魔王討伐後に始める異世界スローライフ ~元の世界に帰れなくなったので、絶対に異世界で青春してみせる~

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第12話 聖女と保健室

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「こんにちは。この村の方ですか?」

 ユウナが物陰から出てきた老人に尋ねた。
 老人を守る様に、二人の若者も物陰から姿を見せる。

「そうだが……あなた方は何者だ? ここに何しにきた?」

 老人が不安げに俺とユウナを見比べながら、訊き返してきた。

「これを見せれば、わかってもらえるか?」

 俺は嘆息して、腰に帯びた聖剣を見せた。
 法王パウロ三世から授与された、聖王国に代々伝わる聖剣バルムンク。〝勇者〟のみが扱われる聖なる力が付与されている魔法の剣で、魔王に最後の一撃をくれてやった剣でもある。この剣とその柄と鞘に彫られた法王韻は、この国に住む民ならば誰もが知るところだ。
 ユウナも遠慮がちに聖衣に記された紋章を見せた。この聖衣に記された紋章は彼女が〝聖女〟である事を示すもので、特殊な魔法でコーディングされている為、〝聖女〟にしか身に付けられないのだという。

「黒髪の男女に聖剣と聖衣……ま、まさか、〝勇者〟エイジ様と〝聖女〟ユウナ様ですか⁉」

 老人が慌てて地面にひれ伏した。若者達も老人に倣って慌てて地面に伏している。
 こうなるから、勇者コスプレと聖女コスプレは嫌なんだよな。
 聖都ならば俺達の事もそこそこ見慣れているのでここまで大袈裟に振舞われる事もないが、少し田舎に来ればこのザマだ。
 確かに偉業を達した覚えはあるが、この若さで年上の人達にひれ伏されるのはどうにもバツが悪い。ただ、この異世界で暮らすうえで話が通りやすいのは事実だった。

「あの、頭を上げて下さい。私達は王族でも貴族でもありませんから、そうした振舞いは不要です」

 ユウナは老人達を諭す様に、自らも膝を突いて言った。
 その言葉で、老人は周囲の若者達と顔を見合わせ、迷いながらではあったものの、おそるおそる立ち上がる。

「それで、勇者様と聖女様が、一体何の御用で?」
「やる事もなくなったし、ウェンデルにぶらりと旅行中さ。で、何があった?」

 論点を戻して、村の状況を単刀直入に訊いた。
 今は俺達がどこへいくだのといった話題は不要だ。

「義勇軍を名乗る、ゴロツキ集団ですよ。奴ら、法王様に対して反旗を翻すって建前で村々を襲って食い物や女達を搔っ攫っていくんです」

 老人は悔しそうにぎゅっと瞳を閉じて言った。
 老人曰く、この村を襲ったのは自称義勇軍の山賊だと言う。彼らは法王パウロ三世の圧制を訴え、自分達に力を貸すように村々に呼び掛けているのだそうだ。
 ただ、それはあくまでも口実で、その呼び掛けに応じなかった村にはこの様にして略奪を行うのだと言う。無論、その呼び掛けに応じれば村を破壊されないだけで、女や食糧を要求されるのだとか。どのみち、やっている事は山賊やらと変わらなかった。

 ──ほんとに……何の為に魔王を倒したんだろうな、俺達は。

 心の中で、大きく溜め息を吐く。
 世界を守る為とやらに俺とユウナは召喚されたらしいが、魔王を倒した今もこうして不幸になっている人々は絶えない。なんだか、やるせない気持ちになってしまった。

「勇者様と聖女様には申し訳ないですが、村は御覧の通りの状況です。怪我人も多く、とてもではありませんが持て成せません」

 老人は村を見回した。
 老人達の対応を見て安心と見たのか、他の隠れていた人達も物陰から姿を見せていた。

「怪我人はどこですか?」

 ユウナが老人に訊いた。

「え? もしかして……」
「はい。是非、皆さんの治療をさせて下さい」

〝聖女〟様のこの言葉に、廃墟となった村が湧いたのは言うまでもない。
 それから重傷者を匿っている建物へと案内してもらい、早速治療に取り掛かっていた。俺は〈治癒魔法ヒール〉が使えないので、ユウナのお手伝いだ。

「いでー! 痛いよ、聖女様!」

 だらりと落ちた腕を真っすぐにしようとユウナが持ち上げようとするが、村人から物凄く抵抗されている。どうやら完全に折れているらしい。

「あ、動かないで。骨が折れちゃってるから、ちゃんとくっつくように支えないといけないの」
「そ、そんな事言っても……いででで!」
「痛いよね。すぐに治すから、ちょっとの間だけ我慢しててね」

 ユウナは言いながら俺に目配せをしたので、腕を支える役目を交代する。
 若者は叫び声を上げつつ何とか我慢しているが、顔が苦渋の色に染まっていた。折れた腕を持ち上げられたら痛いのは当然だ。
 ユウナはそのまま無詠唱で〈治癒魔法ヒール〉の聖なる光を浴びせていく。
 この世界で魔法は基本的に詠唱する必要があるのだが、俺やユウナは〝勇者〟と〝聖女〟の適格者だからか、最初から詠唱せずとも魔法を唱える事ができる。ちなみに、本来無詠唱で魔法を使える者は、高位の魔導師だけだそうだ。

「……どう?」

 聖なる光が消え、治癒を終えた頃合いでユウナが若者に訊いた。

「え? あ……痛くない! すごい、これが聖女様の〈治癒魔法ヒール〉か!」

 若者が元通りになった腕をぶんぶん振り回してはしゃいだ。
 その姿を見て、ユウナが柔らかい笑みを浮かべている。
 彼女の〈治癒魔法ヒール〉は瀕死の傷をもすぐに癒してしまうほど強力だ。骨折程度であれば、すぐに治せる。
 その後もユウナは傷付いた村人達を瞬く間に治療していった。彼女はただ傷を治すだけでなく、傷付いていた村人達の心までも癒していた。先程まで絶望に暮れていた皆の表情に、少しずつ安堵と安らぎの色が戻りつつあったのだ。
 こういうところを見ると、やっぱり彼女は〝聖女〟だなぁと実感させられて、俺も唇の端に笑みを零す。
 そして、そんな彼女を見ていると、ふと二年前の光景が脳裏で蘇った。保健室でユウナに手当をしてもらう俺である。

 ──そういえば、体育祭で怪我をした俺に対しても、ユウナはこんな感じで応急処置をしてくれたっけ。

 俺達が異世界に飛ばされる、数週間前の出来事だ。俺達の通う高校では体育祭が開催されていた。
 ユウナが俺の出る障害物競走の時に応援で駆け付けてくれたので、かっこいいところを見せようと張り切ったまでは良いが、ゴールの際に駆け込んで怪我をしてしまったのだ。
 ユウナは保健室まで俺を連れて行って、呆れながら応急処置をしてくれたものだ。
 今となってはこうして彼女が〈治癒魔法ヒール〉で誰かを治すのは当たり前の光景となっているのだが、やっぱりの彼女を知る俺からしてみれば、まだまだ馴染めない。

 ──すぐに治る〈治癒魔法ヒール〉もいいけど、たまには昔みたいに保健室で治療してもらいたいって思うのは、贅沢なのかな。

 体育祭の時に怪我をした箇所を擦りつつ、俺はそんな事を考えてしまっていた。
 脳裏の奥にある、薬品臭い保健室を思い浮かべながら。
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