ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

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第58話 猫風邪

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 集落しゅうらくから少し離れたところにある大きな木の下で、グレイさんが雨宿あまやどりをしていた。
 グレイさんの足元には、Paramysパラミス(体長約30~60cmのネズミ)が20匹くらい転がっていた。
 ぼくが近付いて行くと、グレイさんは笑顔で立ち上がってしっぽを振り出す。

『シロちゃん、待っていたぞ。言われた通りネズミを狩ってきたんだが、これで足りるか?』
「グレイさん、お疲れ様ミャ。たくさん狩ってきてくれて、ありがとうミャ。これだけあれば、みんなで食べられるミャ」
『それは良かった。ところで、集落の猫たちはどこだ? 1匹も、姿が見えないようだが』
「雨が降ってきたから、猫たちはみんなあの横穴よこあな避難ひなんしているミャ」

 ぼくが横穴を指差すと、グレイさんはホッとした顔でため息を吐く。

『そうだったのか。シロちゃんが猫たちを連れてどこかへ行ってしまって、オレだけ置いて行かれたかと思ったよ』
「ぼくが、グレイさんを置いて行く訳がないミャ」
『ああ、そうだな。愛し合うふたりが、離れることはない。シロちゃんが、オレを置いて行くはずはないよな。永遠の愛をうたがってしまって、すまなかった』

 グレイさんはうっとりとした顔で愛を語り出し、ぼくをギュッと強く抱き締めるとぼくの顔をめ始めた。
 相変わらず、ぼくへの愛が超重力級ちょうじゅうりょうきゅう世界チャンピオンだな。

 さて問題は、グレイさんが狩ってきてくれた20匹のパラミスをどうやって運ぶかなんだけど。
 ぼくひとりじゃ、こんなにたくさんのパラミスを運ぶことは出来ない。
 パラミスのしっぽをくわえて引きずって行ったとしても、2匹が限界《げんかい》。

 お父さんとお母さんに頼んで、運んでもらおうかな。
 でも、ふたりとも猫だかられることが苦手なんだよね。
 野生の猫にとって、体が濡れることは命取いのちとり。

 体が冷えると低体温症ていたいおんしょうになったり、風邪かぜを引いたりする。
 それに猫は人間よりもずっと、低気圧ていきあつ影響えいきょうを強く受けやすい生き物なんだ。
気象病きしょうびょう」は、低気圧が原因だから治療法ちりょうほうはない。
 頭が痛くなったり、体がダルくなったり古傷ふるきずが痛くなったりする。
 雨の日は、雨風あめかぜがしのげる場所で1日中寝て過ごすしかない。

 猫たちに、応援は頼めない。
 だったらぼくひとりで、10往復おうふくして運ぶしかないか。
 大変だけど、出来ないことじゃない。

 ぼくがパラミスのしっぽを咥《くわ》えて引きずって運び始めると、グレイさんが声を掛けてくる。

『まさかひとりで全部、あそこまで運ぶつもりじゃないだろうな?』
「そうミャ」
『そういうことなら、オレに任せてくれ。オレなら一気に運べるぞ』
「でも猫たちに、グレイさんを会わせる訳にはいかないミャ」

 するとグレイさんは、嬉《うれ》しそうに笑ってしっぽを振る。

『今は集落には、誰もいないのだろう? だったら、オレが堂々どうどうと入っても問題ないはずだ。それに雨が降っているから、においも誤魔化ごまかせる。横穴にいる猫たちから見えない場所まで、こっそりと運べば良い』
「なるほどミャ! グレイさん、かしこいミャッ!」
『そうだろうそうだろう。どうだ? れ直したか?』
「うん、とってもカッコイイミャ!」
『ふふっ、そうか。オレも毎日、シロちゃんの可愛さにれ直しているぞ。では、さっそく運ぶか』
「グレイさんが、全部運ぶのは大変ミャ。ぼくも、手伝うミャ」
『シロちゃんのそういう頑張り屋さんなところ、好きだぞ。じゃあ、オレたちふたりの愛の共同作業きょうどうさぎょうだ。やるぞ』
「ミャ!」

 ぼくとグレイさんは手分けして、横穴の側までパラミスを運んだ。
 グレイさんが手伝ってくれたおかげで、本当にすぐ終わった。
 あとは、横穴の中へ運び込むだけだ。

「グレイさん、助かったミャ! ありがとうミャッ!」
『シロちゃんと、猫たちの役に立ててうれしいよ。みんなでたくさん食べて、元気になってくれ。それじゃあな』

 グレイさんが立ち去ろうとしたので、あわてて呼び止める。

「グレイさん、どこに行くミャ?」
『オレは猫たちに見つからないように、隠れて雨宿するよ。またな』
「うん……またミャ」

 グレイさんはさびしそうに笑って、集落から出て行った。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 ぼくは横穴の入り口に立ち、猫たちに聞こえるように大きな声で言う。

「皆さん、グレイさんが皆さんの為に、パラミスを狩って来てくれましたミャ! たくさん食べて、元気になって下さいミャッ!」
「ワタシたちも、お手伝いするニャ」
「シロちゃん、いつもありがとうニャー」

