ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第27話 正義のヒーロー誕生

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※作中は、十二月中旬です。


「なぁ、桜庭。ひとつ聞きたいことがあるんだけどさ」
「なんでしょう? どんなことでも、僕に出来ることであれば、何なりとお申し付け下さい」

 うやうやしく、桜庭がにっこりと微笑む。
 俺は真顔で大きく頷くと、確かめるように口を開く。

「お前さ、加藤先生の事務所で、俺の話、聞いてたよな? 児童養護施設や老人福祉施設に、寄付するって話」
「ええ、もちろん。この耳で、しかと。とても大変ご立派なお考えだと思います」

 たたえる桜庭に、俺は頭をボリボリ掻きながら苦笑する。

「あれさ、言ったは良いけど、俺、寄付金きふきんを送るって、どうやれば良いのか知らないんだよね」
「は?」

 ワザとらしく笑う俺を見て、桜庭はぽかんとした顔になった。
 超絶美形ちょうぜつびけいが、目を丸くして驚く顔が、やけにおかしくて、俺は本気で笑い出した。

 ワンテンポ遅れて、桜庭が釣られるように笑い出す。

「ご主人様は心意気こころいきは大変ご立派なのに、肝心かんじんなところが抜けていらっしゃるようで」
「しょーがねぇだろぉ? 知らねぇもんは、知らねぇんだもん」

 ねて見せると、桜庭はやれやれと肩をすくめて苦笑する。

「良い機会ですから、お教えしましょう。そのご様子だと、これからいくらでも必要になりそうですからね」

 おだやかに微笑むと、桜庭は続ける。

「まずは、金融機関きんゆうきかん振込ふりこみ用紙をもらいます。あとは振込先ふりこみさき記入きにゅうし、入金にゅうきんしたい金額を明記めいきするだけで出来ますよ」
「なんだ、そんなに簡単だったのか」

 俺がほっとして笑うと、桜庭は付け加える。

「直接、手渡しで届けるという方法もありますし、物を買って送る、という手もありますよ」
「おっ、それ良いな! 『タイガーマッスル』みてぇで、かっけぇじゃんっ!」
「なんですか? それ」

 首を傾げる桜庭に、俺は声を弾ませながら説明する。

「あれ? 知らねぇ? めちゃくちゃ有名なのになぁ」

「タイガーマッスル」ってのは、かなり昔の漫画なんだけどさ。
 施設の本棚に、愛蔵版あいぞうばんの「タイガーマッスル」が全巻置いてあった。
 子供の頃、「タイガーマッスル」が繰り出す技名を全部覚えるくらい、夢中になって読んだっけ。

「タイガーマッスル」は正義のプロレスラーで、fight moneyファイトマネーを児童養護施設に寄付するんだ。
 恵まれない子供達に夢を与え、見返りを求めない本物のヒーロー。
 施設育ちの俺にとって、「タイガーマッスル」はあこがれの存在だった。
 実際に、「タイガーマッスル募金」という、児童養護施設へ寄付金を送る非営利活動法人ひえいりかつどうほうじんも存在する。

「なるほど、匿名とくめいのヒーローですか」

 感心する桜庭に、俺は良いことを思い付いて、手をポンッと叩く。

「そうだよ! 俺も『タイガーマッスル』みてぇな正義のヒーローになりたいっ! もうすぐ、クリスマスだしさっ! みんなに、クリスマスプレゼントを贈るんだっ!」
「それは、とても立派なお考えです。きっと、素晴らしい贈り物になるでしょうね」

 桜庭は笑いながら、同意どういしてくれた。
 クリスマスを楽しみにしている子供みたいに、なんだかウキウキワクワクしてきた。

「でも、『タイガーマッスル』じゃあ、まんまだしなぁ」
「本名じゃ、ダメなんですか?」
「それだと、売名行為ばいめいこういみたいだし……なんか、こう、カッコイイ名前が良いよな」

「タイガー」だけじゃ寂しいし、「タイガー」の前後に何か付けたい。
 タイガーグレート、ブラックタイガー、ビッグタイガー、タイガーマン……。
 うーん、どれもしっくりこない。

 色々思いをめぐらせていたら、子供の頃のことを思い出した。
 俺は、子供の頃のあだ名は「こわ屋虎河やたいが」だった。
「タイガーマッスル」のマネをしてプロレスごっこをやって、よく物を壊していたことから付けられたあだ名だ。
「壊し屋」は、英語で「Breakerブレイカー

「そうだ! 『ブレイカータイガー』って、それっぽくね?」
「プロレスのリングネームみたいですね」
「よし! 今日から俺は、正義のヒーロー『ブレイカータイガー』だっ!」

 俺がプロレスラーっぽいポーズを決めると、桜庭が笑顔で拍手してくれた。

 🎄

 クリスマス・イブの夜。

 全国の児童養護施設に、多額の寄付金とクリスマスプレゼントが寄贈された。
 山と積まれたプレゼントの上には、一通の手紙が添えられていた。

「いつも良い子にしていたみんなに、ごほうびだ。みんなで、仲良く分けてくれよなっ! 『正義のヒーローブレイカータイガー』より」

 こうして「ブレイカータイガー」は、一夜にしてヒーローとなった。
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