ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第40話 Great Old Ones

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 仕事を終え、退社して駐車場へ向かっていた時。
 横を歩いていた桜庭が、ふいに足を止めた。

「ご主人様」

 声を掛けられて振り向くと、桜庭が何やら深刻しんこくそうな顔をしている。
 俺は急に心配になり、桜庭の顔をのぞき込む。

「どうした?」
「ご主人様にとって、僕はなんでしょう?」
「は?」

 真剣な口調で問われて、俺は思わずぽかんとなってしまった。
 俺にとって、桜庭は何か?
 そんなの、分かりきっている。

「桜庭は、執事だろ?」
けん秘書ひしょです。ですが、それだけではありません」

 俺と桜庭は、主人と執事。
 執事は、金でやとわれているだけの存在。
「金がなくなったら、さようなら」の関係。
 俺らは、そういうつながりしかない。
 それ以上、何があるってんだ?

「何が言いたいの? お前」
「僕は加藤弁護士かとうべんごしのように、ご主人様の力になりたいのです。ですが、僕はあなたにおつかえすることしか出来ません」

 くやしそうにうつむいて、桜庭は手を強くにぎった。
 なんだ、そういうことか。
 コイツは、俺の横で加藤先生の話を聞くことしか出来なかった。
 それが、悔しかったのだろう。
 俺は苦笑して、なぐさめの言葉を掛ける。

「何言ってんだよ。加藤先生は加藤先生、桜庭は桜庭だろ? 加藤先生は弁護士だし、お前は執事だ。お前は充分じゅうぶん執事として、役に立ってるよ」
「ご主人様……」

 桜庭は顔を上げて、強張こわばっていた頬を、少しゆるめた。

 その時だった。

 街の雑音に混ざって、プシュッという小さな音が聞こえた。
 音とほぼ同時に、俺の首の後ろに激痛げきつうが走った。

「ぃ……っ!」
「ご主人様っ?」

 俺の変化に気が付いた桜庭が、戸惑とまどいと心配の混じった声を上げた。

 突然、心臓がバクバクと忙しなく動き出して、鼓動こどうが痛い。
 必死に息を吸っているはずなのに、空気が入ってこない。
 痛みと苦しさで涙がにじみ、視界しかいがぐにゃりとゆがんだ。

 なんだこれ?
 全身の力が抜けていく。
 自分の体が重くて、立っていられない。
 その場にくずれ落ちた俺を、桜庭が慌てて抱える。

「ご主人様っ!」

 耳鳴みみなりに混ざって、桜庭の叫び声が聞こえた。
 桜庭の声に被るように、複数の足音が聞こえた。
 俺はどうにか顔を上げて、周りを見回した。
 俺と桜庭を取り囲むように、黒い背広に黒いネクタイをした男たちが立っていた。
 怒気どきをはらんだ荒い口調で、桜庭がするどく声を張る。

「ご主人様に、何をしたっ?」
「ちょっと、薬を打っただけですよ。そのまま放置しておけば、死にますよ」

 静かな声で、ボスらしい中年男が俺らに手を伸べてきた。
 桜庭が絶望に染まった声で、つぶやく。

「ご主人様が、死ぬ……?」
「ええ、間違いなく。彼を助けたければ、大人しく我々についてきて頂けませんか?」

 桜庭は悔しそうに顔をゆがめると、怒りを押し殺した低い声で「分かりました」と答えた。
 ボスらしき男は、満足げに頷いて歩き出す。

「よろしい。では、こちらへ。歓迎致かんげいいたしますよ」

 桜庭は動けない俺をお姫様抱っこして、男たちの後をついていく。
 コイツら、何がねらいだ?

 もしかして、コイツらが「Great Old Onesグレードオールドワン」か?
 世界中を暗躍あんやくする謎の犯罪組織はんざいそしきGreat Old Ones偉大なる古きもの
 その実態じったい規模きぼ、目的などは謎に包まれている。

 俺がミッチェルの遺産いさん相続そうぞくしてからの3ヶ月間、「Great Old Onesグレードオールドワン」に動きはなかった。

 俺が相続しなかった場合、遺産はヤツらに寄贈きぞうされることになっていた。
 ヤツらが何をたくらんでいるかは、分からない。
 生前のミッチェルが、ヤツらとどんな繋がりを持っていたかも不明だ。

 もし、ヤツらがそれだけの活動資金かつどうしきんを得たら、何をしでかすか。
 だが、俺が相続したことにより、それは無事回避ぶじかいひされた。

 相続することによって、「Great Old Onesグレードオールドワン」に逆恨さかうらみされるかもしれないと、気には掛けていたが。
 まさかこんな形で、実現じつげんするとは思っていなかった。
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