ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第26話 全裸、それすなわち忠誠の証明

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 やたら広いホールに、サイケデリックな謎のオブジェが置いてある。

「あれ、何?」

 俺がそれを指差すと、椿つばきが面白そうに笑いながら答えてくれる。

「あら、ご主人様、お気付きになられました? もうすぐ、クリスマスでしょ? 前衛的華道家ぜんえいてきかどうかに、クリスマスツリーの飾り付けをお願いしたんですの」
「え? クリスマスツリーだったの? それ」

 俺が知るクリスマスツリーは、こんな禍々まがまがしい巨大な木のオバケじゃない。
 お金持ちはみんな、クリスマスツリーの飾り付けを華道家に頼むものなの?

 施設にいた頃、クリスマスは一大いちだいイベントだった。
 みんなで楽しくワイワイ、飾り付けをするのが楽しかった。
 俺、おりがみでるしかざりを作るのが、得意だったんだよね。

 そもそも、なんで、前衛的華道家なんかにクリスマスツリーの飾り付けを頼んじゃったんだよ。
「前衛的」って、いわゆる「人類には早すぎる芸術」のことでしょ?
 見ようによっては、芸術的なんだろうけどさ。
 芸術的センスゼロの俺には、とても理解出来ない。

 ゴテゴテギラギラした邪悪じゃあくなクリスマスツリーと、その手前に横一列で並ぶ、全裸の野郎達。
 何? この悪夢みたいな光景。
 俺はいったい、何を見せられているんだ?

 なんだかめちゃくちゃ疲れてしまって、夕食前にちょっと休憩きゅうけいさせてもらうことにした。
 休憩したいと言っても、ひとりにはさせてもらえなかった。
「お側にいさせて下さい」と、寝室を出て行かない桜庭だけがいる。

 全裸で。

 なんで、脱いじゃったよ? お前。
 さっきまで、私服着てたんだから、そのまま着とけば良いじゃんっ!
 君ら、全裸がポリシーなのっ?
 そんな変なこだわりは、とっとと捨ててしまえっ!

 そういや、他の執事達も服着て、外にいたんだよね?
 わざわざ屋敷に先回りして、脱いだの?
 アホだろ、お前ら。
 努力の方向音痴ほうこうおんちだよ。

 それにしても、何故、屋敷の中だけ全裸なのか。
 一応、一般常識いっぱんじょうしきはあるらしく、俺以外の人の前に出る時は服を着る。
 全裸で表を出歩いたら、公然猥褻罪こうぜんわいせつざいで捕まることも、ちゃんと理解している。

 それならいつも服を着ていて欲しいと思うところだが、それはそれこれはこれらしい。
 理解に苦しむところだ。

 側に立っている桜庭に、声を掛ける。

「お前さ、さっき、服着てたよね?」
「はい。外で全裸になるなんてことはしませんよ、変態じゃあるまいし」

 桜庭に「プーッ、クスクス」と笑われて、思わずツッコむ。

「何言ってんだ! げんに今、お前、全裸じゃねぇかっ!」
「ええ。お屋敷の中では全裸ですが、何か?」

 しれっとして答える桜庭に、俺は声を荒げる。

「『何か?』じゃねぇよ! なんで、屋敷内だと全裸なんだよっ!」
「何をおっしゃいますか! 執事として、全てをさらけ出すことにより、ご主人様には何も隠し立てしないという証明なのです! それ、すなわち全裸っ!」
「意味分かんねぇっ!」

 俺に対抗するかのように、興奮気味に桜庭も声を張り上げた。
 なんで、全裸を正当化せいとうかしてんだ。
 脱ぎたいだけじゃねぇのか?

「だいたい、聞いたことねぇよ! 執事が全裸ってっ!」
「それはもちろん、おおやけにすることではありませんからね。出来れば、ご主人様もお屋敷内では、全裸でおくつろぎになって頂きたいところなのですが」

 何故か、残念そうな桜庭に、俺は反論する。

「全裸で寛ぐのは、風呂ん中だけで十分だから! 普通の人は、全裸で家ん中ウロウロしないからねっ!」
「え? そうなんですか? 裸になれば、心身共しんしんともに開放された清々すがすがしい気持ちになれるのに」

 桜庭がショックを受けた顔をしたので、俺は手を大きく横に振って否定する。

「いやいや、おかしいよ。変態の思想だからね、それ。それとも何か? お前は、プライベートでも全裸なのか?」
「ご主人様も、一度お試しになってみては? 慣れれば、楽になれますよ」

 俺を変態の道へ引きずり込もうとすんのは、止めろ。
 それもこれも、執事達に全裸を強制したミッチェルのせいだ!
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