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第1章 雨宮凛
愛梨の詮索②
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「あ、翔くん、おっはよー」
目敏く俺が来たのを見つけた凛は、人混みに埋もれながらも挨拶をしてくるので、一瞬にして観客の視線がこちらに集中した。
またこのパターンか、と思いながらも無視するわけにも行かず、「おう」と視線を合わせずぶっきらぼうに答える。
様々なところで舌打ちが聞こえた気がした。勘弁してくれ。
愛梨はそんな俺を遠巻きに見て笑っていた。
そういえば、この雨宮凛も今までに居ない人種だった。
元有名モデルとかそういった事ではなく、何というか……彼女は自分のプライベートゾーンに一気に俺を引き込むのだ。言い換えるならば、彼女はまだ俺が靴を脱ぎ終える前に腕を引っ張って土足のまま部屋にあげてしまった、という感覚。かと言って俺のところには入って来ようとしない。不思議な子だった。
そんな凛は、愛梨を見て一瞬顔を輝かせたかと思えば、周りに群がっていた女子からそれとなく離れ、愛梨のところに駆け寄っていた。
「愛梨おはよっ。髪色変えたんだ?」
特に他意なく俺は二人の会話に耳を傾ける。
「あ、ああ。なんか上手く色入んなくて苦労した」
「え、これ自分で染めたの? 凄い! 似合ってるね」
まさか自分のところに来ると思ってなかったであろう愛梨はやや驚き気味だが、どこでもあるような女の子同士の会話が広げられている。愛梨がこんな女の子らしい会話してるのも珍しいのだけれど。
思ったより凛も愛梨のことが気に入っているようだった。彼女と上手くやれる女の子がいるとは驚きだ。というか、人を殺す気満々で棒切れを振り回すあの姿を見てよく仲良くしようと思うけれど……もしかしたら凛は凄く懐が深いのかもしれない。
今、二人は髪の染め方について話していた。凛はいつも美容院でやっていたので、引っ越してからどこの美容院に行こうかと悩んでいる旨を愛梨に相談していた。もちろんこの町には洒落た美容院は少ないが、商店街方面とは逆にあるショッピングモールの中に良い美容院があって、いつも俺はそこを利用している。やや高いけど。
「じゃあ、今度皆で遊び行こーぜ!」
二人の中に突然、会話の流れをぶった切ったのは、やはり純哉だった。
「はあ? 何でそうなるんだよ」
当然、愛梨は反論する。
「いいじゃんかよー、凛ちゃんこの町全然知らないんだしさ。ね、凛ちゃん?」
「え、うん。私はそうしてくれたら助かるけど……皆忙しいんじゃない?」
「大丈夫! 俺も愛梨も相沢も常に暇人だ!」
何故か俺まで入っているらしい。俺が常に暇人だったとは、初耳だ。大体合っているけれど。
「そのメンツだとあんた要らなくない?」
「えっ……?」
「別にあたし等二人で行ってもいいわけだし、まあ相沢は荷物持ちで連れてってもいいけど、あんた煩いし」
ね、と凛に訊く愛梨。凛は困った笑みを浮かべている。
「……すみません、俺も連れてってください」
ぼそっと言う純哉。
「あ? なんだって? 聞こえねーなー」
愛梨は大袈裟に耳を傾ける仕草をする。
よくこの二人は今迄喧嘩しないでやってこれてるな。それが不思議でならない。
「俺も連れてって下さい! お願いします!」
土下座でもしかねない勢いで言う。
「嫌。無理。断る。死ね」
それに対する愛梨の返答はただただ酷い。鬼かお前は。
「ちょっと愛梨、そんな言い方しなくても……」
見かねた凛が助け舟を出す。
「冗談だってば。これくらいがいいんだよ、こいつは」
どんな扱いだ、純哉。純哉は純哉で凛の言葉に「女神様ァ」とか言いながら涙してるし。なんなんだこの気持ち悪いグループは。
「そういうわけだから、相沢もそれでいいだろ?」
