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第43話 中和剤
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「あ、これ、俺、死んだわ」と諦めた、その時。
応接室の扉の向こうが、急に騒がしくなった。
大勢の男たちの雄叫びや悲鳴、殴る蹴るの鈍い音、発砲音、何かが壊れる派手な音が聞こえてきた。
「なっ? なんだっ?」
応接室にいた全員が、音がする方向へ視線を向けた。
ややあって、応接室の扉が大きく開け放たれた。
「ご主人様! ご無事ですかっ?」
「助けに参りましたっ!」
現れたのは、うちの執事たち。
執事達を見たボスや黒服たちが、ドヨめく。
「どうしてここがっ?」
「何だ、お前らはっ? おかしな格好しやがってっ!」
「コスプレ野郎どもが、何しにきやがったっ?」
「ここは、イベント会場じゃねぇぞっ!」
的確なツッコミありがとう、黒服の皆さん。
場違いな格好なのは、俺も認める。
お恥ずかしながら、うちの執事たちです。
「服を着ろ」っつったら、何故か急にコスプレにハマり出して、俺も迷惑しているんです。
椿が満面の笑みで、バチン☆と、ウィンクひとつ。
「あらぁ、アタシ達を舐めてもらっちゃ困るわぁ。こんなこともあろうかと、ご主人様のお洋服には、発信機と盗聴器とカメラが仕込んでありましたの♪」
うわ、マジか。
じゃあ、今までの会話も全部筒抜けだったってことかよ。
それって、プライバシー侵害にならないの?
いや、そのお陰で助かったんだけど。
「お前らの悪事も、ここまでだっ! さぁ、中和剤を渡してもらおうかっ!」
橘が、正義のヒーローのように言い放った。
それを聞いたボスが、豪快に笑い始める。
「ふはは……っ! 中和剤なんてものは、元からありませんよっ! 川崎さんには、最初から死んでもらう計画ですからねっ!」
「「「「え?」」」」
執事たちが、一斉に蒼褪めて固まった。
高らかに笑いながら、ボスは続ける。
「川崎さんが死ねば、遺産は我々のものですっ! 交渉なんて、意味がなかったのですよっ!」
「そんな……」
桜庭は絶望に打ちひしがれて、うな垂れた。
肩を落とした桜庭に桔梗が近付き、優しく声を掛ける。
「諦めないで下さい、桜庭さん。ぼくが、何とかします」
「桔梗さん……」
悲壮感に彩られた桜庭の顔に、少しの希望が浮かんだ。
桔梗はにっこりと微笑んで力強く頷くと、執事達に声を張る。
「ご主人様は、何としてもお助けします! 皆さん、道を開けて下さいっ!」
「もちろん!」
「任せてちょうだいっ!」
「ご主人様を、お願いしますっ!」
橘と椿と田中が、威勢良く返事をして銃を構えた。
どこで手に入れたんだ、その拳銃。
きっと黒服を倒して奪ったのだろう。
「させるかっ!」
応接室に控えていた黒服達が、怒声と共に拳銃を取り出して、銃口をこちらへ向けた。
桔梗はどこにそんな力があったのかと思う力で、重厚なテーブルを引き倒し、即席の防壁とした。
橘と椿と田中を残し、俺を抱えた桜庭と桔梗が応接室を飛び出す。
廊下には、何人も黒服達が呻きながら倒れていた。
倒れている黒服達を見て、俺はどうにか声を絞り出して、桔梗に問う。
「これ全部、お前らが?」
「これでもぼくたちは、それなりに経験を積んでいますからね。壊滅とまではいきませんが、特攻を仕掛けるくらいは出来ますよ」
得意げに、桔梗が笑った。
執事は全員、鍛え上げられた良い体してるもんな。
金と権力を持っていると命を狙われるから、要人警護任務《ようじんけいごにんむ》の役割も担っているのか。
外へ出て、桔梗が黒塗りの車の運転席へ乗り込むと、桜庭も俺を抱えたまま後部座席へ乗り込んだ。
車が走り出すと、桜庭が必死に俺に話し掛けてくる。
「ご主人様、絶対にお助けしますから」
俺は何か言おうと口を開いたが、声は出なかった。
猛烈な睡魔が襲ってきて、「眠ったら死ぬ」と悟った。
俺、もうすぐ死ぬんだ。
