」
ぽんっと松原捜査官が奈津子捜査官の頭に手を置く。
「こいつは、渡辺奈津子。俺は松原二郎だ。日向の評判は良く聞いている。宜しくな、名探偵」
「奈津子さんに松原さんですね。宜しくお願いします」
そう言って軽くおじぎする。俺はおじぎが癖であり、最近はコンビニの店員の挨拶におじぎで答えたほどだ。
いいような、恥ずかしいような、そのくらい癖になっているのだ。
「そういえば、今回の事件についてお聞きしてもいいですか?まだ、全容が見えないので分かる程度にお願いします」
「そうだったな、奈津子たのむぞ」
奈津子さんは頷き、タブレットの画面を操作してから手渡してくる。
「ええ、被害者は平幕勇。16歳の高校2年男子生徒。推定時刻は午後2時ごろ、後頭部を強く殴られ死亡。
傷口から犯行に使われたと思われる凶器が鉄パイプで、未だに見つかっていません。
あとは、来られた時に他の警察官より伝えた通りです」
「凶器は鉄パイプ、撲殺か。犯行の瞬間が捕らえられた映像とかは見つかってないんですね」
「それが、ですね。公演中撮影は禁止されており、演劇部が研究の為に録画していた動画が何者かに盗まれていました。事件当時その場に裏方の学生さんがいましたが、こちらも気絶させられて未だに目が覚めていません。命に別状は無いようです」
「なるほど、盗んだということはその映像に証拠があると言うことですか。」
「そう考えるのが妥当ですね」
「ちなみに動画はデータとしてのタイプですか?それとも、カセットテープの様なものですか」
「盗まれていたのは、カメラの差し込まれていたメモリーカードだけだと聞いています」
「それはマズイですよね」
「ああ、マズイ」
「何がマズイんですか」
この状況でも分からないのは奈津子さんただ一人だった。
「奈津子分かんないのか!メモリーカードってのは小さいから、隠すのも、壊すのも、容易に出来るってことだ」
「分からないですけど、そういうことですか!」
すかさず、松原さんがペシッとチョップを入れる。
「そこは、分かれ」
奈津子さんはチョップされた所を撫でながら弱々しく返事をした。
「松原さん、その場にいた人達の事情聴取って済みましたか」
「容疑の薄い保護者等は完了しているが、部員と顧問はしていない。すまんな、名探偵」
「なら、丁度いいです。舞台のどこに行っても生徒がいるため保護者が容疑者というのは考えにくいですので」
「彼らの下校時間も大幅に過ぎてしまっているので早く済ませましょう」
僕はベッドから起き上がり、脱がされていた黄色いマフラーを首に巻いた。
丁寧に揃えられているスリッパに足を入れ、足の感覚を確認しながら立ち上がった。
拳がみぞおちに直撃したせいか、まだ足元がおぼつかないからだ。
「では、行きましょうか」
「「はい」」
奈津子さんは犬のように元気よく、松原さんは少し怠そうに返事をした。
目を開けた先に見えたのは石膏ボードの貼られている天井。視界を縁取るようにカーテンが掛けられており、すぐにここが何処かの医務室であるとわかった。
「すいませんでしたぁ!」
まだ、再起動されていない頭を破るようにデカイ声が響く。
その声の主が奈津子捜査官であることはすぐに分かる。申し訳なさでよりしっかりと謝ってくれたのはありがたい。が、なにより声がデカすぎて頭が痛い。
「すまんなぁ、名探偵。こいつはまだ日が浅くてな」
奈津子捜査官をフォローするように松ぼっくり頭の松原さんが声量を抑えて優しい声で言う。
「はは、まあ、僕は大丈夫ですよ。それより、捜査の方はどうなりましたか」
「それなんだが、鑑識の方も終わり新たな進展もないから、俺ら3人主体で解決することになった。すまんな、名探偵」
「っていま、3人って言いませんでした?!」
さっきから一度も声量を変えない奈津子捜査官の声が響く。
「捜査を任されたのは、先輩とこの痴漢探偵でしょ? なんで私が入ってるの」
「そりゃ、決まってんだろ。お前は場数を踏まないと一向に良くない。俺の判断だ。あと、失礼だから探偵に『痴漢』をつけるのやめろ」
そう言い、奈津子捜査官の額にピシャリと少し優しめにチョップが入る。
その後、しばしの沈黙が流れた。
このままだと気まずいので話しかける。
「えーと、まず僕のことは日向と呼んでもらって構いませんので」
何言ってんだろ。
「そうか、なら俺らの事も名前で呼んでもらって構わんぞ」
ぽんっと松原捜査官が奈津子捜査官の頭に手を置く。
「こいつは、渡辺奈津子。俺は松原二郎だ。日向の評判は良く聞いている。宜しくな、名探偵」
「奈津子さんに松原さんですね。宜しくお願いします」
そう言って軽くおじぎする。俺はおじぎが癖であり、最近はコンビニの店員の挨拶におじぎで答えたほどだ。
いいような、恥ずかしいような、そのくらい癖になっているのだ。
「そういえば、今回の事件についてお聞きしてもいいですか?まだ、全容が見えないので分かる程度にお願いします」
「そうだったな、奈津子たのむぞ」
奈津子さんは頷き、タブレットの画面を操作してから手渡してくる。
「ええ、被害者は平幕勇。16歳の高校2年男子生徒。推定時刻は午後2時ごろ、後頭部を強く殴られ死亡。
傷口から犯行に使われたと思われる凶器が鉄パイプで、未だに見つかっていません。
あとは、来られた時に他の警察官より伝えた通りです」
「凶器は鉄パイプ、撲殺か。犯行の瞬間が捕らえられた映像とかは見つかってないんですね」
「それが、ですね。公演中撮影は禁止されており、演劇部が研究の為に録画していた動画が何者かに盗まれていました。事件当時その場に裏方の学生さんがいましたが、こちらも気絶させられて未だに目が覚めていません。命に別状は無いようです」
「なるほど、盗んだということはその映像に証拠があると言うことですか。」
「そう考えるのが妥当ですね」
「ちなみに動画はデータとしてのタイプですか?それとも、カセットテープの様なものですか」
「盗まれていたのは、カメラの差し込まれていたメモリーカードだけだと聞いています」
「それはマズイですよね」
「ああ、マズイ」
「何がマズイんですか」
この状況でも分からないのは奈津子さんただ一人だった。
「奈津子分かんないのか!メモリーカードってのは小さいから、隠すのも、壊すのも、容易に出来るってことだ」
「分からないですけど、そういうことですか!」
すかさず、松原さんがペシッとチョップを入れる。
「そこは、分かれ」
奈津子さんはチョップされた所を撫でながら弱々しく返事をした。
「松原さん、その場にいた人達の事情聴取って済みましたか」
「容疑の薄い保護者等は完了しているが、部員と顧問はしていない。すまんな、名探偵」
「なら、丁度いいです。舞台のどこに行っても生徒がいるため保護者が容疑者というのは考えにくいですので」
「彼らの下校時間も大幅に過ぎてしまっているので早く済ませましょう」
僕はベッドから起き上がり、脱がされていた黄色いマフラーを首に巻いた。
丁寧に揃えられているスリッパに足を入れ、足の感覚を確認しながら立ち上がった。
拳がみぞおちに直撃したせいか、まだ足元がおぼつかないからだ。
「では、行きましょうか」
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奈津子さんは犬のように元気よく、松原さんは少し怠そうに返事をした。
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