愛梨はいきなりこっちを向いて、にやりと笑ってくる。
どうやら俺が聴き耳を立てていた事に気付いていたらしい。
俺は溜息を吐いて、頷くのだった。
目敏く俺が来たのを見つけた凛は、人混みに埋もれながらも挨拶をしてくるので、一瞬にして観客の視線がこちらに集中した。
またこのパターンか、と思いながらも無視するわけにも行かず、「おう」と視線を合わせずぶっきらぼうに答える。
様々なところで舌打ちが聞こえた気がした。勘弁してくれ。
愛梨はそんな俺を遠巻きに見て笑っていた。
そういえば、この雨宮凛も今までに居ない人種だった。
元有名モデルとかそういった事ではなく、何というか……彼女は自分のプライベートゾーンに一気に俺を引き込むのだ。言い換えるならば、彼女はまだ俺が靴を脱ぎ終える前に腕を引っ張って土足のまま部屋にあげてしまった、という感覚。かと言って俺のところには入って来ようとしない。不思議な子だった。
そんな凛は、愛梨を見て一瞬顔を輝かせたかと思えば、周りに群がっていた女子からそれとなく離れ、愛梨のところに駆け寄っていた。
「愛梨おはよっ。髪色変えたんだ?」
特に他意なく俺は二人の会話に耳を傾ける。
「あ、ああ。なんか上手く色入んなくて苦労した」
「え、これ自分で染めたの? 凄い! 似合ってるね」
まさか自分のところに来ると思ってなかったであろう愛梨はやや驚き気味だが、どこでもあるような女の子同士の会話が広げられている。愛梨がこんな女の子らしい会話してるのも珍しいのだけれど。
思ったより凛も愛梨のことが気に入っているようだった。彼女と上手くやれる女の子がいるとは驚きだ。というか、人を殺す気満々で棒切れを振り回すあの姿を見てよく仲良くしようと思うけれど……もしかしたら凛は凄く懐が深いのかもしれない。
今、二人は髪の染め方について話していた。凛はいつも美容院でやっていたので、引っ越してからどこの美容院に行こうかと悩んでいる旨を愛梨に相談していた。もちろんこの町には洒落た美容院は少ないが、商店街方面とは逆にあるショッピングモールの中に良い美容院があって、いつも俺はそこを利用している。やや高いけど。
「じゃあ、今度皆で遊び行こーぜ!」
二人の中に突然、会話の流れをぶった切ったのは、やはり純哉だった。
「はあ? 何でそうなるんだよ」
当然、愛梨は反論する。
「いいじゃんかよー、凛ちゃんこの町全然知らないんだしさ。ね、凛ちゃん?」
「え、うん。私はそうしてくれたら助かるけど……皆忙しいんじゃない?」
「大丈夫! 俺も愛梨も相沢も常に暇人だ!」
何故か俺まで入っているらしい。俺が常に暇人だったとは、初耳だ。大体合っているけれど。
「そのメンツだとあんた要らなくない?」
「えっ……?」
「別にあたし等二人で行ってもいいわけだし、まあ相沢は荷物持ちで連れてってもいいけど、あんた煩いし」
ね、と凛に訊く愛梨。凛は困った笑みを浮かべている。
「……すみません、俺も連れてってください」
ぼそっと言う純哉。
「あ? なんだって? 聞こえねーなー」
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「嫌。無理。断る。死ね」
それに対する愛梨の返答はただただ酷い。鬼かお前は。
「ちょっと愛梨、そんな言い方しなくても……」
見かねた凛が助け舟を出す。
「冗談だってば。これくらいがいいんだよ、こいつは」
どんな扱いだ、純哉。純哉は純哉で凛の言葉に「女神様ァ」とか言いながら涙してるし。なんなんだこの気持ち悪いグループは。
「そういうわけだから、相沢もそれでいいだろ?」
愛梨はいきなりこっちを向いて、にやりと笑ってくる。
どうやら俺が聴き耳を立てていた事に気付いていたらしい。
俺は溜息を吐いて、頷くのだった。
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