この3ヶ月は、人生のあらゆる出来事を凝縮したみたいな目まぐるしい日々の連続だった。
大変だったけど、悪いことばかりでもなかったな。
そんなことを考えていたら、意識が途絶えた。
応接室の扉の向こうが、急に騒がしくなった。
大勢の男たちの雄叫びや悲鳴、殴る蹴るの鈍い音、発砲音、何かが壊れる派手な音が聞こえてきた。
「なっ? なんだっ?」
応接室にいた全員が、音がする方向へ視線を向けた。
ややあって、応接室の扉が大きく開け放たれた。
「ご主人様! ご無事ですかっ?」
「助けに参りましたっ!」
現れたのは、うちの執事たち。
執事達を見たボスや黒服たちが、ドヨめく。
「どうしてここがっ?」
「何だ、お前らはっ? おかしな格好しやがってっ!」
「コスプレ野郎どもが、何しにきやがったっ?」
「ここは、イベント会場じゃねぇぞっ!」
的確なツッコミありがとう、黒服の皆さん。
場違いな格好なのは、俺も認める。
お恥ずかしながら、うちの執事たちです。
「服を着ろ」っつったら、何故か急にコスプレにハマり出して、俺も迷惑しているんです。
椿が満面の笑みで、バチン☆と、ウィンクひとつ。
「あらぁ、アタシ達を舐めてもらっちゃ困るわぁ。こんなこともあろうかと、ご主人様のお洋服には、発信機と盗聴器とカメラが仕込んでありましたの♪」
うわ、マジか。
じゃあ、今までの会話も全部筒抜けだったってことかよ。
それって、プライバシー侵害にならないの?
いや、そのお陰で助かったんだけど。
「お前らの悪事も、ここまでだっ! さぁ、中和剤を渡してもらおうかっ!」
橘が、正義のヒーローのように言い放った。
それを聞いたボスが、豪快に笑い始める。
「ふはは……っ! 中和剤なんてものは、元からありませんよっ! 川崎さんには、最初から死んでもらう計画ですからねっ!」
「「「「え?」」」」
執事たちが、一斉に蒼褪めて固まった。
高らかに笑いながら、ボスは続ける。
「川崎さんが死ねば、遺産は我々のものですっ! 交渉なんて、意味がなかったのですよっ!」
「そんな……」
桜庭は絶望に打ちひしがれて、うな垂れた。
肩を落とした桜庭に桔梗が近付き、優しく声を掛ける。
「諦めないで下さい、桜庭さん。ぼくが、何とかします」
「桔梗さん……」
悲壮感に彩られた桜庭の顔に、少しの希望が浮かんだ。
桔梗はにっこりと微笑んで力強く頷くと、執事達に声を張る。
「ご主人様は、何としてもお助けします! 皆さん、道を開けて下さいっ!」
「もちろん!」
「任せてちょうだいっ!」
「ご主人様を、お願いしますっ!」
橘と椿と田中が、威勢良く返事をして銃を構えた。
どこで手に入れたんだ、その拳銃。
きっと黒服を倒して奪ったのだろう。
「させるかっ!」
応接室に控えていた黒服達が、怒声と共に拳銃を取り出して、銃口をこちらへ向けた。
桔梗はどこにそんな力があったのかと思う力で、重厚なテーブルを引き倒し、即席の防壁とした。
橘と椿と田中を残し、俺を抱えた桜庭と桔梗が応接室を飛び出す。
廊下には、何人も黒服達が呻きながら倒れていた。
倒れている黒服達を見て、俺はどうにか声を絞り出して、桔梗に問う。
「これ全部、お前らが?」
「これでもぼくたちは、それなりに経験を積んでいますからね。壊滅とまではいきませんが、特攻を仕掛けるくらいは出来ますよ」
得意げに、桔梗が笑った。
執事は全員、鍛え上げられた良い体してるもんな。
金と権力を持っていると命を狙われるから、要人警護任務《ようじんけいごにんむ》の役割も担っているのか。
外へ出て、桔梗が黒塗りの車の運転席へ乗り込むと、桜庭も俺を抱えたまま後部座席へ乗り込んだ。
車が走り出すと、桜庭が必死に俺に話し掛けてくる。
「ご主人様、絶対にお助けしますから」
俺は何か言おうと口を開いたが、声は出なかった。
猛烈な睡魔が襲ってきて、「眠ったら死ぬ」と悟った。
俺、もうすぐ死ぬんだ。
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