ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第23話 ついに成り上がる

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 食堂で昼飯を食べた後は、加藤先生かとうせんせい法律相談事務所ほうりつそうだんじむしょへ。
 昨日と同じように、奥の応接室へ通された。
 秘書さんが、お茶を三つ置いて出て行った。
 応接セットのソファに、俺と加藤先生がテーブルを挟んで向かい合って座る。

 桜庭さくらばは、俺の横に突っ立ったまま、座ろうとしない。

「どうした? お前も座れよ」
「いえ、僕は結構です」

 桜庭はにっこりと紳士的しんしに微笑んで、首を軽く横に振った。
 俺はムッとして、桜庭のそでつかむ。

「お前が良くても、そこに立ってられると俺が気になるの。良いから、お前も座れってっ」
「かしこまりました。それでは、失礼致します」

 桜庭は、丁寧にひとつお辞儀をして、俺の横に腰掛けた。
 そんなやりとりを見ていた加藤先生が、今更な質問をしてくる。

「ひょっとして、こちらの方は、昨日の執事しつじさんですか?」
「気付くの、おっそっ! ああ、そうですよ。昨日の豪邸ごうていにいた執事です」
「はい。昨日お会い致しました、秘書ひしょ桜庭さくらば春樹はるきでございます」

 桜庭が自己紹介すると、加藤先生は小さく笑う。

「そうでしたか。執事をお連れになっているということは、ご相続そうぞくされるご覚悟かくごを決められたと、受け取ってよろしいんでしょうか?」
「は、はい……色々考えたんですけど、やっぱりぐことに決めました」

 ぎこちない笑みを浮かべ、手をもじもじしながら答えた。
 加藤先生は笑みを深くすると、たなから書類が入ったファイルを取り出す。

「それは、こちらとしてもありがたい。大変、賢明けんめいな判断です。良く、ご決心けっしんなさいましたね」
「いやぁ、正直、悩みに悩みましたよ。だって、八兆円と豪邸と株とその他諸々もろもろでしょう? 俺には、過ぎたものですからね。というか、悩まない方がおかしいじゃないですか?」

 乾いた笑いをしつつ、俺は頭を掻いた。
 その直後、俺は顔を引き締めて真剣に言葉をぐ。

「でも、決めたんです。相続したら、絶対その金を有効活用ゆうこうかつようしようって。まずは、弱小企業じゃくしょうきぎょう融資ゆうしして景気けいきを回復させるんです。あと、児童養護施設じどうようごしせつ老人福祉施設ろうじんふくししせつ寄付きふをします。貧困ひんこんに苦しむ人々を救って、みんなが少しでも笑顔になれる世界を作りたいんですよ」

 加藤先生は、相続に関する書類をテーブルに並べて、意味深長いみしんちょうに笑う。
 仕上げに、俺の目の前に一本のペン置いた。

「それはそれは、ずいぶんご立派りっぱなお心掛こころがけで。では、こちらにご署名しょめいを」
「は、はい」

 言われるまま、署名欄しょめいらんに自分の名前を記入する。
 署名が終わった直後、俺の人生は大きく変わる。

 ただの「川崎虎河かわさきたいが」から「|大資産家川崎虎河《だいしさんかかわさきたいが」に。

 自由気ままな生活に、終止符しゅうしふを打つ。
 もう、後戻りは出来ない。

 ペンを持つ手が、じっとりと汗ばんで、小刻こきざみに震える。
 どうにか署名したけど、ミミズがのたくったような字になってしまった。
 記入する間、緊張しすぎて、無意識に息を止めていた。
 書き終わると、大きく息を吐き出した。
 自分の名前を書く。
 ただそれだけのことなのに、モノスゴい気疲きづかれしてしまった。

 加藤先生は書類を確認して、軽くうなづいた。

「はい、確かに。これにて川崎さんは、とどこおりなく、故ピート・ミッチェル氏の遺産いさんをご相続されました。それではさっそくですが、相続の諸注意しょちゅういなどをご説明させて頂きます」
「は、はい……」

 俺が返事をすると、加藤先生は俺に書類を見せながら説明を始めた。
 だけど内容が難しすぎて、全然理解出来ない。
 ほとんど、右から左へ聞き流すことになってしまった。
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