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第35話 正義とは何か?
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加藤先生は、淡々と続ける。
「人に物を与えるだけなら、子供にだって出来ますよ。それくらいで『正義』を語られては、『正義』という言葉に失礼というもの」
「俺のやっていることは、『正義』でないと?」
聞き返すと、加藤先生はゆっくりとした動きで、首を横に振る。
「『正義』とは、何か? それは何かを勝ち取って、良い結果が出た時のみに許される言葉」
加藤先生の話は、回りくどくて分かりにくい。
ちょっと、自分の世界に酔っちゃってる。
俺は若干引きつつも、それでもツッコめる状況ではないと思って、大人しく話を聞き続ける。
「バラ撒きは、人に甘えを生み出します。与えられることを覚えた人間は、卑しくなり、堕落する。そしてそれは同時に、あなたを苦しめることになる。これは『正義』ではない。むしろ『悪』です」
「俺が『悪』だって、言うんですか?」
善意の寄付が「悪」と言われちゃ、黙ってられない。
横に座っている桜庭も、怒りに打ち震えている。
「どういうことですかっ? 聞き捨てなりませんっ!」
明らかな冷笑を浮かべて、加藤先生は静かに口を開く。
「おふたりとも、お分かりになっていないようだ。では……」
加藤先生はメモ帳を一枚取り、ペンで□や○を書き込んでいく。
「法人に一度でも振り込みで寄付をすると、次回からあなた宛てに寄付を求める振り込み用紙を送り付けてくるようになります。彼らにとって、あなたは金づるです」
「金づる……」
「『歳末助け合い募金』だの、『支援強化期間』だのと銘打って、事あるごとに寄付を求めてくるでしょう」
俺が今、一番見られたくない目がそれだ。
何故、人は金を持っているかどうかで、その人の価値を見極めようとするのだろう?
何故、金を持っているというだけで、妬まれるのだろう?
人は俺を俺として見ない、金づるとして俺を見る。
そんな目で、俺を見るなっ!
俺は頭を垂れ、大きく歪めた顔を両手で覆った。
そんな俺に構わず、少し声のテンションを上げて、加藤先生は話を続ける。
「クリスマスに、児童養護施設へプレゼントと寄付金を送られましたよね?」
プレゼントを抱えた子どもたちが嬉しそうに笑う姿は、心をほっこり温かくしてくれた。
守りたい、あの笑顔。
それを思い出して、俺は笑みを取り戻して顔を上げる。
「はい。みんな、喜んでくれました」
「ですが、その喜びも、絶望に変わります」
加藤先生は、ワザと怒りを買う喋り方をしているような気がしてならない。
俺はぐっと怒りを抑えて、加藤先生に問い掛ける。
「絶望に変わるって、どういうことですか?」
「一度だけならば、良いでしょう。ですが、何度も続いてご覧なさい。与えられることが、当たり前になります」
加藤先生は、□を持った棒人間を描いて、その上に大きく×をする。
「いつの日か、あなたの資産が底を尽き、施設にプレゼントを送れなくなったとします。そうしたら、プレゼントを期待していた子どもたちはどう思うでしょう?」
「あ……それ、は……」
やっと、加藤先生が言った「絶望」の意味が分かった気がした。
俺が口を開くより前に、理解した桜庭が答えを教えてくれる。
「『ブレイカータイガーがプレゼントをくれなくなった』と、子どもたちが悲しむことになります」
「うん、サンタと同じだっ」
俺が桜庭に向かって大きく頷くと、加藤先生も小さく頷く。
「その通り。与えられることに慣れすぎると、与えられなくなった時、失望に変わる。その時、人々はあなたを口汚く罵ることでしょう。これは彼らの為にならない上、あなたを苦しめることになります」
弱者を労わる気持ちは、もちろん大切だ。
ある程度の施しは、必要だ。
しかし、施しは正義ではない。
過剰に与え、お互いが不幸になるようではいけない。
つまり、「何事もほどほどに」ってことだ。
