ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

文字の大きさ
65 / 129

第65話 花冠をかぶった猫

しおりを挟む
 グレイさんから、トマークトゥスの話をくわしく聞いた。
 トマークトゥスの生態せいたいは、オオカミとほとんど同じ。
 4匹以上のれで行動こうどうし、群れごとに縄張なわばりを持つ。

 群れは全員、血がつながった家族。
 いつも群れで行動し、助け合うものらしい。
 リーダーのつがい(夫婦)が一番偉くて、順位じゅんいが決まっている。
 一番偉い番《つがい》がαアルファで、一番下がΩオメガ
 順位じゅんいは、年齢としや立場で決まるらしい。

 2歳くらいになると群れから出て一匹狼いっぴきおおかみとなり、番を探す。
 トマークトゥスもイヌと同じように、縄張りにマーキングをする。
 マーキングの臭いで年齢や性別、体の大きさまで分かるというから驚きだ。

 オオカミは縄張り意識がとても強いので、縄張りあらそいが起こる。
 争いをける為に、出来る限り他の群れの縄張りには入らないように気を付けているそうだ。

 グレイさんがいた群れは、お父さんとお母さんと兄弟4匹の合計6匹だったという。
 グレイさんは、群れの中で一番年下のΩオメガだったそうだ。
 グレイさんも一匹狼で、つがいを探しているって言っていたよね?
 ずっとぼくたちと一緒にいるけど、つがいを探さなくていいのかな?

 まさか、本来の目的を忘れちゃったなんてことはないよね?
 猫が好きすぎるあまり、つがいを作れないのかもしれない。
 猫を好きなったばっかりにつがいを作れないなんて、可哀想《かわいそう》に……。 

 でもグレイさんは、ちっともさびしそうじゃないんだよね。
「猫と旅をするのが夢だった」って言っていたし、むしろ幸せそう。
 たまたまぼくが『走査そうさ』を使えちゃったから、トマークトゥスの言葉を理解りかい出来てしまった。
 かなわないはずだった夢が、叶ってしまった。
 それで、大好きな猫と共に生きる道を選んだ。

 猫と旅をするトマークトゥスなんて、グレイさんしかいないと思う。
 ぼくもトマークトゥスと一緒にいたら、つがいなんて作れない。
 そもそも仔猫こねこから成長しないぼくを、つがいとして選んでくれる猫なんていない。

 でも、不幸ではない。
 大好きなお父さんとお母さんとグレイさんが、いつも側にいてくれる。
 グレイさんみたいな親友が、この先、出来るとも思えない。
 もう充分じゅうぶん幸せなんだ。
 これ以上を望むのは、贅沢ぜいたくってもんだ。 
 ぼくは、グレイさんにニッコリと笑い掛ける。

「グレイさん、これからもずっと一緒ミャ」
『ああ、オレたちの愛は永遠だ』

 グレイさんもニッコリと笑い返してくれて、お互いに体をすり寄せた。 

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 トマークトゥスの縄張りをけて遠回りしていると、自動的に『走査そうさ』が発動した。

対象たいしょう食肉目しょくにくもくネコ科ネコ属リビアヤマネコ』

『病名:特発性膀胱炎とっぱつせいぼうこうえん

処置しょち鎮痛剤ちんつうざい抗不安薬こうふあんやく精神安定剤せいしんあんていざい)、抗生物質こうせいぶっしつ投与飲ませる水分摂取水を飲む療法食りょうほうしょく摂食食べる

『位置情報:左折4m、直進70m』

 それを確認して、お父さんとお母さんに声を掛ける。

「お父さん、お母さん、すぐ近くに病気の猫がいるミャ!」
「分かったニャー、早く助けに行くニャー」
「薬草は、何が必要ニャ?」

 お母さんに聞かれて、考える。
 鎮痛剤は、アロエ。
 抗生物質は、ヨモギ。

 抗不安薬は、何を使えばいいのか分からない。
 何か良い薬草はあるかな? 『走査そうさ

『対象:トケイソウ科トケイソウ属トケイソウ』

薬効やっこう鎮痛ちんつう精神安定せいしんあんてい抗痙攣こうけいれん不眠ふみん高血圧こうけつあつ、ヒステリー、ノイローゼ、更年期障害こうねんきしょうがい

 トケイソウ?
 言われて見れば、大きくて綺麗《きれい》な白い花がちらほら咲いていた。
 花を上から見ると、紫色のめしべが3つに分かれていて時計みたいに見える。
 どの部分が、薬草になるの?

 『花を乾燥させて、ハーブティーとして摂取《飲む》』

 猫は火が使えないから、ハーブティーは無理。
 葉っぱは、食べられる?

『葉やくきに、青酸配糖体せいさんはいとうたいやアルカロイドるいの毒性が含まれる。大量摂取たくさん食べるすると、胃腸障害いちょうしょうがい眩暈めまい運動障害うんどうしょうがいなどを引き起こす恐れがある』

 毒があるんじゃ、ダメだな。

『乾燥させた花を、水出しハーブティーにすれば可能』

 水出しハーブティーって何?

『長い時間水にけることで、味や成分を抽出出すする方法』 

 へぇ、ハーブティーって水でも出来るんだ?
 ハーブティーは、いろんな効果があるって聞いたことがあるぞ。

 今回の乾燥には、ベントナイトは使えないな。
 ベントナイトは食べられる土だから、いけるか?
 いや、やっぱり土はやめておこう。

 素直に、お日様ひさまに干して乾燥させよう。
 乾燥させるのも水出しするにも、かなり時間が掛かりそう。
 とりあえず、花をんでいこう。

 病気の猫は、何匹いるの?

