ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第39話 なんにも専務

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「へぇ、そうなの? 川崎君かわさきくんも、自己主張じこしゅちょうの激しい執事たちを持って大変だね」

 もう、まるっきり他人事ひとごとって顔してますよ、部長。
 ここは、部長の執務室しつむしつ
 出社早々しゅっしゃそうそう、部長に引っ張り込まれた。

 応接おうせつセットに桜庭と一緒に座らせられ、コーヒーとお茶菓子なんて頂いていたりする。
 待遇たいぐうとしてはとても良いのだが、今までと対応が違うと、どうも居心地いごこちが悪い。
 俺はおそおそる、部長に問い掛ける。

「それで、あの~……。今日は、なんで俺、呼び出されたんスか?」

「いや、緊張しなくて良いんだよ。別に、しかるつもりはないんだ。近頃ちかごろ健康状態けんこうじょうたいはどうだい?」

 ニッコニッコの優しい笑みで言われ、何か裏がありそうで怖いんですけど、部長。
 今までが叱られる為に呼び出し食らってたら、どうにも気持ち悪い。

「元気ですよ」

 俺の返事を聞いて、部長は穏やかな笑みで、うんうんとうなづく。

「それは何より。うちの大事な大株主様おおかぶぬしさまだもの。元気でいてもらわなくちゃ、困るんだよね」
「ああ、そういうことね……」

 結局は、金かい。

 やだねぇ、「金持ってるかどうか基準きじゅん」で、態度たいどをコロコロ変えるタイプ。
 部長は自分のデスクの引き出しを開けて、一枚の書類を取り出す。
 それを、俺の目の前にスッと置いた。
 急に真面目な顔付きになって、部長が告げる。

川崎かわさき虎河殿たいがどの貴殿きでんは本日を持って、専務取締役せんむとりしまりやくにんくことをめいじます」
「はぁあああ~? 専務ぅっ?」

 突然の大出世だいしゅっせに、俺の声は裏返うらがえった。
 いきなり、バイトから専務って、あり得ないだろ。

 部長は大きくひとつ頷くと、続ける。

「と言っても、名ばかりの役職やくしょくだけどね。ほら、前に言ったでしょ? 最高経営責任者さいこうけいえいせきにんしゃであったピート・ミッチェル氏の遺産いさんと株を継いだからには、今のまんまの立場ってワケにはいかないって」
「そういえば、そんなこと言ってましたね」

 俺が記憶きおく手繰たぐり寄せながら頷くと、部長は俺の肩にポンと手を置く。

「ってことで、今日から川崎君は専務だから。以後、よろしくね」
「マジっすかぁ~……」

 俺はうんざりと、天を仰いだ。

 ☆

 いつものように職場に顔を出し、いつものようにみんなと挨拶あいさつわす。

「おはようございまーすっ!」
「よう、川崎。今日も何かやらかして、呼び出されねぇと良いな」

 中山が俺をからかって、ニヤニヤと笑った。
 俺はいささかムッとして、声をる。

「しっつれいなヤツだなぁ、そんなに呼び出されてねぇよっ!」
「今日も出勤早々、呼び出されてたじゃんか。ま~た、悪さしたんだろ?」
ちっげぇよ! あれはなぁ……っ!」

 言い掛けて、言葉を切った。
 急に黙り込んだ俺に、スタッフ達が不思議そうな目を向けてくる。

「どうした?」
「ん~……。うんにゃ、なんでもねぇ」

 俺は、小さくため息を吐き出した。
 今日から、俺は専務になった。
 ミッチェルの遺産を継いだってだけで、急に偉くなっちまった。

 つっても、名ばかりの「なんにも専務せんむ
「何もしない」→「なんにもせん」→「なんにもせんむ」

 急に「専務の業務にけ」って言われたって、出来るワケがない。
 だって、俺、今までただのバイトだったんだぞ。
 部長も、「バイトじゃ格好かっこうが付かないから、役職を付けただけ」って言ってたし。

 いつもの仕事っぷりを見ている部長なら、今の職場にいた方が助かるだろうし。
 大事な仕事を任せられるような人間じゃないって、分かっているんだ。
 そんなワケで、今までと何ら変わることなく、搬入作業はんにゅうさぎょうを手伝っている。

 幸い、異動いどう辞令じれいは俺にしか知らされていない。
 その方が、こちらもありがたい。
 人からもらった金で昇進しょうしんしたって、嬉しくも何ともない。
 昇進するなら、自分の実力を認められて昇進したかった。

 職場の人間は、誰も知らない。
 知らないままでいてくれと、願う。
 今まで通り、等身大とうしんだい(ありのまま)の川崎虎河としてっして欲しい。
 もう少し、このままで。 
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