ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第41話 拉致

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 警告音けいこくおんのように、心臓がバックンバックンと激しく脈打みゃくうっている。
 ヤベェな、マジで死ぬかもしんねぇ……。

「ご主人様……」

 俺を抱きかかえた桜庭が、真っ青な顔して情けない声で呟いた。
 周りを取り囲む黒服集団くろふくしゅうだんに、ビビり散らかしてんだろう。
 可哀想かわいそうに、俺のせいで怖い思いをさせちまった。
 俺はムリヤリ笑顔を作って、弱々しい声で、桜庭に話し掛ける。

「わりぃ、桜庭……巻き込んじまって……」
「そんな、ご主人様っ。あなたは、何も悪くありませんよ」

 桜庭の顔が、今にも泣き出しそうにゆがむ。

「それより、ご主人様が……」
「心配すんな。そう簡単に、くたばったりしねぇって……」

 精一杯の強がりをして、明るい笑顔を作った。
 いや、作ったつもりだった。
 たぶん引きつった、笑顔には見えない顔だったのだろう。
 桜庭がますます辛そうに、目をせた。

 黒服の男達は、桜庭を黒塗りの車へと誘導ゆうどうした。
 ヤクザが乗っていそうな、高そうな真っ黒な車。
 黒服のひとりが後部座席のドアを開けると、ボスと思われる男が先に乗り込んだ。

「川崎さんを、乗せて下さい」

 桜庭は渋々俺を下ろして、後部座席へ座らせた。
 桜庭が続いて乗ろうとしたところ、別の黒服の男に腕を掴まれて止められる。

「執事は、助手席だ」
「なん……だと……?」

 低い声で、桜庭が腕を掴んだ男をにらみ付けた。
 ゆったりと落ち着いた様子のボスが、桜庭にニィッと笑い掛ける。

「川崎さんは、大事なお客様ですからね。これ以上、傷付けることはございませんから、どうぞご安心下さい」
「貴様……」

 桜庭がうらぶしとなえると、ボスは楽しげに目を細める。

「良いんですか? このままでは、川崎さんの命は保障出来ほしょうできませんよ?」

 悔しそうに小さくうめいた後、桜庭は俺を見た。
 俺は何も言わず、ただひとつ頷いた。
 桜庭が黙って頷き返すと、助手席へと乗り込んだ。
 それを確認すると、桜庭を止めた男が俺の横へ座った。

「そうそう。大人しくしておいた方が、身の為ですよ」

 含み笑いをしながら、ボスが嬉しそうに言った。
 体が動けば、そのふてぶてしいツラをぶっ飛ばしてやるのにっ!
 どうにか顔を上げて、ボスの顔を睨んでやると、ボスは少し驚いたように笑う。

「おやおや、怖いお顔だ。でも、安静にしていた方が良いですよ。あまり興奮すると、薬の周りが早くなりますから」

 そう言われて「そうですか~。じゃ、安静にしてますね~☆」なんて、言えるハズがない。
 俺は黙って、座席に体をゆだねた。

 走り出した車が、どこへ行くのか。
 それは、ヤツらにしか分からない。
 このまま、天国へ連れて行かれるのかもしれない。

 そうなったら、ミッチェルの遺産はどうなるんだろう?
 やはり、ヤツらの手中しゅちゅうに収まるのだろうか。

 それよりも、桜庭に身の危険はないのか?
 せめて、桜庭だけは安全に返してやりたい。
 例え、俺が死んだとしても、桜庭には手を出さないでくれ。

 車が走り出してまもなく、俺の左横に座っていたボスが、俺を挟んで右に座っている男に声を掛ける。 

「おい」
「はい」

 俺の横に座っていた男が、助手席に座っていた桜庭の背後から、黒い帯で目隠しをした。

「我々のアジトを知られては、困りますんでね。しばらくの間、目をつぶっていて下さい」
「く……っ!」

 悔しそうな声を漏らしたが、桜庭は抵抗しなかった。
 俺は元々薬物を盛られて動けないから、されるがまま視界を奪われた。
 目隠しなんてされなくたって、気持ち悪くてずっと目を閉じていたから、意味ないんだけどな。
 頭をグルングルンシェイクされて、心臓は激しく鼓動し、内臓がせり上がる感覚がして、気持ち悪い。
 忙しなく浅い呼吸を繰り返すが、苦しさは改善されない。

「ご主人様……」

 切なそうな声で、桜庭が俺を呼ぶ。
 ああ、ごめんな、桜庭。
 囚われた上に視界まで奪われて、不安でたまらないんだろう。
 助けてやりたいのに、助けてやれない。
 俺は無力だ。
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