『1匹』

 だったらヨモギとアロエは、そんなにたくさんはいらないな。
 その辺に生えているヨモギとアロエをると、3匹に「行こう」と声を掛けた。

 トケイソウの花は、どうやって乾燥させようかと考えた結果。
 花冠はなかんむりを作って、頭にかぶっておくことにした。
 頭にかぶっておけば、手がふさがらない。
 首飾くびかざりにすることも考えたけど、花冠の方が邪魔じゃまにならない。
 日向ぼっこしながら、お昼寝しているうちに乾くだろう。
 自分だけかぶるのはちょっと恥《は》ずかしいから、みんなの分も作った。

「はい、お父さんとお母さんの分ミャ。こうやって、頭にかぶってミャ」
「シロちゃん、ありがとうニャー」
「ありがとうニャ、とっても可愛いニャ」

 お父さんとお母さんは喜んで、花冠をかぶってくれた。
 花冠をかぶった猫、めちゃくちゃ可愛いぞっ!
 大きめに作った花冠を、グレイさんにも差し出す。

「はい、グレイさんにも花冠をあげるミャ」
『オレの分もあるのか、ありがとう。これは、花冠というのか。シロちゃんに、とても良く似合っているぞ。あまりにも可愛すぎて、またれ直してしまったくらいだ』
「グレイさんも、似合っているミャ」
『そうか、似合っているか』

 グレイさんは嬉しそうに笑って、しっぽを振り出す。
 カッコイイトマークトゥスが、花冠をかぶると美しい。
 猫とは違う意味で、良く似合うなぁ。
 花冠をかぶったぼくたちは、病気で苦しむ猫の元へ向かった。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 着いた先では、キジシロネコが股間こかんあたりを懸命けんめいに毛づくろいしていた。
 猫はかゆみや痛みを感じると、その部分だけをずっと毛づくろいしてしまうんだ。
 毛づくろいしすぎると、いっぱい毛が抜けて円形脱毛部分ハゲになるし、肌がれるし、毛をたくさん飲み込んで毛球症けだましょうになるし、良いことは何もない。

 ぼくは、キジシロネコに近付いて、話し掛ける。

「初めまして、こんにちはミャ。ぼくはお医者さんですミャ。突然ですみませんが、あなたの病気をぼくに治療ちりょうさせてもらえませんミャ?」
「あっ、仔猫こねこのお医者さんニィ~! 早く助けてニィ~ッ!」

 キジシロネコが助けを求めてきたので、ぼくはさっそく治療する。
 毛が抜けて赤くなった場所に、アロエの汁を塗り付ける。
 アロエには抗炎症作用こうえんしょうさようがあるから、すぐにかゆみと痛みが引くはず。
 続いて、ヨモギの薬を作って飲ませた。

 アロエをると痛みと痒みが治まったのか、キジシロネコは落ち着いた。
 突発性膀胱炎とっぱつせいぼうこうえんって、どんな病気? 『走査《そうさ》』

頻尿おしっこが近い血尿おしっこに血が混じる排尿出す時の痛み、粗相おもらし下部尿路疾患かぶにょうろしっかんと共通して生活環境せいかつしゅうかん改善かいぜんにより、数日~数週間ほどで自然治癒しぜんちゆ

 なるほど、膀胱炎ぼうこうえんはおしっこの病気なんだね。
 意外と、すぐ治る病気で良かった。
 下部尿路疾患は、何らかの原因で水を飲まなくなった猫に起こる病気。
 そういえば処置で、「水分摂取水を飲む」と言っていたよね。

「綺麗で新鮮しんせんな川の水を、たくさん飲めば治りますミャ。ところで、あなたの集落は、どこですミャ? もしよろしければ、あなたの集落へ案内してもらえませんミャ?」
「ボクは、ナズナの集落の猫ニィ~。また、戻ってきてくれるニィ~?」

 キジシロネコはそう言って、ぼくたちの後ろを指差した。
 ナズナの集落は、ついさっき旅立ったばかりだ。
 次の集落までは、約5kmも離れているんだった。

 猫の縄張りの範囲は、オスネコで半径約500mと言われている。
 警戒心けいかいしんの強いメスネコは、半径約50mとせまい。
 このあたりにいるんだったら、ナズナの集落の猫に決まっている。
 間違えちゃって、ちょっと恥ずかしい。

「そうでしたミャ。この近くに別の集落がないかと思って、探していましてミャ。ナズナの集落の皆さんには、よろしくお伝え下さいミャ」
「そうだったのニィ~? 助けてくれて、ありがとうニィ~。また来てニィ~」

 キジシロネコは笑顔で手を振ると、ナズナの集落へ戻って行った。

――――――――――――――――――――――――――――
時計草トケイソウとは?】
 4~5月頃に、日本全国の山や林などで7~10cmの綺麗な花を咲かせる野草。
 花を上から見ると、時計の形に見えることが名前の由来ゆらい
 英語だと、「Passionパッション flowerフラワー
果物時計草くだものとけいそう」のは、パッションフルーツ。
 パッションフルーツは、犬猫も食べられる。
 犬猫に果物を与える場合は、おやつとしてちょっとだけにしてね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

スケルトンなボクは君にテイムされたい!

うなぎ358
ファンタジー
~もふもふじゃなくても可愛いと言ってくれた君をボクは守ると決めた~ 七十七階層あるダンジョンの最下層。ここには猫スケルトンのニャーと、ドラゴンスケルトンの爺ちゃんが二人だけで住んでいる。 ニャーは人間と地上に興味深々で、いつも爺ちゃんに外の世界の話をせがんだ。 そんなある日、いつかダンジョンの外に行ってみたいと言っていたニャーの願いを、爺ちゃんは叶えることにした。 ついに外の世界へ飛び出したニャーは盲目の少女サアヤと出会う。 毎週金曜日お昼ごろ更新。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...