 ぼくが外からパラミスを1匹ずつ運び入れ、お父さんとお母さんに配ってもらった。
 猫たちは「うみゃいうみゃい」と、パラミスを美味おいしそうに食べている。
 自分たちの天敵てんてきである、トマークトゥスが狩ったものとは知らずに。

 雨でグレイさんの臭いが洗い流されているから、みんな気付いていないようだ。
 雨って、独特どくとくの臭いがするよね。
 カビ臭いっていうか、土臭いっていうか。

 何にせよ、みんな食欲があって良かった。
 しっかり食べた後は、雨があがるまで寝るだけだ。
 みんなが食べ終えたのを見届けると、横穴から出る。

「グレイさんに、お礼を言いに行って来るミャ」
「グレイさんに『みんな喜んで食べた』と、伝えてニャー」
「シロちゃん、大丈夫ニャ? いっぱい頑張って、疲れてないニャ?」   

 お母さんが心配そうな顔で、ぼくの頭をでてくれた。
 ぼくはお母さんに向かって、笑顔で答える。

「確かに疲れているけれど、これはぼくにしか出来ないことだからミャ。グレイさんにお礼を伝えたら、ぼくも休むミャ」
「そうニャ? じゃあ、グレイさんによろしく伝えてニャ」
「分かったミャ!」

 ぼくは横穴から出ると、『走査そうさ』でグレイさんの元へ向かった。
 グレイさんは雨と風の力でけずられて自然に出来た洞窟どうくつの中で、雨宿りをしていた。
 ぼくは洞窟に入り、グレイさんに明るく伝える。

「グレイさん、ありがとうミャ。みんな、喜んで食べてくれたミャ」
『そうか! オレが狩ったネズミを、猫たちが食べてくれたか! 良かったっ!』

 グレイさんはめちゃくちゃ嬉しそうに笑って、ぼくを抱き寄せた。

『シロちゃんもこんな激しい雨の中、みんなの為に良く頑張ったな。疲れただろう? 体がこんなに冷え切っているじゃないか。ゆっくり休んでくれ』
「うん、疲れたミャ……」

 ぼくを包み込むグレイさんの体が、とってもあったかくて気持ちが良い。
 やることやったら、急に気が抜けて眠くなった。
 うとうとし始めると、グレイさんが優しい声色こわいろささやいてくる。

『おやすみ、オレの可愛いシロちゃん』

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 なんだか、体がおかしい。
 頭が重くて痛くて、ぼ~っとしてふわふわしている。
 体が熱いような寒いような、どっちなのか良く分からない感覚でふるえが止まらない。

 せきと鼻水とくしゃみが、止まらない。
 息苦しくてのどが痛くて、息をする度にヒューヒューゼーゼーと喉が鳴る。
 涙が止まらなくて、目がかすんで周りが良く見えない。
 耳鳴みみなりもして、耳も良く聞こえない。
 関節かんせつも痛いし、体が重くて動けない。

 この症状しょうじょうは、人間だった頃に経験したことがあるから分かる。
 これは、風邪だな。
 たぶん、集落の猫たちから、うつされたんだ。
 お父さんとお母さんも、うつされていないといいけど。

「猫ヘルペスウイルス感染症かんせんしょう」ってのは、猫風邪ねこかぜ のことだったんだ。
 こういうところが、『走査そうさ』の悪いところだよなぁ。
 シンプルに、「猫風邪」って教えてくれればいいのにさ。

 医学用語だから、難しすぎて理解りかい出来ないことが多いんだよ。
 薬を教えてもらっても、手に入らないし。
 処置しょちも難しくて、出来ないし。

走査そうさ』が教えてくれることの半分以上、理解出来ていないと思う。
「これってどういう意味?」って、いちいち聞かないとくわしく教えてくれないし。
 なんで、そんな地味じみなイヤがらせしてくんの?
 もしかして、中の人がいたりする?

 今、『走査そうさ』を使ったら、どうなるのかな?
 ぼくの体がおかしいと、『走査そうさ』もおかしくなるのかな?

 あ~……、ダメだ。
 熱のせいで、意味のないことばっかり考えちゃう。
 目を開けると、グレイさんらしき影が見えた。
 ぼんやりとしか見えないから、どんな顔をしているのか分からない。

 でもきっとグレイさんのことだから、物凄ものすごく心配していると思う。
 グレイさんに抱っこされてて、大きな舌でペロペロとめられる。
 ぼくの看病かんびょうをしてくれているのか。
 やっぱり、グレイさんは優しいなぁ。

 ぼくを看病してくれているのが、グレイさんで良かった。
 猫風邪は、猫にしか感染かんせんしない。
 なんで感染しないかっていうと、猫と犬は体の構造つくりが違うから。
 ウィルスは、同じ動物にしか感染出来ないから。 
 人風邪ひとかぜ、猫風邪、犬風邪いぬかぜは、それぞれ全然違う別のウィルスなんだよ。

 グレイさん、ごめんね。
 今は何言っているのか、全然分からないや。
 病気が治ったら、またいっぱいお話ししようね。
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