「人に物を与えるだけなら、子供にだって出来ますよ。それくらいで『正義』を語られては、『正義』という言葉に失礼というもの」
「俺のやっていることは、『正義』でないと?」
聞き返すと、加藤先生はゆっくりとした動きで、首を横に振る。
「『正義』とは、何か? それは何かを勝ち取って、良い結果が出た時のみに許される言葉」
加藤先生の話は、回りくどくて分かりにくい。
ちょっと、自分の世界に酔っちゃってる。
俺は若干引きつつも、それでもツッコめる状況ではないと思って、大人しく話を聞き続ける。
「バラ撒きは、人に甘えを生み出します。与えられることを覚えた人間は、卑しくなり、堕落する。そしてそれは同時に、あなたを苦しめることになる。これは『正義』ではない。むしろ『悪』です」
「俺が『悪』だって、言うんですか?」
善意の寄付が「悪」と言われちゃ、黙ってられない。
横に座っている桜庭も、怒りに打ち震えている。
「どういうことですかっ? 聞き捨てなりませんっ!」
明らかな冷笑を浮かべて、加藤先生は静かに口を開く。
「おふたりとも、お分かりになっていないようだ。では……」
加藤先生はメモ帳を一枚取り、ペンで□や○を書き込んでいく。
「法人に一度でも振り込みで寄付をすると、次回からあなた宛てに寄付を求める振り込み用紙を送り付けてくるようになります。彼らにとって、あなたは金づるです」
「金づる……」
「『歳末助け合い募金』だの、『支援強化期間』だのと銘打って、事あるごとに寄付を求めてくるでしょう」
俺が今、一番見られたくない目がそれだ。
何故、人は金を持っているかどうかで、その人の価値を見極めようとするのだろう?
何故、金を持っているというだけで、妬まれるのだろう?
人は俺を俺として見ない、金づるとして俺を見る。
そんな目で、俺を見るなっ!
俺は頭を垂れ、大きく歪めた顔を両手で覆った。
そんな俺に構わず、少し声のテンションを上げて、加藤先生は話を続ける。
「クリスマスに、児童養護施設へプレゼントと寄付金を送られましたよね?」
プレゼントを抱えた子どもたちが嬉しそうに笑う姿は、心をほっこり温かくしてくれた。
守りたい、あの笑顔。
それを思い出して、俺は笑みを取り戻して顔を上げる。
「はい。みんな、喜んでくれました」
「ですが、その喜びも、絶望に変わります」
加藤先生は、ワザと怒りを買う喋り方をしているような気がしてならない。
俺はぐっと怒りを抑えて、加藤先生に問い掛ける。
「絶望に変わるって、どういうことですか?」
「一度だけならば、良いでしょう。ですが、何度も続いてご覧なさい。与えられることが、当たり前になります」
加藤先生は、□を持った棒人間を描いて、その上に大きく×をする。
「いつの日か、あなたの資産が底を尽き、施設にプレゼントを送れなくなったとします。そうしたら、プレゼントを期待していた子どもたちはどう思うでしょう?」
「あ……それ、は……」
やっと、加藤先生が言った「絶望」の意味が分かった気がした。
俺が口を開くより前に、理解した桜庭が答えを教えてくれる。
「『ブレイカータイガーがプレゼントをくれなくなった』と、子どもたちが悲しむことになります」
「うん、サンタと同じだっ」
俺が桜庭に向かって大きく頷くと、加藤先生も小さく頷く。
「その通り。与えられることに慣れすぎると、与えられなくなった時、失望に変わる。その時、人々はあなたを口汚く罵ることでしょう。これは彼らの為にならない上、あなたを苦しめることになります」
弱者を労わる気持ちは、もちろん大切だ。
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しかし、施しは正義ではない。
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つまり、「何事もほどほどに」ってことだ。
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